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なんやかんやあったけど、無事カイゼル君と合流してあれこれ品を見せてもらいながら話していたら意外なことがわかった。
予定よりちょっと遅れて行ったもんだから心配されたけど、事情を話したら納得してもらえたよ!
アランを含む【砂漠の荒鷲】は元々幼馴染で、カイゼル君とマルセル君も同い年なんだってさ。
「とはいえ、ボクらは彼らに……というか、アランに嫌われていたと思います」
「特にカイゼルに対してアイツすげー突っかかってくんの!」
アランは昔から行動力があり、結果を出すだけの身体能力があった。強引さは目立つものの、人の話を聞いて引っぱっていく統率力もあった。
同時に、傲慢さもあったがそれを差し引いても将来性があると判断されたのだろう。
カイゼル君は元々冒険者には不向きだと自覚していたし、学問に……とりわけ経済に興味があったので行商人への道を早くから決めていたんだってさ。
「アランから見たら、そんなボクは軟弱者に見えたようで……」
「商人の町で何言ってんだ? って思うだろ? オレも思ったさ、笑えるよな!」
ケラケラと笑うマルセル君は心底楽しそうだ。
カイゼル君は微妙な表情をしているが、なるほどなんとなく関係性は良くなかったであろうことは伺える。
「最近は特に功を焦っているという話を聞きました。アルマさんは許可が下りたようですが、アランには下りなかったんじゃないでしょうか……確かに彼らはシルバー級の冒険者ですが、経験が圧倒的に少ないことを考えれば妥当な判断だと思います」
「まあ、そうだろうねえ」
だけど、それを納得できるかどうかってのは本人たち次第だし。
あの三人で言えばアランだけが納得していないってとこなんだろう。
(ふうん、まあ私はどっちでもいいけど)
別にダンジョン探索なんて競ってやるもんじゃないしね。
誰かがクリアしたからってダンジョンが消えるものでもないし。
いやまあ、誰かがダンジョンをクリアすると一定期間活動が大人しくなるから冒険者の立場で言えば狩り場の実入りが悪くなるから、切実な問題ではあるんだけどさ!
「それでは次にお会いする時はお二人がダンジョンから帰還した後ということになるでしょうか?」
「そうだねえ、そうなるかな」
「でしたら、是非ダンジョン内で手に入れた物を売却なさる際にはボクのことも思い出していただけたらと思います。決して損はさせないとお約束いたしますので……」
「いいよー」
「ありがとうございます!」
躊躇うことなくオッケーを出した私も私だけど、それを素直に喜ぶカイゼル君もなかなかなもんだ。
隣でイザベラが驚いたように何度も目を瞬かせているけど、私に含むところがあるとわかっているから何かを言うことはなかった。
いやあ、賢い妹を持つと本当に楽だねえ……これに甘んじてないでお姉ちゃんもかっこいいところ見せないと。
ダンジョンから出た品ってのはゴミ同然のものもあるけど、同時に価値があるものが出るととんでもないブツだったりすることもある。
だからどんな品であれ、他の誰よりも先に見ておきたいのは商人として当然のことであり、売却先についてより値をつけてくれるであろう商人を選ぶのは冒険者として当たり前なのだ。
冒険者ギルドに多少は持って行かなきゃいけない場合もあるけど、それはギルドからの依頼があったりした場合ね。
後は他の冒険者の遺品とか、ピンチの際に救助してもらった時とかはギルドを仲介して報酬分割とかそういうこともあるけど、まあ今回に関してはそういうこともないし。
「あ、そうだカイゼル君。お酒とかの取り扱いってあるかしら?」
「お酒ですか?」
「そ。ドラゴナワインの年代指定なんだけど……」
「……心当たりはあります。贈答品ですか?」
「うん、まあ、ねえ。恋人に贈りたいなあと思ってさ」
ドラゴナワインはこの世界で貴重なワイン。
とあるエンシェントドラゴンがとある人間に出会い、ワインの味を覚え、彼らは一緒に最高のワインを作り出した……って伝説があるんだけど真偽の程はわからない。
父さんに聞けばわかる気もするけど、こういうのは伝説だからいいと思うのよね。
夢は夢のままのほうがいいことってあるでしょ?
「さてじゃあ色々準備も調ったし、カイゼル君たちは吉報を待っててね」
「ご武運を。マルセルとワインを準備してお待ちしております」
「イザベラちゃんも頑張ってな!」
「はい!」
私たちはカイゼル君の店を後にして、帰路につくのだった。




