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ざっくり言うと、痩せたエドウィン君は男前に成長していた。
ヴァネッサ様が育てたといっても……じゃなかった、ライリー様の元、カルライラ辺境伯の私兵として日々訓練に励んだたまものってヤツだろう。
彼によるとなんというか、私の予想していない事態が王国で起きているとのことだった。
ディルムッドがカルライラ辺境地に一度戻ったのもこれが関係してのことだという。
まとめるとこうだ。
私たちが去ってしばらくはいつも通りの日々が過ぎていた。
巷では悪役令嬢の物語が流行し、それを模した人形劇が流行したり、イザベラ=ルティエの死を悼んだり。
それでも人々の記憶から、そういったことはどんどんと忘れられていった。
『始まりは、修道院にいたエミリアが脱走をしようとして連れ戻されたあたりから奇妙なことが起こり始めたんだ』
エドウィン君のところにも助けを求める手紙が来ていたそうだけれど、彼は今や平民で、役目をいただいている兵士だから無理だと返していたんだそうだ。
一度は傾倒した相手だ、気になることは気になっていたけれど、修道院にいるなら最低限の衣食住は保障されているし、いずれは自分と同じように己の所業を悔いることもあるだろうと手紙のやりとりは拒否していなかったらしい。
さすがに幼馴染とはいえ、幽閉が確定している王子とはそんなやりとりが許されることはなかったけれどエミリアさんに関しては聖女のお勤めをして反省が見られるということで、手紙くらいは自由になっていたんだろうとイザベラが予想していた。
『……その異変を誰もが感じたのは、国王陛下がお倒れになられてからだと思う』
国王が倒れ、次いで王妃が倒れた。
それも原因不明だという。
人々の噂にそれが出るなんてあってはいけないことなのに、人の口に戸は立てられぬってやつだったのか……とにかく、その話はあっという間に王国内に広がったんだそうだ。
誰が言ったか知らないが、イザベラ=ルティエが死んだのは陰謀で、悪役令嬢に仕立て上げられたからとか……聖女を嵌めたやつがいるから、神がお怒りなのだとか……。
あり得そうな範囲だけど、色々内情漏れてるからきっと貴族の誰かだろうってことで調査も入ってるんだとか。
とはいえ、両陛下が倒れたと言ってもそれで国が揺らぐわけではない。
こんなんでも跡取りの王子がいるわけだしね!
どんだけ間抜けだとしても、それを国民に説明したわけではないので……。
しかも、内々に側室候補の年上女性との間に子供ができたらしい。
やったね、パパだよ!!
……なんて喜べる事態でもなかった。
「つまり、王子は人身御供かあ……」
不穏な情勢を感じ取ったのか、国内で商人たちが撤退する様子を見せている。
今はまだ大きな動きではないが、最終的には王国の衰退に繋がるに違いない。
ならば、ここで一度商業ギルドのトップたちと会談を設けて力を貸してもらわねばならないだろう。
誠意を持って、王家の代表として。
たとえば、その途中で不慮の事故があろうと、あちらから彼の身柄を求められたとしても、すでに愛妾の腹には王家の血筋が繋がっているのだ。
(幽閉が確定した、哀れな種馬王子の末路がこれではさすがの私も笑えないわあ)
そんでその旅に最低限の護衛をつけるって話になって、王子がエドウィン君を指名したんだってさ。彼が護衛につかないなら、自刃してでも行かないと言い張った。
国のお偉いさんからしたらいってもらわないと困るし、一兵士の意見なんざどうでもよいってことで命令が下って今に至るってわけ。
「だからって往来でイザベラに突進してくるのはいただけないよね」
「……本当に申し訳ない。ここに来るまでは大人しかったんだ」
「まあ、エドウィン君が遠慮なしに王子のこと締め付けて大人しくさせてくれたから今回は目を瞑ってあげる」
まったくね、闘牛かよっていう突進だったね!
ちなみに今、問題の王子はあまりに暴れて話にならなかったのでエドウィン君が気絶させてから彼らが滞在する建物に運ばれていったんだよ!!
強くなったねえ、エドウィン君。
おねえちゃんは嬉しいよ! きみのお姉ちゃんじゃないけど!!




