3-7
「あーあ」
どうすっかねえ。
ああいう意地っ張りなタイプは私が間に入ったところで納得なんてしないんだろうなあ。
かといって放っておけば負け確定なんだけど。
ある程度やばくなってから『砂漠の荒鷲』のボウヤたちだけ魔法で外に弾き飛ばしてやろうか、そうしたら静かに探索もできるってもんなんだけど!
(まあそうはいかないよねー)
彼らのことを冒険者ギルドとアンドラスに任されちゃってんだよなあ。
お守りを任されて、扱うのが面倒だからとりあえず体験させて放り出すってのはまあ、依頼達成度でいえば……だめでしょうね。うん。
呆れつつもとりあええずヤバそうなら助けるか……と思ったところで、視界の端にアランの方へと行こうとする二人の姿が見えた。
「アラン……!」
「今おれたちも行くからな!」
ワオ、友情ってやつ?
まあ、ここで自分の身だけ守るようなやつらだったら今後パーティーなんて組んでいられないだろうけど。
(でもここで必要なのは、撤退を選択する勇気なんだよなあ)
冒険者はそりゃ自由気ままでいいだろう。
物語にあるような英雄譚だって叶えられるかもしれない。
でもまあ、それも命あっての物種ってやつなのだ。
「ん、まあしゃーないね」
そのためにも相手の力量を見て〝退く〟ことを知るのは大切なこと。
相手が強すぎて逃げられない……なんてことだってこれからいくらでもあるんだから、退ける時は遠慮なく退いていいのだ。
だって私たちは英雄ではない。冒険者だ。
(一回二回、ゴーレムにぶん殴られたら諦めてくれるかね)
はー、やれやれ。
慣れない子守は頭を使うから困っちゃう。
そんなことを思いながらちらりと離れたところで私の言いつけを大人しく守っているイザベラに視線を向ける。
彼女は困ったようにしてはいるものの、きちんと魔力を体に巡らせて自分の周囲に結界を張り、いつでも私が合図をしたらこちらに来られるようにしている。
うんうん、感心感心。
別に妹可愛さに目が曇っているわけじゃないぞ!
実際、イザベラは優秀なんだからな!
場数が圧倒的に足りないだけなので、これからもこういうのを経験していけば立派な冒険者になれると私は思っているよ。
「ん……あれ?」
ぼんやりとそんなことを考えている間も『砂漠の荒鷲』とゴーレムの戦いは始まっていて、アランとベックが敵の攻撃を引き受けつつリッツが魔法を唱えている姿に視線を戻す。
まあ、連携は悪くないだろう。
でもなあ、やっぱり補い合うことを知っていてもそれが頭でっかちって感じだなあ。
それよりも気になるのは、ゴーレムに模様があるってことだ。
私の立ち位置からでは正面しか見えないけど……あれ、古代王国の文字じゃないか?
「んー……『立チ入ルベカラズ』? ってことはあれは守護者……じゃあなさそうだし」
ダンジョンのボスでないことは確実だけれど、あの文字はもう少し読んでみてもいいかもしれない。
ちょうど盾役のベックが吹っ飛ばされたタイミングでリッツの火球の魔法が完成した。
けれどその魔法をいとも簡単に握りつぶされて愕然とする二人の眼前に、ストーンゴーレムが悠然と歩み寄り――拳を振り上げる。
「はーい、そこまでぇ」
私は『砂漠の荒鷲』の間に割って入り、ニッコリ笑みを浮かべて挨拶をするようにストーンゴーレムを見上げてやった。
「お、お前……なんで出てきた! お前なんかが出てきても……!!」
「そ、そうですよ逃げましょうよ!」
「うーん、その判断もうちょっと前にできてたら合格ギリギリだったのにねえー」
「へ? ご、ごうかく……?」
リッツがその場にへたり込みながら繰り返したけれど私は気にすることなく片手を高く上げて軽く振る。
これでイザベラには伝わるだろうし、こちらに来がてらベックを回復してくれるに違いない。あの子は言わずとも察する能力が高いからね!
「おれの、えものに……手を出すな!!」
「三人がかりで手も足も出せなかったボウヤはそこでちょいと見学してなさい」
いいもん見せてあげるから。
そう言ったけれどアランにどれだけ聞こえたかはわからない。
でも、私としてはここがベストタイミングだと思うのよねえ。
下手に彼らが奮起してゴーレムに傷でもつけたらこちらが困っちゃうもの。
振り下ろされるゴーレムの腕は、私に届かない。
だって私の魔法は、既に完成していたからだ。
緑のツルがゴーレムを縛り上げて身動きが取れなくなっているのを確認してから、私はこれで心置きなく調査ができるなと満足したのだった。




