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結局、情報提供料として私の提案した現金一括払い案は却下された。
というのも、今この町ではその『古代王国』の遺跡が一部ダンジョン化したものがあり、調査が必要であると判断が下されたのである。
(まあ、妥当な話だよな……)
ダンジョン出来たけどまあいっかで放置はよくないっていうし。
何故ダンジョンが生まれるのか、それについてはわからないこともおおいけれど、魔力溜まりが起きた場所で自然発生するものと定義づけられている。
で、できあがったダンジョンは新旧関係なく、何故か魔物が生まれる。
ここで定義される魔物はダンジョンの内部を住処とし、そこに生態系を作り出すものだ。外に持ち出すことも可能であるが、基本的には自分の縄張り……すなわち、ダンジョンから離れることをよしとせず、凶暴で危険極まりないものとして知られている。
なんで生き物が唐突に生まれて、魔法から生まれた生物なのに生殖能力があって、縄張りにこだわるのか……この原理は不明だが、問題はここからだ。
「ダンジョンがいつ出来たかとかもわかっちゃいない。なんせ崩れそうな遺跡だったからなあ……だが、だからこそスタンピードの可能性を考えて調査が必要だと判断が下された」
「……スタンピード、ねえ」
「聞けばオリアクスの娘は宝石級の冒険者じゃねえか、うってつけだろう?」
スタンピードと呼ばれるものがある。
ダンジョンが魔力溜まりから生まれたなら、スタンピードはその魔力溜まりが再びダンジョン内部で発生した結果魔物を大量に生み出すものとされている。
大量に生まれた魔物はどうなるのか?
ダンジョンの内部を住処にしている彼らの中で縄張り争いが行われ、負けた者が出てきてしまうのだ。
ああ、なんて単純明快!
「強力な悪魔がお二人揃って放置する程度なんでしょ? じゃあわざわざ私が出向く理由には足りないと思うけど?」
たかが情報料、されど情報料。
冒険者としては割と真っ当な指名依頼だろうけれど、ハイハイと大人しく引き受けてあげるいわれもない。
最悪、情報は父さんに交渉頑張ってもらえばいいかな!
「まぁな、オリアクスいかせりゃ済む話なんだが……スタンピード起きててもコイツならとっとと片付けて戻ってこれるだろうし。普段仕事してねーんだからそのくらいしてくれって話だよ、ホント。娘さんたちからも言ってやってくれね?」
「それを言うなら貴様は悪魔界での職務をサボって我が輩が代わりに二人分働かされる羽目になったではないか。そのせいでアルマが生まれる瞬間に立ち会えず、再会するまでに十年以上を費やすことになったのだぞ? 人間の成長の早さ、命の短さを考えればそれがどれほどまでに重い罪か考えてもらいたいものだがね」
「ハア~~~~~~~~~~? お前、それ言う? それ言うならそもそも悪魔界の仕事の件、お前がオレを連れ戻せとか言われず魔王様に二人分働かされたのはほぼほぼ人間界にいるお前のせいだろ、たまには悪魔界に貢献しろって話で」
何故か言い争いになり始めた二人はどうやら仲良しらしい。
悪魔界からの付き合いなんだ? いや、悪魔同士だからそうなんだろうけど。
「じゃあそれでいいじゃない」
「あーそれが良くないから依頼しようかなと思ったんだよ。なまじっかな連中に頼むより早そうだし、それに今回の情報にも関係あるし」
「へえ?」
「そうだなあ、それ以外にもイロつけて情報をやるぜ?」
「例えば?」
「前払いでオリアクスについて、なんてどうだ?」
「乗った」
「アルマ!?」
父さんがギョッとした表情を浮かべたのを見て、私は笑う。
そうなんだよねえ、父さんってば私の過去についてはあれこれ知りたがるくせに、自分の悪魔界での話はあまりしたがらないからさ!
相互理解がどうたらって言う割には秘密主義、ってことは悪魔界にいた頃はさぞかしヤンチャだったのでは?
「いいぜ、じゃあ教えてやろう。そいつの得意な魔術は水と氷、人間界にあるイーラと呼ばれる氷の島はコイツが以前ブチ切れかけた時に作り出したモンなのさ」
「アンドラス、貴様……!!」
へえー、本当に島一つ作ったことがあるんだ……。
じゃあ私がホシイってあの時言っていたら本当に作ってくれてたのか……言わなくてよかった! チラッとでも国だの大陸だのほしいと思ったことはないけど!!
しかし父さんでもブチ切れかけるとかあるんだなあとなんとなく微笑ましく思ったところで、アンドラスはにんまりと笑って私に告げた。
「そして我らが国テラ=ディアボリの八人いる公爵が一人なのさ。俺もだけど」




