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悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~  作者: 玉響なつめ
三部 第一章 砂漠の国に咲く花の名前は

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3-2

 私たちがこの町に来たのは、ちゃんとした理由がある。

 イザベラが『砂漠を見たことがない』って言ったから観光しに来たわけじゃないよ!

 それも大いにあるけども!!


 商人たちの自治区ってだけあって、ここには大手の商会が揃っているんだけど、その中でも最大手と呼ばれるソロニア商会……父さんが所属している商会の本拠地がここなのだ。

 悪魔である父さんが所属しているっていうだけあって、まあ……その、なんだ。

 商会長も悪魔なのである。

 しかも商会は表向き今、七代目だかなんか名乗っているけど同じ悪魔だってんだからもう笑っちゃうよね!


 で、その商会長さんが私たちに会いにわざわざ足を運んでくれたっていうんだから、どう対応したもんか。


「うむ。あやつは我が輩と同じ悪魔なのだが、商売などで人間の欲望が動くのを楽しんでおってなあ。その流れで例の聖女信仰をしている連中について調べてくれると言うておったのだが……何か有益な話を見つけてきたやもしれん」


「そりゃあ会わないとねえ」


 前世で見た物語、それをフェザレニアの王女様は事実であるかのように語ったけれど、私から言わせてみればどうにもきな臭い。

 色々違うことになっているのは私が介入したって部分もあるから多少の責任は感じちゃいるけど、それ以外にもあれこれありすぎでしょ?


「姉様……」


「イザベラはどうする? まだ顔色が良くないからね、寝ていてもいいよ」


「いえ、わたくしも同席させてくださいませ!」


「おおう、食い気味」


 もう、置いていったりしないってばあ。

 本当にうちの妹ってば可愛いんだから!


 思わず頭を撫でたら拗ねちゃった。あらら。


「それじゃあまあ、折角いくつも部屋があるトコ借りられてるんだし客間っぽくおもてなしすりゃいいのかしらね?」


「あやつにそんな丁寧なモン、必要ないと思うが」


「いやいや、一応父さんの上司みたいなモンでしょ」


「悪魔の世界では同等なのだがねえ」


 からりと笑った父さんと違って、私はその瞬間ベッドに飛び込んでイザベラを抱くようにして庇い、剣を抜いていた。

 ぞわぞわと背筋が粟立つ感覚は、脅威を感じたからだ。


 それでも父さんがのほほんとしているところを見て、力を抜く。

 イザベラはキョトンとしていた。


「同等とは言ってくれるな、オリアクス」


「娘らを驚かせた分、後で慰謝料を払ってもらおうかの」


「がめついな!」


 ゆらりと地面がまるで蜃気楼のように揺らめいたかと思うとそこからぬるりと昏い紫色の何か(・・)が這い上がり、形を成す。

 それが人の姿になるまで、数秒もかからなかったと思う。


「しかし良い反応だ。おれは気配も魔力も、なにもかも(・・・・・)隠しきっていたのにな!」


「ソリャドーモ」


「もしも娘たちに害意が塵一つ分でもあれば即座に消しておったわ」


「おいオリアクス、そりゃあねーぜ」


 現れたのは、砂漠の土地に似合った仕立ての良い服を着た初老の男性だ。

 豪快に笑う姿からは似つかわしくない程の禍々しい気配とその人とは思えない目でぎょろりとこちらを見る姿は、正しく悪魔だ。


「すまん。止めようと思ったが一歩遅かった」


「まあもし私の反応が遅くて不合格を食らったとしても父さんが最終的には助けてくれるって信じてるよ」


「勿論であるよ」


 まだどこか強張る体は、目の前の悪魔から個人的にプレッシャーをかけられているから、だろうか?

 へえ、そんなことするんだ?

 ハジメマシテでいきなりそんな好戦的なことをされると、応じたくなるのが冒険者ってやつの(サガ)なのかしら。


「アルマ」


 何をやり返してやろうか、そんなことを考え始めた私に父さんから静かな声がかかる。

 私たち姉妹の前、つまり現れた悪魔との間に立った父さんはコツンと持っていた杖を床に突いた。


 瞬間、黒い雷がどこからか現れて目の前の悪魔を貫く。


「アレが商会長のアンドラス。躾がなってない男なのはまあ許してやっておくれ。お前が手を下すまでもないからの」


 そう言ってニッコリ笑われたら、私、出番なくない?

 父さんがそこまで言うなら、大人しく従いますけどね!


「つつ……ひでえな。命がいくつか散ったじゃねえか」


「知己だからその程度で許したが、次に娘たちに対して無礼を働いたら命を一つ残して刈り取るぞ」


「へえへえ、実力が健在で何よりだ! 悪かったよ、お嬢さん方。俺の名前はアンドラス」


 にっかと笑った悪魔――アンドラスからはもうプレッシャーを感じ取ることはない。

 私はイザベラを抱き留めていた力を緩めて、ベッドから下りた。

 

「例の情報を与えるに相応しいかオリアクスの件を除いて考えたかったもんでな。やり過ぎちまったようだが……」


 にんまり笑ったアンドラスは、私たちに向かってあくどい笑みを浮かべる。

 おっ、なんか嫌な予感がするな?


「ここはお代として一つ、古代王国の財宝を取ってきてもらいたい」


「現金一括でお願いできませんかね」


 即座にそう答えた私に、アンドラスが爆笑したけど……結構真面目な話よ? これ。


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