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こんなありきたりな方法で釣れるかどうかは別として、やらないよりはやった方がいいだろうと主張する私の言葉は案外みんなに受け入れられた。
正直、私が勝手に言い出したことなのでイザベラからしてみれば何を勝手にって想われてもおかしくはないんだけど、可愛いうちの妹はにっこり笑って「良い案ですわ!」って一番最初に賛成してくれた。
可愛いかよ……可愛いかよ!
大事なことっていうか世界の真理!!
対するマリエッタさんは、私の方を珍獣でも見るかのような目を向けてきていた。
失礼な!
「貴女……頭がおかしいのではなくて? 自分から危険なことをするだなんて」
「あわよくば接触してくるか私たちを尾行してくる連中を見つけられるかもしれないじゃない。それに、私こう見えて強いのよ?」
にやりと笑って見せれば、マリエッタさんが不快そうに眉をしかめた。
彼女はそのままの表情で、とりあえず私の案に賛同すること、三巻はまだ原稿を書いている途中なのでこれから手直しして加えることを約束してくれた。
そしてその原稿に関しては、約束を違えていないと証明するためにアリエッタさんに完成稿を読ませると約束までしてくれた。
おお……実はいい人?
そんな風に感心していると、マリエッタさんが口を尖らせて言った。
「わ、わたくしの物語が原因で妖精族たちに恨まれでもしたら困りますもの」
気持ちは分かるが、それを言葉にしてはならない。
多分、彼女はこの後、女王様からお説教されるだろうなあ。
(悪い子じゃないんだろうけど、ちょっと思慮ってモンが足りないタイプなんだろうね)
女王様がすんごい目つきで見てますよー、とは怖くて言えませんでした。
イザベラも、他のみんなも気がついているんだろうけど我関せずだ。
「言っておきますけど、それを書き加えることによって貴女たちが何かしら被害を受けようとわたくしは責任をとりませんからね! やれって言われたから協力するだけなんだから! お兄様のためなのだから!!」
「ハイハイ、それでいいですよー」
「ええ、構いませんわ」
「怪我などさせるはずがない、私がついているのだからね」
自信満々に答えたら、妹と父親まで自信満々に答えるとか……仲良し親子か我ら!
いや、仲良し親子(?)だね、うん。
「マリエッタ、いい加減になさい。アルマさんはジュエル級冒険者。たとえ我らが王族であろうと、頭を垂れる理由がなくば己の自由を貫けるお立場なのです。お前よりも、ずっと高みにおられる方なのですよ」
女王様が呆れたように窘めれば、マリエッタさんが呆然とした。
彼女は今回、何度驚かされたんだろうね。
最愛の兄が恋人を連れ帰ったことでしょ、追放された悪役令嬢が目の前にいたことでしょ、物語の展開が違ったことでしょ、自分が書いた小説によって知らないところで被害を受ける妖精族がいた事実でしょ。
そして、最大の恋敵である私が、王族である自分に匹敵するジュエル級冒険者って事実。
いやあ、事実は小説より奇なりってね!
あれ、私上手いこと言ったな! 声に出さなかったけど。
ふふん、まあいいさ!
こういうのは心の中でドヤっておくものです。
ほら、私ってば前世では奥ゆかしい日本人でしたから!!




