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結論から言えば、マリエッタさんは作者だった。
ものすごくあっさりと、そう、それはもう多分言いたかったんだと思う。
朗らかに、高らかに、自分が作者だと言ったあの時の彼女の顔はまさしくドヤ顔としか表現しようがなくて若干イラッとしたのは内緒の話だ。
そんでもって聞いてもないのにあれこれ話してくれましたよ、ええ。
自分は転生者で、生まれて間もなく絵本を読んでいる時に記憶を取り戻したんだとか。
理由としては、絵本が退屈だったかららしい。なんのこっちゃ。
「前世この世界に起きたであろう物語を記したのは、ほんのちょっとしたわたくし用の娯楽だったの。だけれど楽しいことってどうしても共有したいでしょう? だから、わたくしの侍女たちに見てもらって始めは内輪の楽しみにしていたのだけれど……」
そんな侍女たちの中に、商家の娘がいたんだそうだ。
こんな面白い話をそのまま内輪で終わらせるなんて勿体ない、王女であることを伏せて、秘密を守ってごく少数刷ってはどうかと……まあ、そんな流れになったらしい。
身元は確かな侍女らしいし、そこは女王様側で調査してもらうとして。
「確かに、まあ……これから起きるであろう出来事を記してあるのだし、ちょっとそこは大丈夫かなーって心配にはなったのだけれど……。ほら、わたくしは名前も出てこないモブだし、このフェザレニアの回では何の被害もないし、他の国の出来事だって主人公が頑張れば全部解決するし!」
そう朗らかに言われたけど、正直知らんがな!
可哀想に、女王様とフォルカスは頭が痛くなってしまったらしく額を押さえちゃってるしロレンツィオくんは目を丸くして、アリエッタさんは首を左右に振っちゃってるわ。
アレッサンドロくん? 話も気になるみたいだけど、イザベラの方チラッチラ見てるから君はダメだ。後でフォルカスにお説教してもらおうね!
まあ、それは置いておくとして。
ともかく、その出版に至るまでの経緯がどうであれ、マリエッタさん的には自分が大好きだった作家さんの作品に萌えてくれる人が現れるのは嬉しくてたまらない、そんな状態だったんだとか。
わからなくはないけどさあ……でも、これで彼女は潔白……いや、原因作ったからグレー? わかんないけど一応関係者だけど、関係者とは言えないっていうか……。
「まあ、……良かったね? フォルカス」
「なんとも言えん」
私のフォローに、フォルカスが複雑な表情で答えた。
そんな私たちのやりとりに、マリエッタさんはぎろりと睨んでくる。
「ちょっと、アナタみたいな冒険者は登場もしないんだから引っ込んでなさい! お兄様は『大切な家族のために聖女に協力する』っていう役目があるんだから! 大体、なんで悪役令嬢がそこにいるの!?」
「うーん、私がモブなのは状況的に大変ありがたい話なんだけど、それならそれでフォルカスが妹の貴女と結ばれることもないんだし、いつかは誰か恋人が現れるとは思わないのかなあ」
私じゃなくたって、いつ恋人ができてもおかしくない男だからね?
美形だし言葉は少ないけど稼ぎもいいし若いし強いし、言うことないよね。
そんな私の素朴な疑問にマリエッタさんは、ふんぞり返って小馬鹿にするように笑った。
「お兄様はなんだかんだ言って、わたくしたち家族に甘いんだからいいのよ。想い合っても結ばれることのない兄妹の禁断愛……ああ、なんて尊いのかしら!」
「寝言は寝て言え」
「フォルカス、俺が言うのもなんだが……妹さん、婚約させてて大丈夫か?」
「心配になってきた」
ディルムッド、余計なことを言うんじゃない。
これが理由で婚約解消になったら今後マリエッタさんが正気に戻った時、逆恨みされるかもしれないじゃないか!
……いや、正気に戻ったら黒歴史でゴロンゴロンするかもしれないな?
「そもそも、前提が間違っておりますこと、どなたか指摘してはいかがかと思いますが……」
そんな状況で呆れたようにイザベラがそう言えば、マリエッタさんは目を瞬かせた。




