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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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リーグ活躍の舞台

 ヒカルが、リーグと顔を合わせることができたのは、クロードがジャラザックへと向かう前日——つまり建国記念式典が始まる11日前のことだった。


「ヒカルさん、これを式典までに読んでおいてください」


 早朝、ヒカルの家をただひとり訪れたリーグは、ヒカルに紙の束を渡した。


「これは?」

「学生連合の規約です。ある程度の内容は網羅できたとは思いますが、なにぶんこういった文章を起こすことは初めての経験ですから、漏れがあるかもしれません」

「それならエカテリーナの得意分野だな」

「ええ。彼女といっしょに見ていただければありがたいです」

「なるほど。エカテリーナに直接接触するより僕のほうがカムフラージュになるということか」

「ああ、気を悪くされたらすみませんが、ヒカルさんを伝達役として考えていたのではありませんよ。ヒカルさんにも読んでおいて欲しいと思っています」

「僕は素人だ」


 ヒカルは肩をすくめて見せる。


「でもあなたには私たちにはない着眼点があります」

「ずいぶん買われたもんだな……」

「私は最初からあなたを特別扱いしていたでしょう? ——ところで、ツブラとキリハル、コトビについては聞きました。ヒカルさんがずいぶん働いてくださったようですね」


 キリハルとコトビについてはそうだろう。

 あれから、コトビの錬金王からちょくちょく手紙が来て、それに答える、ということをやっている。

 ツブラの遺物についてなら答えられるのだがいかんせん魔導具に関することが多く、ローランドの知識で答えられる範囲も限られている。あまり、研究に協力できているとは言いがたいところだ。


「クロードさんはどうですか」


 リーグの目が真剣そのものになる。

 気になっているのだろう。


「ミハイル教官との1対1なら、2本に1本は取れる」

「——なんですって?」

「ほぼ、ミハイル教官と同等の戦闘能力を身につけた」


 これはほんとうだった。

 ルダンシャの教官3名と模擬戦をやった翌日から、ミハイルとクロードは日に数度、模擬戦を行っている。

 クロードの進歩は目覚ましく、当初はパワーも素早さもイヴァンとは段違いのミハイルに後れを取っていたが、昨日の時点ではほぼ互角となっていた。

 ヒカルがさりげなくクロードのソウルボードの「筋力量」と「瞬発力」にポイントを振ったということもある。


「ということは……ジャラザックのボスに認めてもらえそうですね」


 リーグは明らかにほっとしていた。

 確かに、今回の「4票集め」のうち、ジャラザックの1票が明らかに不確実だった。もちろんヒカルがやると言った「女王陛下の説得」も不確実性の塊ではあったが、ヒカルが早々にその問題にけりをつけた。

 明日、クロードはジャラザックに向けて発つ。

 ジャラザックでボスに話を持ち込んで、おそらく1対1の模擬戦を求められる。その結果がわかるのは——建国記念式典で、だろう。ジャラザックのボスも式典に参加するのだ。クロードは彼がジャラザックを出発するぎりぎりのタイミングまでトレーニングしてきたのだから。


「そっちこそ大丈夫か? リーグには式典で一働きしてもらおうかと思っていたんだけど」

「かなりプレッシャーをかけられていますが、なんとかかんとかしのいでいます。これも式典までの辛抱です。私は今日のうちにスカラーザードを発って、ルマニアに戻ります」

「忙しいな」

「ええ……一応、父とともに式典に参加する、という体が必要なので。それでヒカルさんが私に頼みたいこととは?」

「ああ、それだけど……最後の会議の場で、一席ぶって欲しいんだ」

「? なにを話せばいいのです?」

「ルマニアには学生連合に反対してもらう。それも、強硬に」

「……ほう」


 ヒカルが説明したところは、こうだ。

 ツブラからの議案が上がった際、誰よりも先にリーグに反対してもらう。それこそ本心からこの議案をつぶそうとしているかのように。

 それに、シルベスターは抗弁する。

 できるだけ他者の意見を混ぜずに議論を進める。


「投票にまで持ち込めば、こっちの勝ちだ。だけどルダンシャやユーラバが読めない。もし彼らが余計なこと——たとえばキリハルやコトビが意見をひっくり返しそうな話を持ち出す可能性だってある」


 エカテリーナが調べたところ、過去の議案では突拍子もない反対意見が尾を引いて、議案が通らないということが何度もあったようだ。

 ヒカルはこのことを知らなかったが、ヒカルが不安視していたことに証拠を与えられたようなものだった。


「そんなイレギュラーが出ないように、議論をコントロールしろと?」

「さすがリーグ。物わかりがいいな」

「承りました」


 これができるのはリーグくらいだろうとヒカルは考えていた。

 現時点ではルマニアの次期トップ。

 彼が意見を言えばたいていの人間は黙る。


「ありがとう、ヒカルさん」

「……なにが?」

「私が今、学生連合にまったく協力できていないことを見越して、私の立場でできうる最大の見せ場を用意してくれましたね」

「なんのことかわからないな」

「あなたはそういうふうに他人に気を遣わせないんですね。私はこの恩義をきっと忘れません」

「そういうのは学生連合が発足してから言うんだ」

「わかりました。ではそのときに改めて」


 そしてリーグは去っていった。


「……バレバレか。まあ、アイツは頭だけはいいもんな」


 学生連合の発起人がリーグであるにもかかわらず、彼はまったく身動きが取れない状況だった。

 それを、リーグ自身が気に病んでいないわけがない。

 だけれど彼が動けば、ルマニアの目が光る。そして学生連合の動きを嗅ぎつかれる。そうなったら建国記念式典の会議の前につぶされることもあり得る。

 あくまでも今回の「学生連合発足」は不意打ちでなければならない。不意打ちで、4票取る。それまで誰にもバレてはいけない。これが唯一の成功への道だ。


「ま、リーグならなんとかしてくれるだろ」




 クロードとミハイルが模擬戦をやる、いつもの講義C棟の前へとやってきた。

 訓練場だと目立つので、目立たないここ——というより学院の誰からも見放されたようなこの場所で模擬戦をやることが多かった。


「クロード、緊張していないか?」


 今日はクロードしかいない。イヴァンは明日からジャラザックに、クロードやリュカとともに向かうのでその準備で今日はいない。

 リュカを連れていくのはルダンシャに目をつけられる危険があったが、ジャラザックのボスに話を通すには「絶対クロードとリュカちゃんのふたりじゃなきゃダメだ。ボスはそういう人だから!」とイヴァンが言うので連れていくこととなっている。


「緊張……そうだな、不思議としていない。俺はさ、自分がこんなに強くなれるとは思わなかった。強くなりたいとずっと願っていたんだが……」

「うれしいんだろ」

「うれしい……うん、うれしいよ。でもそれは俺が自分のためにうれしいんじゃなくて、リュカを守れるんだ、って思えて、それがなによりうれしい」


 清々しい笑顔だった。


「なんだノロケか」

「わはは。リュカは最高の女だからな。——なあ、ヒカル、ありがとうな」

「なにが」

「リュカとの結婚なんて連合国を出なければ不可能だって思ってた。でも俺もリュカもこの国が嫌いなわけじゃない。だから……」


 やれやれとヒカルはため息をつく。

 こいつもリーグも、成功しないうちからお礼を言う。


「あー、もう。止めろってそういうの。そういうのは全部終わってから言う、な? フラグだぞ」

「フラグって?」


 とクロードが聞いたときだった。

 ミハイルがこちらに猛スピードで走ってくる。


「クロード! おお、ヒカルもいたか! ちょうどいい!」

「どうしたんだ?」


 その剣幕があまりに異常で、軽口を挟む気にもならなかった。


「すまんが、今日の模擬戦はナシにしてくれ」


 マズイことが起きたな——ヒカルはそう直感した。


「なにがあった」

「魔物狩りの話、したろう」

「ああ。冒険者に依頼して3カ国の国境でやっているというアレか」

「その冒険者たちのチームが、壊滅的な打撃を受けたらしい」

「壊滅的……失敗したのか?」

「端的に言うと、そうだ。それで腕の立つ冒険者に、現地へ向かうよう緊急依頼がかかった」


 ミハイルは一度唇を湿らせる。


「モンスターが氾濫する。このままでは連合国も戦時態勢へと移動するかもしれん。くそっ……あと10日で建国記念式典だっていうのに、式典自体中止もあり得るぞ」


 式典の中止——それはつまり、会議も中止。

 学生連合の話は、なにが起きるかわからない冬——「政治の季節」の後、ということになってしまう。

 クロードがぽかんとする横で、ヒカルはたずねた。


「ミハイル教官、詳しく教えてくれ」


リーグとクロードが立ててくれたフラグを即回収していきます。


次回、ヒカルの出発と新武器です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リーグにしろクロードにしろ、 主人公と熱い友情で結ばれた感じで癒されるわ ストレスしか感じないどこぞの受付とは大違いですね 先生はなぜこんなにいいキャラが描けるのに、 ストレスキャラの登場…
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