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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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ポーンソニア王国の御前会議

 ポーンソニア王国内政庁で働く上位執務官は急ぎ足で会議室へと向かっていた。

 朝10時から始まる「御前会議」はポーンソニア国王が臨席する定例会議。ここで諮られる議題は国全体に関わることが多く、1日たりとて見逃すことはできない。しかも開催時間はたったの2時間。

 9時半、上位執務官は大会議室に到着する。


「むう」


 国王の席があり、それを半円で囲むようにイスが「自由席」として設置されている。

 このイスは5重にあり、それ以外は離れた場所から立ち見となる。

 30分前であるというのに50席に近いイスはほぼ埋まっていた。


「座ってもよろしいですかな?」

「いや、ここは同僚の——」

「いやはやありがたい。立ち見では聞き逃す情報もありますからな」


 厚かましく上位執務官はイスをぶんどってしまう。相手は確か財務庁の関連職だったはずだが構ってはいられない。上位執務官の従兄弟は侯爵持ちがいる。向こうが怒ったところでどうしようもない。

 イスに座れないと、国王にささやきかける侍従長の言葉や、上級貴族たちのささやき声が聞こえないことがある。


(こりゃ9時から来ないとダメかもな。ここんとこみんなピリピリしてるからな……)


 かつてないほどこの御前会議の注目度が高まっている。

 ゆえに、上位執務官は彼が直接仕えている王女クジャストリアのためになんとか情報を持ち帰ろうと思っている。それは「忠誠心のため」なんていう理由ではない。彼は次期国王である王太子から遠いところにいた。そのために搦め手から出世の道を探っているだけだった。


「国王陛下、御入場」


 10時ちょうどに、国王がやってきた。

 室内はすでに立ち見が多く出ている状態だ。

 主要な貴族——王太子、公爵、侯爵らは王の座席の背後に並んだ「指定席」に座っている。

 部屋の隅には騎士団長までいた。


「うむ……いつも朝からご苦労」


 入ってきたのは目のぎょろりとした男だった。頬骨が尖っており、髪の艶も薄れ、ほとんど白髪になっている。

 ここ最近で、一気に10は年を取ったように感じられる。

 着ている豪奢な、紅の服に押しつぶされそうですらある。

 ちょっと前までは女を侍らせていつも楽しそうにしていたというのに。


「始めよ」

「はっ」


 国王の横に立っているのは内政庁の長官でも、並み居る大臣でも誰でもない。

 侍従長だ。

 国王の歓心を買うことに成功した彼は、この御前会議を取り仕切るまでになっていた。


「まずはガフラスティ=ヌィ=バルブスの動向です」

「!」


 国王がイスの手すりをつかんで身を乗り出す。


「あやつはとっくに貴族位を剥奪した!」

「はっ、さようでございます。賊徒ガフラスティの動向について申し上げます」

「うむ」


 王の逆鱗に触れることくらいわかっているだろうに、わざわざ侍従長は「ヌィ」の称号——子爵であることを言った。

 わざとだろう、と上位執務官は思う。国王がこの問題に多大な関心を示しており、ガフラスティ派に(くみ)することは王の敵になる——そう見せつけたいのだ。


「突然、我らがポーンソニア王国の王位継承権を主張し始めたガフラスティでございますが、現在はマウントエルカに居を移したということです」


 上位執務官は急いでメモを取りながら思い返す。

 ポーンソニアがクインブランド皇国への侵攻を止め、撤退せざるを得なかった主要因。

 ガフラスティが「正統なるポエルンシニア王朝の血を引く者」であると主張をしたのも、この御前会議だった。

 次々発表していく証拠、推測、それらに圧倒されてしばらく誰も口を利けなかったものだ。

 この者を捕らえて殺せ——そう、国王が言い出してからはみんな一斉に動き出した。

 だがグルッグシュルト辺境伯が立ち上がり叫んだ。「動くな騎士よ」と。軍閥の重鎮である彼の恫喝に、会議室の警護に当たっていた騎士たちは怯む。そして辺境伯はこう言った——なかなか面白い意見である、一度調査すべきだ。


「マウントエルカだと? グルッグシュルトの領地ではないか!」

「さようでございます」

「彼奴らは組んでおったのか!」

「そこまではまだ調べがついておりません」


 ガフラスティが逃げ込んだマウントエルカはグルッグシュルト辺境伯の領地である。

 国王の正統性に疑義を投げかける、という、その場で反逆罪を言い渡されてもおかしくない真似をしたガフラスティだったが、グルッグシュルトが援護射撃をしたことで無事に王都から抜け出したのだ。

 その後の行方は知れなかったが、大方の予想通りグルッグシュルトの庇護下にあったらしい。

 グルッグシュルト辺境伯は、クインブランド皇国との国境線に領地があるため、強大な軍事力を持っている。今回のクインブランド侵攻路に含まれてはいなかったが、「反撃へ備えるため」ということで出兵の義務を免れている。

 逆に王都は出兵のために手薄となっており、グルッグシュルト辺境伯を弾圧することはできなかった。

 騎士団長にして「剣聖」ローレンスを含む、王国軍が王都に戻ってきたころにはグルッグシュルト辺境伯は自領に戻っていた。


「ガフラスティになびいたのは他に誰がいる」

「はい——」


 国王の問いに、侍従長は答えていく。1人の伯爵、3人の子爵、11人の男爵だった。

 これらは今回の事件後に、王都へ呼び出しているにもかかわらず「病気」や「領地内のトラブル」を理由に、やってきていない者たちである。


(……ほんとうに「病気」や「トラブル」があるのかもしれない。それなのに「敵」のレッテルを貼られるのか)


 上位執務官は暗い気持ちになる。国王はどうも、この件について過敏である気がする。


「ローレンスはおるか!」

「はっ、ここにおります、陛下」

「騎士団を率いてグルッグシュルトの首を取ってくるのだ。できるか?」


 直接的な物言いに、ぎょっとした空気が流れる。


(いやいやいや、え? 国内派兵? 本気か?)


 しかも相手は辺境伯だ。いかに「剣聖」とは言え、王国内の精強なる軍を相手にできるのか——。

 しかしローレンスはまったく動じなかった。


「できます」

「よし、では——」

「お待ちください」


 若い声が聞こえた。

 涼しげな表情の中に、相手を小馬鹿にしたような目をしている男、王太子オーストリンだ。


「なんだ、オーストリン」

「陛下のお怒りはごもっともです。グルッグシュルトもガフラスティと同じく陛下に弓を引く愚か者でございます。ですが『剣聖』がわざわざ出向いてまで倒すほどの相手ではございません」

「なにか献策したいようだな?」

「はい。グルッグシュルトは愚かにも『ガフラスティの話を検証したい』と申しておりました。であれば『検証するから出頭せよ』と伝えましょう」

「バカな! あんなもの、単なるでまかせと建前よ。来るわけがない」

「来なければ来ないでよいのです。王は寛大にも、ご自身の正統性を失わせかねない——もちろん荒唐無稽ではありますが、連中に合わせて『検証』をすると伝える。王のご賢察のとおり、グルッグシュルトは出頭しないでしょう。ヤツがウソつきだと明るみに出るのです。——グルッグシュルトがいまだに軍閥で人気があるのは、その『誠実な人柄』などと言われております。討伐する前に、グルッグシュルトを貶められれば、討伐後の軍部の混乱を防ぐことができます」


 ほう、と上位執務官は内心で唸った。

 誰かの入れ知恵かもしれないが王太子は王太子で考えているようだ。どうせ誰も損をしないアイディアである。これはやったほうがいいだろう——。


「ならぬ」

「——陛下、今なんと?」

「そのようなくだらぬ『検証』などはせぬと言ったのだ。小賢しい小細工もせぬ」


 これには王太子もぽかんとして、反論する言葉が出てこないようだった。

 上位執務官も意外に思った。ガフラスティの妄言なんて誰も信じていない。むしろグルッグシュルトがよく信用したなと思えるほど——それが王都内での風潮だった。だからこそ王太子の献策は光る。王の「寛大さ」を見せつけるチャンスでもあるのだ。

 なのに、王はその献策を蹴った。


(……それほどまで腹に据えかねているのか? 皇国をつぶすチャンスをフイにされたからか?)


 上位執務官は、知らない。

 ガフラスティの主張こそが正しく、今王座にいる男はポーンソニア王家の血を引いていないことを。それを自覚しているのは王ただひとりであり、ただのパフォーマンスとしての「検証」すら、することを王は恐れていることを。


「ローレンス!」

「はっ」

「今日にも王都を発ち、グルッグシュルトを討て!!」

「はっ」

「ち、父上! せめてもう少し情報を集めてはいかがでしょうか? 特務部隊でも情報収集能力に長けた連中がいたはずです。グルッグシュルトの評価を下げておくことは今後を考えれば——」

「ダメだ。特務部隊はそちらにやらぬ」

「父上!」

「行け、ローレンス!」

「はっ」


 ローレンスが敬礼すると部屋を出て行く。

 会議室内がざわつく。それもそうだ、これほど大規模の内乱——と言って差し支えないだろう——など、ここ数十年起きていなかったのだ。


(……なんだ?)


 上位執務官は首をかしげる。

 王太子の言うことはもっともだ。王が子飼いにしている「特務部隊」も今は遊んでいるはずだから、情報収集でもさせたほうがいい。いきなりローレンスをぶつけるのはリスキーでもあるのだ。


(『そちらにやらぬ』……? おかしいな。戦争の前線で活躍するようなヤツらなのに、今回のクインブランド侵攻には出てきていなかった。つまりヒマをしているはずだけど……ひょっとしたら別の任務を受けているのか?)


 上位執務官は考えたが、特務部隊が動くような案件は今のところ思いつかない。

 最近のビッグニュースはクインブランド侵攻以外だと、「モルグスタット伯爵の暗殺」くらいである。


(でもあれって伯爵令嬢が犯人で……誰かにさらわれただかなんだかだったっけ? あー、あのとき特務部隊が動いたとかなんとか聞いたような……でもそんなのずっと追いかけるほどのことでもないよな?)


 上位執務官があれこれ思考を巡らせていると、


「おほん。静粛に」


 侍従長は我関せずという顔で議事を進める。


「次は、夏の風物詩でもあるモンスターの繁殖についてです。我が王国、皇国、それにフォレスティア連合国の3カ国国境がぶつかるウゥン・エル・ポルタン大森林で、春から増殖しているモンスターが今年もあふれそうだということです。例年、軍を派遣しておりましたが——」

「今年はダメだ。冒険者にやらせろ」

「はっ、かしこまりました」


 モンスターの間引き業務。

 これは戦争がない時期に兵士の訓練の一環として軍が行っていた。

 今年はこんな状況だから軍を王都に置いておきたいのだろう。この仕事は、冒険者ギルドに回されることになった。

 こうして御前会議は終わり、ポーンソニアは内乱の時期を迎えることになる。

ポーンソニアサイドの情報でした。

次回からまた連合国へと戻ります。

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痒い所に手が届いて安心 ってか配慮がすっごい… 動向気になるもんね…
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