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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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説得ゲーム:ヒカルvsマルケド女王陛下(キリハル票)


「ほう? お前がこの国の政治に興味があったとはな。意外だったぞ」


 マルケドが反応する前にゾフィーラが口を挟んだのは、マルケドに「しばらく黙っていてください」と伝えたいがためでもある。

 マルケドは良くも悪くも感情を優先するきらいがある。それが劇的によい結果を生むこともあれば、考えなしのために失敗することもあった。


「ふうむ? もしやお前は、ツブラの人間か?」

「冗談。あんな遺物をありがたがってる国——あー、それはいいや」

「『あんな遺物』と言ったのか? お前は遺物を見たのか? その価値をわかっているのか?」

「今、その話はしていない」

「答える義務がある。ツブラの遺物は連合国政府にとっての機密。他国の人間であるお前が知っているというのは理解できない」

「…………」


 少年は考え込むようなそぶりを見せる。

 失言した、と考えているのだろう——とゾフィーラは内心ほくそ笑む。


「わかった。言おう。僕はツブラの遺物について意味を知っている。使い方もな」

「ほう?」

「一例を挙げれば『魔物仮面』とか言われているアレは魔物でもなんでもない。天狗だ」

「……テング?」


 話の方向性が変わってきている。

 ゾフィーラは最初、この少年は忍び込む技術に優れているために、どこぞの屋敷に入り込んで遺物を見たのだろうと思っていた。

 だが、違うようだ。

 いきなり「魔物仮面」の話になった。ゾフィーラもその現物を見たことがあるが、鼻がすらっと長い、魔物を模した仮面である。

 これが100以上も出土しているのだからなんらかの宗教的なものだと考えられていた。

 そんな微妙なアイテムの話を持ってくるとは、


(私たちの知らないなにかを知っているのか?)


 ゾフィーラの胸に疑惑が立ちこめる。


「テングは山の守り神とも言うし、山の魔物とも言う。山伏の格好をしていて赤ら顔、鼻は長い。まあ、お面としては結構ポピュラーなものだよ」

「ポピュラー? ツブラ以外であのような仮面は出土していない」

「それはそうだ。ここではね(・・・・・)

「ここ……では?」

「さあ、僕はそんな話をしに来たんじゃない。ツブラの人間じゃないとわかってもらえればそれでいい。あんなお面を大事に掘り起こしてる国といっしょにされたくはないから」

「しかし——」

「よい、ゾフィーラ」


 もう少し情報を聞き出しておきたかったゾフィーラだったが、マルケドからの待ったがかかった。


「……余の見たところ、この者はゾフィーラを警戒している。ゆえに本題ではないツブラの遺物の情報をちらつかせ、混乱を誘っているのだ」

「なっ……」


 ゾフィーラが少年を見ると、少年は忌々しげに口をへの字にした。


「……申し訳ありません、陛下。本来冷静でいるべきは私の職務でしたが」

「よい。お前の言ったとおり、この者は常識では測れぬ。不意打ちを仕掛けてくるのも、恩着せがましくスパイを見つけてくるのも、すべて後々のためなのだろう。自分のペースにのせて要求を通すのが目的だ。きわめて自己中心的な男だ」

「これはこれは、お褒めにあずかり光栄だな」


 ふてぶてしく少年は言った。

 このマルケド女王は滅多なことではここまであけすけな人物評価を下さない。しかも本人を前にして。


(自分を見失うなよ、私……)


 ゾフィーラは気を引き締めると、少年に向き直った。

 少年を甘く見ていたのは否定できない。見た目に、知らず知らずのうちに侮っている自分がいたのだ。


「政治に介入するのであれば、自分の所属を明らかにせよ。その上で議案の内容を話せ。そうすれば女王陛下が賢明な判断を下される」

「わかった」


 そして少年は——それも予想外だった——仮面を取った。

 黒髪に黒目の少年。

 クロードに接触したという少年と人相が一致していた。


「僕はヒカル。知ってのとおりポーンソニアから来た。学院で学生をやってる」




 ふう、とヒカルは内心で一息ついた。

 ここまでは予定通り。

 揺さぶりをかけて、そのまま押し切れればそのまま行く。

 相手が我に返った場合はきちんと説明する。

 その場合、警戒心まみれの状態で話しかけるよりもずっと冷静に話を聞いてくれるはずだ。

 もちろんいくつか「かま」をかけていた。「ヒカル」という人間の存在を女王たちが把握しているのかどうかを確認したかったのもそうだ——反応を見るに把握はされていないようだったが。

 学院長はツブラ出身だが、そこから女王へ情報は行っていないのだろう。学院長がたいしたことのない情報だと判断したのかもしれないし、あるいはツブラとキリハルという2国間の問題かもしれない。

 いずれにせよ、ここからが本番だ。


「ルマニアの筆頭氏族、緑鬼のリーグが、出身国を問わない『学生連合』の立ち上げを考えている。初代議長はツブラ出身のシルベスター=ギィ=ツブラ。学院内で国家の壁を越えた交友を育んでもらい、ゆくゆくは連合国内の国家間の壁をなくしていくのが目的だ」


 ヒカルはその成り立ちについて簡単に説明した。


「すでにルマニアとツブラの首脳が入っているというのか」

「いや、残り5カ国からも人が入っている」


 ヒカルが名前を挙げていくと驚きの声がマルケドの口から漏れる。


「よくもまあそこまで集められたものだ。国家間の感情のもつれは並大抵ではないはずだが」

「若いうちは柔軟なんだ。それに個人に目を移せば国家の思惑なんて関係ない。国境を越えて交友関係を持つ人間なんて山ほどいる。それを、無視しているのは政治だろう」

「言うではないか。して、その学生連合とやらが発足に賛成すればいいのか? 学生連合が機能し、国家間の思惑が消えるのは何年後だ? 5年か? 10年か?」

「リーグは死ぬまで見守るし保護すると言っている」


 その言葉は意外だったのか、マルケドは遠い目をした。


「……そうか。ルマニアにもまともな人間はいたか」

「むしろ僕も、学生連合の発足はマルケド女王が即位中のほうがうまくいくと思っている。だからこうして手伝っている」

「わかった。議案には賛成しよう」

「陛下」

「言うな、ゾフィーラ。後で問題になるだろうがこの程度ならたいしたことはない。それに学生連合とやらは、余やお前が望む連合国の未来に寄与する可能性がある。さらには……姿を隠すことでメリットを発揮するこの者——ヒカルが、正体をさらしたことに応えるべきであろう」


 ヒカルとしては、そろそろ自分の身バレがしそうだとわかっているから、いい加減正体を明かしておこうと思っただけではある。

 もちろん、相手に探り当てられるよりも自分から告白するほうが好感度が上がるという目算もあったが。


「わかりました。そこまで陛下がお考えでしたら愚臣はなにも申しません。それで、ヒカル。提案はそれだけではないのだろう?」


 ゾフィーラが言うとマルケドが「え?」という顔をする。

 ヒカルはにやりとした。

 やはり警戒すべきはこちらのゾフィーラだった。


「ちょっと待てゾフィーラ。どういうことだ?」

「陛下が決断されたことです。最後までどうぞ」

「ちょっとぉゾフィーラ! 意地悪しないでよ!」

「陛下、素が出ております」

「どうせこの隠れん坊少年はあたしたちのことなんて見てるわよ! それで? これだけじゃないってなに?」

「陛下が決断された——」

「ゾフィーラぁ! わかったわよ! 勝手にオーケー出して悪かったから!」

「……まあ、私からはなんとも。この少年はこちらの裏をかくことが得意なようですし。——で、もうひとつは厄介ごとなんだろう?」


 ゾフィーラがこちらに視線を向けたとき、ヒカルは小さく笑っていた。


「そんなにおかしいか?」

「いや、仲の良い王と宰相なんているんだなと思って。——みんながみんな、そうだといいのにな」

「…………」

「…………」


 ヒカルが言うと、マルケドとゾフィーラが目を見合わせた。


「筆頭大臣の言うとおり、提案にはもうひとつあるんだ。学生連合創設とセットで提案される」


 ヒカルが合同結婚式の話をすると——マルケドはクロードとリュカのことを知らなかったのか、驚きのあまり「無理! 絶対無理!」と言ったが、ゾフィーラはなぜか爆笑していた。


「ヒカル。笑わせてもらった。国の感情を超えるものは『愛』か。あー、そのとおりかもしれん。陛下はこのとおり錯乱しておられるが、私が説得して『賛成』票を投じていただくようにしよう」

「頼む」

「——だがこれは1つ貸しだぞ?」

「わかってるよ。スパイを見つけたくらいじゃ釣り合いが取れないって思っていた。利子がつく前に返すようにする」

「わかっているなら、よし」

「なに冷静に話してるのよ!? キリハルのザハード家と、ルダンシャの第三王女の結婚!? なにそれ!?」

「陛下、お静かに」

「外に聞こえるぞ」

「冷静なふたりがムカつくのよ!」


 なんとか、キリハルの1票はこれで取れたようだ。



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