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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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遺物の目録

 ヒカルが通されたのは貴重な古書を閲覧する専用部屋だった。

 広々とした部屋は殺風景で、壁にはなにも掛かっていない。

 部屋の中央に書見台が1つと、その横にちょっとしたテーブルとイスがあるきりだ。


「室内での飲食は禁止です。またインクなどもこぼす恐れがあるので羽根ペンの利用も禁止されております。特別に許可されている場合のみ、木筆による筆写が可能です——」


 司書は言いながら、ちらりとヒカルの隣にいる学院長に視線をやった。


「書き写す必要はあるのですか、ヒカル?」

「ありません」

「ならば必要なしですね」

「かしこまりました」


 司書は恭しく頭を垂れると部屋を出て行った。

 ひとつしかない部屋の入口には武装した警備員がひとり立っている。持ち出しや破損を防ぐためだろう。

 書見台には豪華な装丁の本が置かれてあった。サイズで言うとA3とB4の中間くらい。「連合国献上ツブラ遺物品目録」と書かれてある。

 めくってみると、前書きがあった。どうやら連合国建国当時にツブラから連合国政府へ献上された遺物の目録である、とそういうことらしい。

 目次もなにもなく目録は始まる。

 丹念なデッサンによって描かれた模写がページの大半を占め、下部にはそのアイテムの名前、説明、持ち主、が書かれている——。


「ブホッ」


 1品目を見た瞬間にヒカルは噴き出した。

 それはお面だった。ぎょろりとした目、色はついていないがおそらく顔は赤い。そしてみょーんと伸びた「鼻」——。


(天狗のお面じゃないか!)


 ヒカルの中で、遺物の作成者が「日本からの転移者・転生者」であることが決定した瞬間だった。


(にしてもなんでこんなもん作ってるんだよ……)


 目録名は「魔物仮面」。説明は「金属による仮面。塗料はほとんど剥げておりくすんだ茶色となっている。用途不明。これほど鼻の伸びた魔物、人種は過去に存在せず」と真面目くさって書かれておりさらに笑いを誘う。


「ヒカル? これがなにかわかるのですか?」

「あ、いや……マヌケな顔がいきなり出てきたので笑ってしまっただけですよ」


 横には学院長がいるのだ。気をつけなければ。


「しかしなんでこんなお面が1つ目になってるんですか」

「ツブラの遺物としていちばん多く出土するからでしょうね」

「……え?」

「今までに見つかったこの『魔物仮面』はおよそ100」


 なにやってんだよ転移者! そんなに天狗が好きなのかよ!

 心の中でツッコんでおく。

 読み進めようと思ったが、ちらりとヒカルは横に立つ人物を見た。


「えーっと……学院長。いいんですか、こんなところにいて。忙しいのでしょう?」

「忙しいですよ、もちろん。けれど、親族や故郷の名士の命を救ってくれた人間を丁重に扱うくらいの分別は持ち合わせているつもりです」

「なんのことですかね?」

「シルベスター様とリーグ様が話してくれました」

「ああ……そうでしたか」


 ヒカルは少しだけ意外に思った。

 ルマニアとツブラという連合国を構築する小国、それぞれのトップ周辺にいるふたり。

 彼らがそろって自分のことを話すとは——そんなに素直にヨソ者に助けられたことを話すとは、思っていなかったのだ。


「ヒカル。シルベスター様もリーグ様も立派な方ですよ。お若いのにちゃんとした考えをお持ちで、正義を行う心もお持ちですから」

「彼らみたいな人は連合国ではやっていけないんじゃないですか」


 ヒカルはマルケド女王やゾフィーラ筆頭大臣が苦労して政治をしていることを知っている。

 連合国の中枢は権謀術数うずまく場所だ。


「あら、ヒカルはシルベスター様やリーグ様を心配しているのですね?」

「……別に、そういうわけでは」

「あなたは雰囲気が変わりました。なにがあったのかしら? 入学の申し込みをしに来たときには触れる者すべてに刺さるトゲみたいな少年だったのに」

「ウニですか」

「……ウニ?」

「いや、なんでもありません」


 この世界にウニはないのかもしれなかった。

 ヒカルとて学院長の言ったことには心当たりがある。

 ラヴィアにすべてを話したからだ。

 だが、周囲から見てそこまで変わったように見えるのか。


「……さて、続きを見ます」

「ええ。そうしてちょうだい」


 学院長は特にそれ以上追及しなかった。

 目録を読み進めていく。

 明らかに「日本」のものだとわかるものは「仏像のようなもの」「鐘」「茶碗(食器類)」だった。

 用途不明と書かれていた、とある目録を見て——ヒカルにはピンときたものもあった。


(……これ、ラジオだ)


 アンテナがついており、ツマミが周波数を合わせるようになっている。

 日本から持ち込まれたものではない。プラスチックではなく金属と木材によって作られていたからだ。目録名は「金属箱」となっていた。

 よくできている。スピーカーの機構まである。


(こんなものを作ってどうするつもりだったんだ?)


 確かに、ラジオができれば——電波による通信が可能になれば情報革命が起きるだろう。だが、ラジオを使うということは電波塔も必要になる。そもそもこの世界は「電気」によるテクノロジーがほとんどない。

 むしろ魔術で、高価な触媒を使った「電報」に近い手法があるようだ。


「それが気になるのですか?」


 じっとラジオを見つめていたヒカルに、学院長が話しかける。


「ええ……そうですね。これは『用途不明』と書かれていますが、学院長はどう思いますか?」

「これはほんとうに不思議ですね。この後のページは武器に関するものばかりですが、武器ですらこれほど複雑な造りのものはないんですよ。学院でも魔導具研究家が『金属箱』について研究していたはずだけれど、目立った成果は上がっていなかったんじゃないかしら」

「これはどのあたりで出土したんですか?」

「ツブラでもかなり奥地。遺物が多く出土した『塔』があって、その中だったと思いますが」


 塔……やはり電波塔か、とヒカルは思う。


(だとすると、おかしい(・・・・)


「学院長。これらの遺物は大体何年ほど前のものなんですか」

「800年とも1,000年とも言われています。ツブラという国ができる前です」


 それを聞いてヒカルは考える。


(仮に800年前だとして、その当時の人物が「ラジオ」を知っていた。日本で800年前なら鎌倉時代だぞ)


 時間が合わないのである。


(ということは……こっちの世界と地球とでは時間の流れ方が違うのか? あるいは、時間のつながり方がランダムになっているとか? ……それはそれでおかしくなるな。僕がこっちの世界に来た後に、日本から別の転移者が、「過去」に転移してしまったら並行世界ができてしまう。流れ方が違って、不可逆である、というのが納得できる推測かな)


「ヒカル? 先は読まないですか? 私はてっきり、武器や兵器の情報がみたいのかと思っていたのですが」

「読みますよ。——どうして僕が武器を見たいと?」

「ポーンソニアからわざわざ来ているくらいでしょう。あなたが軍関係者だとはさすがに考えていませんが、十分に強いという話ですし、強さを求める者が遺物(アーティファクト)級の武具に興味を示すのは自然でしょう」

「なるほど。興味がないと言えばウソになりますね」


 ヒカルはページをめくっていく。

 武器がどんどん出てくる。

 ライフル、手裏剣、ピストル、大砲。


「これらの武器が優れているのはすべて魔導具であるということなのです」

「へぇ……」

「この片刃の長剣は、魔力を込めると刃渡りが伸びるというものです。この四枚刃の投擲武器は魔力を込めることで一定時間見えなくなるという特徴があります」


 日本刀の意匠は、見慣れないものだった。

 それこそヒカルが買った「脇差し」と同じような——。


(もしかしたらアレ、本物なんじゃないか?)


 ちゃんと調べてみよう。


「学院長。その——魔導具の効果ってそんなに珍しいんですか」

「現在も再現不可能と言われていますね」

「そんなに……」


 ヒカルは感心した。

 転移者はなかなかがんばっていたらしい。


「こっちはどうですか? 魔法をあらかじめ込めておく——という武器だと書いてありますが」


 ヒカルが見たかったのは、これだ。

 手に入れた「リヴォルヴァー」と似た機構のが「ピストル」「ライフル」である。


「これは魔法を閉じ込めておいて、射出する魔導具だと考えられています。それだけならこの世界にも多くの、同じような魔導具がありますね」

「そうなんですか?」

「そうですよ。『魔法をあらかじめ込めておいて後で使用する』という魔導具はいっぱいあるでしょう? なにもこのような形にする必要はありません。指輪でも、杖でもいいのです」

「ああ……なるほど」

「でもこの魔導具が優れているのは、その点ではありません」

「と言うと?」

「ふつう、術者が『魔法を詠唱して行使する』よりも、魔導具の魔法はずっと威力が弱くなると言われています。しかしこの兵器は……込めた魔法は術者のそれと『同様』、あるいは『それ以上の威力』を持つと言われています」


 ヒカルは唸った。

 つまり「魔法」というエネルギーの転換率が100%、あるいはそれ以上だと言うのだ。


「そんなこと……あり得るんですか?」


 100%、あるいはそれに近い水準ならばともかく、100%以上というのは物理学的におかしくはないかと思ってしまう。


「ええ。私も不思議でしたが、学院の研究家はこう言っていました。『聖魔』というエネルギーを利用して、それを可能にしている、と」


 聞いたことのある言葉が出てきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >入学の申し込みをしに来たときには触れる者すべてに刺さるトゲみたいな少年だったのに そんなことないだろ、むしろ昔の方が腰が低かった気がする 入学の時は、事務員や教師の態度があまりに悪すぎた…
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