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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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ローイエとの勝負

 街中で武器を振り回すわけにもいかないので、結局学院へ戻ってきた。

 学院のグラウンドにはちらほらと人影があったが、特にこちらを気にしているふうはない。

 ヒカルは6人の青年とミハイル、それにミレイに囲まれて、ローイエと向かい合った。


「武器は、刃引きしてあるものを使う。それ以外はなんでもアリだ。両者ともいいな?」

「おう!」

「構わない」


 ミハイルの宣言に、ローイエとヒカルがうなずく。

 学院には回復魔法を使える人間が常駐しているために、致命傷になったとしても救護可能となっている。

 ただし即死は回復不能だ。


「ちょっとヒカルくん」


 ミレイがヒカルのそばに寄った。


「なんですか、ミレイ教官」

「こんな勝負バカげてるわよ。アタシ、説明したでしょ? 小剣のメリットとデメリット。真っ向から戦うためのものじゃないのよ」

「わかってますよ。だけど許せないでしょう? マスターを、『酒万歳』をバカにされたんですよ」

「はぁ……アタシにはヒカルくんの怒りポイントがわかんないわよ」

「まあ、いいじゃないですか。あんまり人が集まる前にちゃちゃっと終わらせたいんで、下がっててください」

「うぅ……ケガしないでよね? 明日からの講義だってあるんだから」

「……ミレイ教官」


 この数日で、ミレイの心境に変化があったのか——講義にこんなにも前向きになってくれるなんて。

 ヒカルが内心感動していると、


「ヒカルくんがいなかったらタダ酒飲めない」

「——僕の感動を返してください」

「は? なんの話?」

「いや……もういいです」

「よっしゃ、ヒカル! 始めるぞ!」


 ミハイルが声をかけると、


「ちょっと待って」


 ヒカルはストレッチをして身体をほぐす。


「なんだそれは?」

「ストレッチ」


 ヒカルが答えていると、囲んでいる青年たちから、


「アイツっていつも隅っこを走ってるヤツじゃね?」

「あ、そうだわ。あの変な……ポーズ? 見たことある」

「しかし……ミレイ教官相変わらず色っぽいよな……」

「わかる。小剣じゃなきゃ講義受けにいったのに……」


 そんな声がちらほら聞こえてくる。いやいや、色気もなにもないけどね? とヒカルは思いながらもストレッチを終わらせた。


「オーケー」

「ふん……わけのわからない踊り(・・)で動揺でも狙ったのか? さっさと始めるぞ。私の強さを思い知らせてやる」


 チャキッ、と大剣を構えたローイエだったが、切っ先がぷるぷると震えていた。


(筋力量が足りてないんだよなあ)


 ヒカルはそんなことを思った。


「両者構え!」


 ヒカルもまた、訓練用の小剣を右手にだらりと持つ。

 両刃の直刀であり、ヒカルがふだん使っているものとは形が違う。


「始め!」




 ヒカルがこの勝負を受けたのには「酒万歳」をバカにされたこともあったが、実は別の理由もあった。

 ミレイから学んでいる内容がどれほど身についているのか、試したかったのである。

 ミハイルとの再戦であれば「隠密」をフルで発揮しなければならないだろう。そうなるとミレイから学んだことが生きているのかどうかもわからない。

 だがローイエならちょうどいい。

 ヒカルは素人に毛が生えたようなレベルだが、向こうも同じだ。


「せええええい!!」


 ローイエが踏み込んでくる。

 大上段からの振り下ろしだ。


(おいおいおいおい。こんな隙だらけの攻撃を教えてるのかよ。子どもでもかわせるぞ)


 ヒカルが呆れてちらりとミハイルを見ると、額に手を当てている。どうやら講義とは違うことをやっているようだ。

 振り下ろしを、身体をひねってかわす。


(最小限の動き、からの——)


 ヒカルは、トンッ、と地面を蹴った。


「チィッ! これは小手調べだ!」


 ローイエは振り下ろした下段からの振り上げを放ったが、


「……あ?」


 すでにそこにヒカルはいない。


(足首と膝で衝撃を吸収する——音を立てないように。身体が風の一部になるように。身体が溶けるように——)


 ヒカルはローイエの背後に回っていた。

 ローイエは剣の重さに身体がついていっておらず、ふらついている。


(僕には気づかれていない——「暗殺」が発動しないように、声をかけとこう)


 その姿を、ミレイが目を見開いて見ている。


「ていっ!」

「うわ!?」


 背後からヤクザキックで蹴っ飛ばすと、ローイエは前のめりに転んだ。

 ガラガランと大剣が手から離れて転がっていく。


「——そこまで!」


 ミハイルが制止の声を挟んだ。


「な、なんでですか教官!? まだ戦えます!!」


 すでに立ち上がっていたローイエは言ったが、


「バカ野郎!!!!」


 ミハイルの怒声が響き渡る。

 あんまり大きな声だったのでヒカルの耳がキーンとなる。


「武器を落としておいてなに言ってやあがる、バカ野郎が!! それにな、ヒカルは蹴りでお前を転がしたが、剣を使う余裕は十分過ぎるほどあったんだ。つまりはお前、手加減されたんだよ!」

「うっ……ぐう……」


 ローイエがうなだれる。


(うー、耳が痛い。だけどうまくいった……のか? ローイエじゃ相手にならなくてわからないな)


 するとミレイが声をかけてきた。


「ヒカルくん——今、アタシが教えたのとちょっと違ったよね?」

「え? そうですか? やっぱり、一朝一夕じゃ身につかないか……」


 割とうまくいったと思ったのに、やはりミレイから見ると失敗か——とヒカルがうなだれると、


「そ、そうじゃなくて、逆よ!」

「逆?」

「アタシが教えた以上——次に教えようとしてたことをやってたのよ。気配、消えかかってたわよ」

「気配……」

「……アンタはよくわからない学生ね。戦闘の素人かと思ったら度胸は据わってるし、妙なところにセンスがあるし」

「クセになってんだ。気配消して歩くの」

「はあ?」

「あー、なんでもないです。気にしないでください」


 ミレイがうろんな目で見てきた。さすがに世界を越えればキルアはいない。

 ヒカルは内心で納得していた。

 さっきの動きはミレイに教わったことがベースになっている。

 その上でヒカルはすでに「隠密」状態を体験している。何度も。

 すでに理想の状態が身体に仕込まれているのである。だからヒカルは、そうなるべく身体を動かせばいいだけだったのだ。

 ミレイの言う「気配の消し方」というのがそれだろう。


「ミハイル教官!! 次は俺にやらせてください!!」

「いや、俺が!!」

「俺です!! 大剣をナメられちゃたまらねえよ!


 ローイエの敗北で火が点いたのか、次々に手を挙げる学生たち。

 にやりとしながらミハイルが聞いてくる。


「どうする、ヒカル?」


 ローイエ戦でできた動きは偶然かもしれないし、練度もまだまだだ。ミレイは完全にヒカルの動きを把握していたようだったし、ミハイルはなおのことだろう。現に「あれ? もっとすごい動きしてなかったっけ?」みたいな顔をしている。

 ヒカルとしては今の感覚を身体に記憶させたかったから、他の学生との模擬戦は渡りに船でもあった。

 ソウルボードを見てみると、ローイエよりも腕が立つようだ。「武装習熟」の「大剣」に1がある者もいた。


「……ま、いいけど」

「だそうだ。よかったなお前ら」


 ミハイルの言葉に、学生たちは目をぎらぎらさせながらうなずく。特にジャラザックの青年はすごい気迫だ。


「あ、そうそう」


 すごすごと引き上げるローイエの背中に、ヒカルは言った。


「とりあえずローイエ。お前は『酒万歳』のマスターに謝れ」

「ぐっ」


 そこは忘れないヒカルだった。


「隠密」を使わなくともちょっとそれっぽい動きができるようになってうれしいヒカル。

実のところソウルボード「筋力量」「瞬発力」が彼の動きを助けているからできることではあるのですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] これほど例のセリフが似合うシーンはない
[良い点] 唐突のキルアで笑ってしまった
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