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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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入学の審査

 ヒカルはラヴィアとともに学院の入学手続きに向かった。

 事務棟は開けた場所に立っている3階建ての建物だ。「事務」のためだけなのにこの規模。学院の大きさを物語っている。


「この時期に入学希望……ねえ?」


 1階のカウンター越しに、事務員がじろじろと無遠慮な視線をヒカルとラヴィアに向けてくる。初老の女性で髪の半分は白髪だった。


「入学希望者は年中受け入れていると聞いたんだけど?」

「それにしたって時期ってもんがあります。冬の明けた春か、冬に入る前の秋か。こんな夏に来るのはヨソ者の冒険者か、道楽者です」


 冬が長いスカラーザードは、「冬をどう過ごすか」が重要であるらしい。

「ヨソ者の冒険者」という部分はまさにそのとおりではあるが。


「だから、なに? 来る者を拒まないのが学院のポリシーなんだろ?」

「高い学費を払える者なら、ですけどねぇ」

「ああ、僕らが金を持っているかどうかが心配だったのか? さっさとそう言えばいいのに」

「なっ——」


 事務員は額に青筋を立てる。


「なぁにを小生意気な! アンタ、どこの出身よ!」

「出身? ポーンソニアだけど」

「ッ——」


 一応、ローランドの出身国であるポーンソニアを口にすると、事務員だけでなく、カウンターの奥にいる全員が黙りこくってこちらを見た。


「ほぉう……身に過ぎた野心旺盛なあの国出身ねえ? アンタみたいな子どもも、自信満々ってわけね」


 ヒカルはため息をつく。


「自信満々かどうかなんて、学問をする上で関係があるのか? 早く手続きをしてくれ。時間の無駄だ」

「手続きはしません」

「はぁっ?」

「入学するのに適性があるかどうか試験します。これは学院の規則に沿ったものであなたに拒否権はありません。いいですね?」


 学院は金を払えば誰でも入れる、と聞いていた。学費が高額なので一般学院生となると相当に志の高い者か、金を持った子女ということになる。

 あるいは目立った功績を挙げたり、これから芽が出そうな冒険者も特待生として招かれる。

「試験」だなんて聞いてなかったぞ——。


「おいおい……」

「自信がないのならいいですよ? どーおぞ、お帰りください」

「……試験内容は?」

「それは——ああ、ちょうどいいところに来た」


 事務員がにたりと笑う。

 ちょうど事務棟にやってきたのは、身長2メートルを超えようという大男だった。




「試験内容は簡単だ。相手に致命傷とでも言うべき攻撃を当てたら勝ち。この制服は衝撃を吸収してくれる特殊な魔導具でな。命の心配はしなくていいぞ。俺は学院の『大剣』研究院にして指導教官、ミハイルだ」


 事務棟の裏にある広場で、大男は言った。

 腕や開かれた胸は毛むくじゃらだ。赤色の髪もきつめのパーマがかかっていて、口からあごにかけてのヒゲも多め。

 ヒカルの知識では、この人種は7つの国の1つジャラザックの人間だ。

 ミハイルはヒカルにこっそりと聞く。


「……あのババァは確かにめんどくせえけど、どうやったらあそこまで怒らせられるんだよ?」

「さあね。正論を言われるとキレてしまうお年頃なんじゃないの」

「…………」


 こりゃ、お前にも問題がありそうだな、とでも言いたげにミハイルは肩をすくめて離れていった。

 いつの間にか広場の周囲にはぽつぽつと見物客が現れている。木陰に座って見世物を楽しんでいるかのように。


 ——うわー、鬼教官とあの子がやり合うの? 終わってるじゃん。

 ——なんなの、これ。

 ——事務のババァを怒らせたらしく、見せしめとか聞いたけど。


 外野は好き勝手言っている。

 ミハイルは背中に担いだ大剣以外、動きやすそうな服装だった。綿素材のズボンはブーツに裾を入れ込んでいる。軍人ふうである。


「俺の武器はこいつだ。そっちは?」


 親指で大剣を指すミハイル。


「これ」


 ヒカルは「腕力の短刀」を抜いた。


「ふうん、小剣とは珍しいな?」

「そんなことよりそっちは制服を着ないのか?」


 ヒカルは先ほど貸与された紺のジャケットを着ている。

「そういう姿も似合ってる」だなんてうれしいことをラヴィアは言ってくれたが、そんな彼女はヒカルが「試験」とやらを受けるにあたってなんとも思っていないらしい。「どうせ通るに決まっている」とでも言いたげな。


「『そっちは制服を着ないのか』……? ——ぶはあっはははははは! おもしれえな、お前! この俺の心配をしてくれるのか!」

「過ぎた自信は足をすくうと思うけど?」

「いやあ、驚いた。子どもにしてはずいぶんと口が達者だな。俺はこのままでいい。もしこの試験で死んだとしても、お前の言うとおり、俺は足をすくわれたということだろう。……ぷっくくく」


 よほどおかしかったのか、笑いをこらえきれないミハイル。


 ——おいおい、あのガキ、鬼教官を挑発するとかマジかよ。

 ——死んだなー。

 ——世間知らずって怖いよな。


(この身長だからナメられるのかな? 僕は……)


 年齢的にはまだまだ背が伸びるはず、とは思っているが、多少焦りもあるヒカルである。

 とはいえ、試験——というか勝負に負ける気はなかった。



【ソウルボード】ミハイル=ジャラザック

 年齢32 位階21

 30


【生命力】

 【自然回復力】2

 【スタミナ】3

 【免疫】

  【疾病免疫】1


【筋力】

 【筋力量】8

 【武装習熟】

  【剣】1

  【大剣】3

  【鎧】1



(この程度ならポーンソニア騎士団隊長レベルにも達してないんだけどな……これが指導教官か)


 やれやれ、とヒカルは思うものの、若干勘違いしている。

 ポーンソニア王国騎士団は「剣聖」とも呼ばれた騎士団長ローレンスが鍛え抜いた精鋭ぞろいなのだ。国でも第一級のつぶぞろい。国王をして「これなら他国を攻め滅ぼせる」という気にさせてしまうほどには強い。

 ミハイルも冒険者基準で考えると十分にハイクラスに当たる。

 ちなみにソウルボードにある「ジャラザック」という名前は、家名を持たない者が出身国を名字として名乗ることが多い風習があるためにそうなっている。けっして王族とかそういうわけではない。


「さっさと始めてちょうだい!」


 見物客のひとりになっていた事務員が言う。同じように事務員も、何人か見物にやってきているようだ。建物の中から窓を開けてみている者も多い。


「ああ、この俺に勝つ必要はないぞ。ちゃんとそれなりの実力を見せてくれれば、試験としては合格になるからな! それじゃあ始めるぞ」

「始めの合図は?」

「もう始めていい。どこからでもかかってきな」

「……そっちは剣も抜いていないぞ?」

「お前が先に仕掛けていいと言っているんだ。ハンデくらいなければ見応えもなにもないだろう」


 ふー、とヒカルは息を吐いた。

 ここまでナメられるといっそ清々しい。


「わかった。一応最後に聞いておくけど——オッサン。死ぬ覚悟、できてるって言ったよな?」

「ん? ああ。大丈夫だ。さっさと——」


 ミハイルはそこまでしか言えなかった。

 ヒカルが屈んだ、と思うと、足下に拾った石を投げてきたのだ——とてつもない速度で。

 石ころは真っ直ぐにミハイルの眉間へと向かう。

 あわててそれを手で止める。


「ちっ——あ?」


 ミハイルは目を疑った。

 一瞬、ほんの一瞬、石を受け止めた自分の手によって視界がふさがれた。

 その直後には相手の姿がかき消えていたのだ。


「——っぐ!?」


 そして彼の意識は闇に落ちた。

 後頭部を、思いっきりぶん殴られて。




 どさり、とミハイルが前のめりにぶっ倒れた。


「あー……痛ったいな、これ」


 拳に布を巻いた状態でぶん殴ったのだが、それでもヒカルにも痛みがあった。

「隠密」状態だから短刀で刺したらミハイルはおそらく即死だろう。だからこそ、不慣れなパンチでミハイルを倒したのだった。

 それでも後頭部への衝撃は人命を奪うかもしれない。だからこそ「死ぬ覚悟」をヒカルは聞いたのだ。


「たぶん死んでないと思うけど……っと。よし、大丈夫だな。まあ、頭蓋骨にヒビが入ってたとしても魔法で治せるだろ?」


 ミハイルの頸動脈が動いていることを確認したヒカルが周囲を見渡す。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 広場に、死のような静けさが落ちていた。ぱちぱちぱち、と小さな拍手が聞こえたが、もちろんラヴィアのものだ。


「勝ったけど? 試験はこれで終わりか?」

「…………」

「おーい、聞いてるかー?」


 ヒカルが事務員にたずねるが、目を見開いたまま反応がない。


「おいおい……無効とか言い出したらさすがに僕も怒るぞ」


 事務員に近づいていく——と、その目が見開かれ、恐怖に染まり、


「————」


 背後にばたーんと倒れた。口から泡を噴いて。


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― 新着の感想 ―
ババア事務員は後で暗殺だな。
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