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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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ダンジョンの精算

 ヒカルとラヴィアがフォレスティ連合国の首都、フォレスザードにやってきたのは昨日だ。

 今日、ヒカルはちょっとしたお出かけ(・・・・)をしており、ガフラスティに頼まれた野暮用を済ませた。というわけでもう連合国に滞在する目的は果たしてしまったことになる。


 ヒカルとしてはあの女王陛下と筆頭大臣には思うところもある。

 たったふたりで密談というのは、よろしくないのでは? と。人員不足なのか、とは思ったが、政府建物内には結構な人員がいて働いていた。であれば、それほどまでに他の家臣を信じられないのだろうか?

 天井裏に隠れていた者にしてもそうだ。あんな場所に忍び込ませるのは簡単ではない。政権中枢に裏切り者がいる証拠だ。


 フォレスティ連合国にやってきてからというもの、住民たちの表情は明るい。

 雑多な人種が混じり合っている首都フォレスザードは非常にうまくいっているように感じられた。

 しかしそれは「平和ぼけ」とも言える。隣国ポーンソニアがクインブランドと戦争をやっているのに、この国の住人はまったく危機感を覚えていないようにすら見えた——。


(ま……いいか。僕の知ったことじゃない)


 ヒカルはそんな考えを頭の隅に追いやった。


「それにしても……いいのかしら?」


 ふとラヴィアが言った。


「なにが?」

「こんなに贅沢をして……」


 元伯爵令嬢らしからぬ言葉ではあったが、そう言いたくなるのもわかる。

 フォレスザードでも5本の指に入るトップホテル。

 そのスイートルームに滞在しているのだから。

 食事はすべて部屋に運んでもらっている。


「まあ、いいんじゃないか? お金があるうちにしかできないことだし」


 ヒカルはあっという間に小金持ちになっていた。

 ガフラスティはヒカルの渡した「ポエルンシニア王朝系譜」が本物だと確認したようで、ギルドカードに1,100万ギランを振り込んでくれた。

 そのうち「100万ギラン」はヒカルがゾフィーラに伝言してからのはずだったが、先払いしたようだ。妙に信頼されているのも気持ち悪い。

 ダンジョンの前で渡された白金貨も合わせると——ヒカルはそれなりの「金持ち」になっていた。


 残:919,010ギラン(+11,200,000ギラン)


「さて——落ち着いたところでいろいろと考えないとな」


 ヒカルはコーヒーをすする。

 この地方のコーヒーは、かなり濃いめに淹れられていた。ミルクも砂糖も入れずにブラックで飲むか、蒸留酒をぶち込むのが流儀らしい。

 ラヴィアは早々に飲むのを止めて、ハーブティーのようなものを飲んでいる。


 ルートハバードを出てからなるべく早めに出国しようと大急ぎで移動していた。

 クインブランド皇国との戦争を嫌気した商人たちが出国しようとしており、街道はごった返していた。人の目も多かった。

 だからダンジョンでの戦利品確認すら後回しだった。

 フォレスティア連合国に入ったことでだいぶ心理的にも楽になった。


 ルートハバードの冒険者ギルドに届くはずの荷物——ドドロノ謹製の外套——は、ギルドに金を払ってフォレスザードの冒険者ギルドに転送してもらうことにしてあったので、あと10日ほどはフォレスザードに滞在する予定だ。

 滞在中は贅沢に暮らそうと決めていた。


「それじゃあ、戦利品の確認をしようか」


 ヒカルは、ふたりで使うには広すぎるテーブルにリヴォルヴァーを置いた。

 残弾数は1発。おそらく「邪」の魔法が込められている。


「僕が持ち出せたのはこれだけだ」

「それって魔法を打ち出した()よね?」

「杖……そうか、ラヴィアにはそう見えるのか」


 ヒカルからするとどこからどう見ても「拳銃」なのだが、拳銃を——そもそも銃という存在をラヴィアは知らない。


「どういう構造なのかしら?」

「弾丸があって、それにあらかじめ魔法が入っている。弾丸は使い切りだ」


 弾倉を外すと、じゃらりと6つの弾丸を取り出した。見た目は6つともに変わらないが「魔力探知」ではっきりとわかる。使い終わった5つに魔力反応がない。


(……魔力反応はないけど、一般的な弾丸とは違って撃った後の見た目は変わっていないんだよな。もしかして、これってリサイクルできるのか?)


 ヒカルは空の薬莢のひとつをラヴィアに手渡した。


「これに魔法を込められないかな?」

「魔法を込める……どうやって?」

「…………」


 どうやって、と言われると、わからない。


「詠唱してみる……とか?」

「詠唱して魔法を込められなかった場合、魔法をキャンセルできなくて危険よ」

「うーむ……まあ、これはどこかで実験することにしよう。それか、誰かに調べてもらうか。魔導具に詳しい人に」


 ヒカルの脳裏にふと、ポーンドで出会った盗賊ギルドの親分が思い浮かんだが、残念ながらポーンソニア王国に戻る気はまったくない。


「調べてもらう、ってことは……この杖を渡すの? まさか違うわよね?」

「渡さなければ調査してもらえないよ。杖じゃなくてリヴォルヴァーね」

「こんな貴重なものを!? あれほどの威力があるマジックアイテムなんて、わたし、見たことないわ!」

「そうなんだ。まあ、貴重は貴重かもね」

「わたしの言うことを信用してくれないの? ほんとうに貴重なものだと思うの」

「信用してるよ。ていうか、もし仮に調査を依頼した相手に盗られてもいいんだ。ラヴィアの魔法のほうが強力だし。たいした痛手じゃない」

「……むう。そうやってわたしを褒めて逃げるのはずるいわ」


 そう言いながらラヴィアは頬を膨らませる。

 むくれたところで可愛いんだけどな、とにやにやしているヒカルを見て、ますますラヴィアはむくれる。


「ラヴィア。冒険者ギルドに荷物が届いたら、スカラーザードという学術都市に行こうと思うんだけどどうだろう? リヴォルヴァーの解析を頼めるかもしれない」

「スカラーザード学術都市……この国の宰相が近年改革に力を入れている、教育機関があるところだったかしら?」

「教育機関? 研究機関ではなくて?」

「両方を兼ね備えているそうよ。新たな人材発掘と、最先端の技術開発の場……だとか。冒険者も受け入れているのよ。もちろん、わたしもちょっと話に聞いただけだけれど」

「冒険者向けの教育機関もあるのか……いいかもな」


 そのときヒカルの脳裏にあったのは、「隠密」を向上させるための計画(プラン)だった。

「隠密」のプロ、という人物がいるなら訓練してもらいたい。ヒカルの「隠密」はさらに磨かれるはずだ。今はソウルボードとギルドカードの「職業」による力技でなんとかしているのだから。

 もちろん、力技でも十分と言えば十分なのだが。


(解錠の方法も教えてもらえるならなおのこといい)


 ヒカルの弱点でもある部分だ。「隠密」で忍び込んでも、施錠されている部屋には入れない。カギを破壊すれば別だが。


「もう……ヒカルったら。提案しておきながら行く気満々じゃない」

「む。ごめん。ラヴィアの話を聞いてますます行きたくなったというだけだよ。ラヴィアは反対なの?」

「わたしのことは気にしなくても……」

「そうは行かない。ポーンソニアを出たんだ。君はもう自由なんだよ」

「わたしが行く場所は、ヒカルが行く場所よ。ずっとついていくの」

「ずっと?」

「ずーーーーーっとよ。ずっと、ずっと、ずーっと」

「それはそれは……」


 ヒカルが苦笑すると、


「言ったでしょ? わたしはとてつもない重荷だって」


 覚えてるよ、とうなずいた。


「ラヴィアくらい軽いよ。なんてったって、僕たちは——お金持ちだからね」

「ええ、でも……あの宝物庫は残念だったわ(・・・・・・)。あそこにあったものがすべてヒカルのものになっていたら、一財産よ」


 ほぅ、とラヴィアは手を頬に添えてため息をついた。


「いやいや、ラヴィアさん? 残念と言いながらあなた——あの短時間ですんごい持ち出してますからね?」

「…………」

「泥棒みたいで気が引ける、みたいなこと言ってなかったっけ?」

「…………そうだったかしら?」


 テーブルの上に置かれたのは、ラヴィアのバッグ。

 実は、宝物庫でヒカルがリヴォルヴァーを取りに行っている間、ラヴィアはと言えば他のアイテムを物色していたのだ。

 バッグから取り出されたのは——革袋。両手で持ちきれないほどにいっぱいの宝石。

 ダイヤモンド、ルビー、エメラルド、猫目石、ガーネット、ローズクォーツ——などなど。すべてが大粒だ。

 正直、ヒカルの所持している現金以上の価値がつきそうだ。売る相手を考える必要はあるが。

 そして極め付きは、


「わたしとしてはこの本が欲しかっただけなのだけれど」


 B4サイズの大きさ。

 厚さは6センチほどの分厚い——本。

 革による装丁は丁寧で、装飾(・・)として埋め込まれた宝石は見ていると目がチカチカするほど。

 カギがかけられてあって、まだ中は見ていない。革を裂けばもちろん閲覧可能だろうけれど破壊するのはもったいない。


「本のついでと言うには、これだけの量だからなあ。ラヴィアもすっかりお金持ちだ」

「え? これらはみんなあなたのものよ」

「え?」

「えっ?」

「いやいや……え?」

「あ! でも本は! 本だけは中身を読ませて! ねっ!?」

「……それはもちろん構わないけど、宝石も本もラヴィアのものだよ。さっきも言っただろ? もう王国を出たんだから、僕らは対等で——」

「対等じゃない」


 身を乗り出したラヴィアは、テーブルに置かれたヒカルの手に自分の手を重ねた。


「対等じゃなくていいの。わたしは……対等ではないことを望んでいるの。できることならこの先もずっとあなたの庇護下でいいと思っているの」

「ラヴィア……」


 彼女の決意は固いようだ。

 ふう、とヒカルは小さく息を吐く。


「わかったよ。でも、自由に使えるお金はちゃんと分けよう。いいね?」

「それは——ええ、構わないわ。その程度は譲歩しないとね」

「それともうひとつ」


 人差し指を立てたヒカルは、そのままラヴィアを指差した。


「明日、服を買いに行こう。もう、少年の格好をしなくていいんだ」


 ずっと続けていた男装は、ここらで終わりにしよう。

 ラヴィアも新たにギルドカードを持ったらいい。お金を預ける機能は神殿が発行するソウルカードにはないのだし。


「あら、それは命令かしら?」

「あー……違うよラヴィア。不器用なことで申し訳ないけど……」


 少しだけ照れて、ヒカルは頬をかいた。


「……デートのお誘いなんだ」

「…………」


 じっ、とラヴィアがヒカルを見る。

 彼女はイスを下りると、つかつかとヒカルの横にやってくる。

 そうして彼の腕に、ひしっ、としがみついた。


「えへへ〜。えへへへへへ〜」

「お、おい、なんだよ」

「えへへへへへ〜〜〜〜」

「行くの? 行かないの?」

「行きますぅっ!」


 それからなかなか、ラヴィアはヒカルの腕を放してくれなかった。




 幸せそうな顔でラヴィアが寝ている。

 ヒカルはひとり、ホテルのイスに座っていた。


「さて……と、こっちもいろいろと考えなきゃな」


 そしてヒカルはソウルボードを開いた。

次回は新たに手に入れたスキルとか、新しい「職業」とか。


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