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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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古代神民の地下街 9

「チッ」


 ヒカルはラヴィアの腕を引いて立ち上がらせる。


「走れるか!?」

「は、はい!」


 宝物庫を飛びだしていく。ガラガラガラと背後では壁の崩れる音が聞こえてくる。


「あれは、巨人なの!? こんなに近くに来ていたなんて……」


 まったく同意だった。そしてヒカルは自分で自分をぶん殴りたい気持ちだった。


(近寄れば地響きがするだろうと油断していた……それにリヴォルヴァーを見つけて「魔力探知」がおろそかになっていた。あの巨人に近づかれたのは僕のミスだ……!)


 巨人はおそらく、地響きがしないよう慎重に近づいてきていた。

 だからこそ速度はゆっくりだったはずだ。ヒカルの「魔力探知」があれば巨人の接近に気づけたはずだった。


「ラヴィア! ランプの明かりを最大に!」

「でも、そうしたらアンデッドが……!」

「連中は近くにいない」


 そう、アンデッドの存在は「魔力探知」では感じられなかった。どこにもいない。巨人が来たから、逃げるように——。


(巨人は僕らの位置を、正確につかんでいる)


 それは確信にも似た推測だった。


(忍び寄って攻撃を仕掛けてきた時点で、そうだ。どうしてだ?「集団遮断」を切ったから? いや、違う——)


 ヒカルはラヴィアの手をつかんでいる。「集団遮断」は発揮されている。宝物庫を出たタイミングで視界から逃れ、本来なら再度「隠密」状態になっているはずだ。


(どうやって僕らの位置をつかんでいる?)


 魔導ランプの明かりが王城の通路を照らし出す。

 振り返ったヒカルは、宝物庫をぶち破ってきた巨人の姿をとらえた。


「おいおいおいおい……!」


 巨人には狭すぎる廊下を走り出す。

 廊下の柱をへし折りながら。

 ゴォン、ゴォン、ゴォン、ゴォン——柱をへし折っても巨人の足は止まらない。


「こっち!」

「きゃあっ」


 ヒカルはラヴィアとともに細い通路へと入り込んだ。ふたり転げた向こうを、巨体が走り抜けていく。


「ラヴィア、立って」

「は、はい」


 手をつないで走り出す。ここから先の道はわからない。

 ぞくり——視線を感じる。

 ヒカルが飛び込んだ通路をのぞき込む、紫色の瞳。


「うおっ」


 腕が伸びてきた。

 10メートル以上離れたと思って安心していたのに、ゴムのようにぎゅううんと迫ってくる。

 つかまれる——。


「当たれッ」


 ヒカルはリヴォルヴァーを腕へと向ける、即座に引き金を引く。

 ギィィィインッ——。

 火薬の音らしからぬ、金属音が響く。

 銃口から飛びだしたのは青色の軌跡。巨人の手に触れた瞬間、その手が氷に包まれ、向こうへと弾かれた。


「な……なんだこれ。——銃じゃない? まるで魔法みたいな……」

「ヒカル! あれ!」


 通路の入口では、さすがに狭くて入れない巨人がこちらをにらんでいる。

 全貌ははっきりとは見えないが、1メートルはあろうかという頭の上に、球状のなにかが乗っかっている。ラジコンのアンテナのようですらある。

 それが、チカッ、チカチカッ、と小さな火花を発する。


「————」


 ヒカルの全身に鳥肌が立つ。

 マズイ。アレはマズイヤツだ。絶対に作動させてはいけない——。


 拳銃を構える。

 だが、これで当たるだろうか?

 近寄ったら巨人の手がある。


(素人の僕がとっさに撃ったら当たった——この命中率補正は——)


「投擲」2の効果。

「弓」ではなく「投擲」でいいようだ。

 ヒカルはソウルボードを呼び出した。


【筋力】

 【筋力量】1

 【武装習熟】

  【投擲】2


 アンデッドを殺しまくって上がったポイントを注ぎ込む。


【筋力】

 【筋力量】1

 【武装習熟】

  【投擲】10(MAX)

   【天射】0


 派生スキルをチェックするのは後だ。

 リヴォルヴァーを再度構えた瞬間、レーザーポインタがついているかのように、撃てばどこに当たるかがわかった。

 ヒカルは巨人の顔——その上の球に向けて撃った。

 今度は灰色の光がほとばしる。球に命中した瞬間にそこから岩石が噴き出して顔を包み込む。


「——足りないか」


 だが、頭上の光は止まらない——岩石の隙間から光がこぼれる。点きの悪いガスコンロのような火花が。


「ラヴィアこっち!」


 ラヴィアの手をつないで走り出す。

 突き当たりの角を曲がった直後——カッ、となにか、フラッシュが焚かれたような感覚が背後であった。


「……?」


 恐る恐る振り返る。だが、特に変わりはない——。


「ひ、ヒカル……それ……」


 ラヴィアが指したのは、ヒカルのマントだ。

 マントの裾が、どろりと溶けていた——腐敗したニオイが立ちこめる。


 巨人。

 特殊な攻撃方法——腐敗。

 地下街の大量のアンデッド——。


「……アレが、アンデッドを大量に生み出した正体か……?」


 むちゃくちゃだ。

 光のような性質を持っているのなら、全方位に発せられることになる。

 ぶるりとする寒気を押し込めて、ふたりは再度走り出す。

 そう遠くないところで地響きが聞こえる。巨人もまたふたりを追っているのだ。


「王城への入口は一箇所——逃げ道はあそこだけだ」


 建物を出て、広場へと至る。

 その先に橋がある。デッドナイト率いるドラウグルの大群がいる——はずだった。


 無人だった。


 先ほどまでいた大量のアンデッドが夢であったかのように、無人だった。


「逃げたのか……?」


 アンデッドは巨人を恐れているのだろうか?

 彼らをアンデッドにした原因を——。


「クソッ、早いな!」


 王城を壊しながら巨人が広場へとやってきた。

 巨人はぐるりと視線を巡らせると、橋へと逃げていくヒカルたちに気がつく。


『オオオオォォォォァアァァアアアアアアアアアア————』


 鼓膜に針でも突き立てられたかというほど、耳が痛い。

 巨人の叫び声に応じて王城がビリビリと震える。

 至近距離で大音声を浴びた壁が崩れていく。

 600年間、地下で立ち続けていた城が崩れていく。


「真っ直ぐこっちに向かってる——やっぱりこっちの居場所を把握している」


 再度ふたりは走り出す。


「ヒカル……わたしが、足止めする……わたしの魔法なら、最大限魔力を込めれば……!」


 ラヴィアが、握りしめる手の力を強める。


「巨人を殺せないかもしれないけど、それでも足止めにはなるわ! その間に、ヒカルは逃げられる! だからわたしをここに置いて——あ痛っ!?」


 ラヴィアがうめいたのはヒカルがデコピンをかましたからだ。

 涙目のラヴィアがヒカルをにらむ。


「な、な、な、なにをするの!?」

「却下」

「ええっ!?」

「巨人を仕留められなかったら君はどうなる? 大体、さっき結構な魔法を撃った後で、今、最大火力を撃ったらその後の君はどうなる?」

「…………」

「立てなくなるよな。その間、僕に先に行けって?」


 ヒカルは小さくため息をつく。


「まいったな。王都に護送される君を助けたのは結構手間がかかったんだぞ? それを簡単にフイにすると言われるとね」

「で、で、でも! このままじゃ、このままじゃふたりともやられてしまうわ!」

「やられない」


 ふたりは橋を渡りきった。

 巨人がすさまじい速度で走ってくる。


「ひ、ヒカル!」


 立ち止まり、背後を振り返ったヒカルはリヴォルヴァーを構えた——。


 巨人が橋を渡ってくる。

 足音で橋がミシミシと悲鳴を上げる。


 2回、引き金を引く。

 発せられたのはオレンジ色の業火と、白くまばゆい雷光。

 その2種は見事命中した。


 橋に。


 巨人の足下が崩れる。

 巨人は空堀へと落下していく。


 足下——ずぅぅぅん、と地響きとともに大きな音が聞こえてきた。

 突如、周囲には静けさが訪れる。


「——た、倒した、の……?」


 ラヴィアの掲げた魔導ランプの光が、ガレキとともに埋もれている巨人を照らす。

 深さは30メートルはあるだろう。巨人がジャンプしても届かない。

 砂埃が舞っていて巨人の姿が見えない。

 だが——。


「!」


 紫色の光が、カッ、と点った。

 ゴゴンと音を立ててガレキを吹き飛ばす腕。

 欠片がこちらまで飛んできて、ヒカルは首を傾けてそれをかわした。


「……巨人、というかこいつは——ゴーレムだな」


 砂埃が収まってくる。

 肉感のある身体ではない。操り人形のように、関節部のある構成だった。

 身体は岩かなにかを削り出されており、表面に奇妙な紋様が彫り込まれてあった。その紋様を伝うようにして紫色の光が走っている。

 胸板が分厚いのに比べて腰はやたらくびれている。

 顔は人間を模しているようではあったけれども鼻や口はなく、目が光っているだけ。

 そして頭上にはヒカルが破損し損ねた球状の——アンデッド生成装置があった。


「い、行きましょう、ヒカル……出てくるのにしばらく時間がかかるでしょうし」

「…………」

「ヒカル……? もしかして……なんとかして倒せないか、とか考えてない?」


 ヒカルはラヴィアを安心させるように微笑んでみせた。


「大丈夫。もしかしなくても考えているよ」

「よかっ——え?」

「あのチカチカしてるヤツを使ってこないところを見ると時間制限(クールダウン)があるか、もう使えないかだろうし、有効な長距離攻撃手段を持ってはいないようだ。なんとか登ろうとして腕を伸ばしたり壁を削ったりしているけど、相当時間がかかるだろう」

「でもここからじゃあんな大きいの倒せない——あ、やっぱりわたしが魔法を撃つ?」

「さっきも言ったとおり君が魔法を撃って、それで倒しきれなかったら悲惨だ。おんぶして街まで戻れる体力は僕にはないな」

「じゃあ……やっぱりこのまま逃げるしか……」

「逃げるのは構わないけど、たぶん追ってくるんだよね。地上に出て、こいつがあきらめずに街まで追ってきたら大惨事だよ。やっぱりここで片をつけたい」

「それじゃあ、どうやって?」


 ラヴィアがヒカルにたずねる。

 ヒカルにはある仮説(・・)があった——それを、実験を通じて確認したい。

 成功すれば巨人は追ってこない。巨人を倒すことすらできるかもしれない。

 失敗すれば——逃走だ。街が、犠牲になるかもしれない。


次回でダンジョン編は終わりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] デッドナイトは城の騎士で巨人と戦うために集まっていたはず。 戦えずアンデッドになったが巨人が現れたのなら・・
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