古代神民の地下街 8
ちょっと短いです。申し訳ない。
本人が言ったとおり、ラヴィアの体調はさほど厳しくはないようだった。
ヒカルとともに手をつないで小走りに進んでいく。
巨人が近づいてくるのを感じる。どれくらい距離があるのだろうか。だが巨人からすれば「王城に何者かがいる」と感じていることだろう。「集団遮断」で王城から離れればとりあえずは安心できるはずだ。「集団遮断」を見抜かれる心配はない。見抜かれるのなら王城に侵入した時点でバレているだろうからだ。
つまり安全を最優先するならさっさと逃げるに限る。
(でも、宝物庫とカギを前に逃げるなんてできないよな!)
巨人をやり過ごしてから戻るという手もあるが、巨人が宝物庫をぶっ壊さないという保証もない。なにせ巨人だ。資料庫から見ていたヒカルと同じ視線の高さだった。身長10メートルはあるだろう。
宝物庫の前までやってくると、さすがに息が上がっていた。宝物庫のカギを持っていたアンデッドは倒れたままだった。
「よし、やってみよう……」
国王アンデッドから奪った指輪をカギの窪みにはめ込む。ぴたりと当てはまる。ポゥ、と小さく光った。
「やっぱりこれだ」
「そうね!」
思わずラヴィアと顔を見合わせる。
ヒカルはそのカギ穴に差し込む。
「…………」
「…………」
「……あれ? 動かない」
「えっ!? なにか足りないの!?」
ヒカルは少し考えてから、ラヴィアとつないでいた手を離した。
すぐに周囲が明かりに満ちる。生きている人間を探知して明かりが点く仕組みなのだ。
即座にラヴィアの手をつないで「集団遮断」を発揮する。
目の前ではその間にも、変化が訪れていた。
「あ……」
差しっぱなしのカギ。カギ穴から、光の波紋のようなものが立つ。
それは宝物庫の扉を揺らす。石扉の表面自体が波打ったように見えた。
「やっぱりそういうことか」
この城は、人間がいないと「電源OFF」の状態になるのだろう。まるで電気だ。600年経った今でも作動しているのは驚きの一言ではあったが、この「電気」は逆に600年間誰も使わなかったからこそ、残っていたのかもしれない。
扉がゆっくりと開く。
同時に、地響きがどんどん近づいてくる。
「ひ、ヒカル……」
「光に反応したんだろうな。めざとい巨人だ——入ろう」
人ひとりぶん開いたところで宝物庫内に身体を滑り込ませた。
中も十分に明るい。
広さは——さほど広くないな、というのが正直なところだった。
細長い、ウナギの寝床のような部屋。左右に棚があり、所狭しとアイテムが並べられている。
真ん中の通路は十分広いのだが、中央にもところどころ展示アイテムがあるので狭苦しく感じられる。
「よさそうなものを見つけたらどんどんいただこうか」
「……なんだか泥棒みたいね」
「冒険者と泥棒の違いは、盗む相手がモンスターかどうかってだけだよ。——それにしても」
ヒカルは視線を走らせる。
「すごいな……」
「ええ……」
暗闇に慣れていたせいで明かりがまぶしかった、というのもある。
だがそれを抜きにしてもここはすごい。
金で造られた箱にはこぼれんばかりの宝石が。
ネックレスの真珠の粒は親指ほども大きい。
水晶を削り出して造られたフルアーマー。
無造作に立てかけられた槍からは青白い光が立ち上っている。
並んだ書物も宝石の装飾がついている。
王冠だって無造作に5つも並んでいた。
ダイヤモンドをくっつけたマントもある。
王様の「特別ウォーキングクローゼット」みたいなものだ。
まばゆい。
目が眩む、という言葉がまさしくぴったりだ。
「ラヴィア、お互い好きなものを適当に持っていこう。重量には気をつけて」
「いいの……かな? 持っていっていいんだよね?」
「許可を取ろうと僕も思ったんだけど、相手はしゃべれなかったから仕方ないな。——周囲にはアンデッドもいないようだし、一度手を離すよ」
ふたりは手分けして、持って行ける範囲の財宝をもらい受けることにした。
ヒカルは宝物庫の奥へと歩いていく。こういうときはいちばん奥にいちばんいいものがあるのがRPGの定番だ。
「3つ、か」
いちばん奥の壁際には展示台が3つ、置かれていた、
中央から確認する。
直径50センチほどのテーブルに、ビロードが敷かれ、野球ボールよりちょっと小さいくらいの四角いものがあった。
透明な水色。水晶のようにも見えたが、中には火花のような光が常に走っている。
金属製のプレートが手前にあり、そこにはこう書かれていた。
「聖魔球」
指先でちょんと触れても問題ないようだ。ヒカルはビロードに包んでバッグに突っ込んだ。
次は左の展示台——ヒカルは一瞬止まった。
「……ウソだろ」
まさか、こんなものをここで見ることになるとは思わなかった。
象牙のようなものを削り出して造られたグリップ。
ヒカルが映り込むほど銀色に輝く金属の塊。
6つのスロットがある樽の形をしたもの。
収まっている撃鉄。
連動している——引き金。
正真正銘、拳銃。
リヴォルヴァーが鎮座していた。
ヒカルは手を伸ばしてそいつを手に取る。ずしりと重い。知識としては知っていたが、実際に持つのは初めてだ。
精巧に造られている。モデルガンではない。弾丸がないのを確認し、引き金を引くと撃鉄がカチンと音を立てて動いた。
ピカピカの銀色に光る弾丸が6つ、そばに並んでいる。それらをつかんで弾倉に込めてみる。
(撃てる……のか? 大きな音が鳴るはずだ。ここで試すことはない。でもどうしてこんなものが……これこそオーバーテクノロジー過ぎるだろ)
待てよ、と思い返す。
(「東方四星」に明らかに日本人がいた。転生者は過去にもいた……600年以上前にも。彼、あるいは彼女が造ったのか……。だけどこの世界には銃がない。おそらく個人で造って、その製法や使用方法は失伝したということか? あるだろうか、そんなこと? 実物さえ見てしまえばコピーするのは簡単だろうに)
そのときヒカルは気がつく。
(弾丸が特殊なのか?)
弾倉を取り出す。弾丸をよく見ると——そこに魔力が漂っているように感じられる。
この弾丸が「再作成不可能」なものだとすると、拳銃は、6発しか撃てないきわめて貴重な武器ということになる。
そこにも金属のプレートが置かれてあった。
「なんだ、読めないぞ?『魔導』……『ルガンツの造りし』……『4種のうちの1つ』……うぅん?」
ここに至るまで古語の読みは問題なかった。にもかかわらず読めないというのは、さらに古い時代の言葉かもしれない。あるいは他の言語が混じっているか。
「!」
そのとき、ヒカルの「直感」が危機を知らせる。
「ラヴィア、伏せろ!!」
ヒカルはすでに走り出していた。
戸惑った顔のラヴィアに、タックルをかますように倒れ込む——直後。
ドォオオオンッ。
宝物庫の壁が、吹っ飛んだ。
そこにあったのは紫色の禍々しい魔力をまとった腕だ。
巨人だ。





