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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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古代神民の地下街 7

***R15 燃えます

 巨人が見えた瞬間、ヒカルは窓を閉じた。このまま見ているのはマズイ——そんな気がしたのだ。

 それと同時に王城を明るくしていた謎の光も収まり、元の暗闇へと戻った。「魔力探知」ではアンデッドモンスターたちの動きがわかるが、しばらく慌ただしく動いていた彼らも、今は元の通り動きを停めている。

 魔導ランプの明かりだけが点る部屋で、ヒカルとラヴィアは簡素なイスに腰を下ろした。600年という時間を経ていても頑丈にふたりを受け止めた。


「……さっきの、見た?」

「見たわ……なによあれ。巨人?」

「ラヴィアの読んだ冒険物語に出てこないの?」

「巨人の話なんてない——ああ、でも神話には出てくるわね。神々が遣わす兵隊が巨人なのよ」

「へぇ。神々の兵士ね」


 言いかけたヒカルは、ラヴィアと視線を交わす。


「……もしやとは思うけど、この王都が地下に沈み、住人たちがアンデッド化した理由って」

「……神の怒りに触れた?」

「…………」

「…………」


 どちらともなく沈黙が訪れた。


(バカバカしい、と一蹴できないところが恐ろしい。大体、この世界には神がいるんだよな……)


 ヒカルのポケットにはギルドカードが入っている。神の恩恵を授けてくれるギルドカードが。


「とりあえず巨人は置いておいて、書庫を調べてみようか」


 あれから地響きは収まっている。やはり明かりに反応したようだ。

 ヒカルはまずテーブルにあった羊皮紙を調べていく。ラヴィアとは手をつないだままではいられないので、ヒカルのうなじに手を当ててもらうことにした。肌と肌が触れていないと「集団遮断」が発動しないらしい。


『王朝暦XXX年X月X日——御前会議議事録要旨 王都地下転移後2日経過』


「いきなり当たりだ。地下転移に関することが書いてある」


 ヒカルはラヴィアにもわかるように音読した。


『聖王朝を襲いし巨人への対策議論。陛下のご意向は定かならず。軍務卿始め、右将軍、左将軍ともに、聖都を地上に戻し巨人と抗戦すべしと。財務卿は度重なる聖都拡張により国庫逼迫(ひっぱく)とのこと。聖魔供給施設の稼働が軌道に乗っていないと。

 内務卿より聖都神民の様子について報告あり。神民の多くは陛下の御聖断に深甚(しんじん)なる感謝を捧げる。聖魔の供給は途切れがちであるが生活に支障はなしと。

 会議中断。空が割れたかという轟音のため。魔導卿によれば強引に聖都へ侵入しようという者あり。結界が働き撃退せりと。軍務卿の指示のもと、聖騎士団が警戒に当たるべく行動開始。

 その後、再度轟音響く。轟音は前回の倍以上の』


 文書はそこで終わっている。


「……この『侵入しようという者』って巨人のことかしら?」

「だとすると、いろいろとつじつまが合うな。騎士や兵士が少なかったのは巨人対策のために出払っていたからだ。で、巨人にやられた」

「ずいぶんと自分たちを『聖』とか『神民』とか言って持ち上げているわね……」

「この王都を地下に転移できるだけのテクノロジーがあったんだから、勘違いしてしまったんだろうな」


『聖都を地上に戻し』という記述があるのだから、自分たちで王都を転移させたと考えるのがふつうだろう。


(にしても、とんでもないな、魔法は……都市をまるごと転移かよ。でもその技術は失われた)


「あの巨人はどうして王都を襲ったのかしら? それに『聖魔の供給』とあるけれど、これがなにかわからない。それに——どうして王都の人民はみなアンデッドモンスターになっているの? やっぱり神の怒り?」

「わからないな。全部の文献を調べればわかるかもしれないけど——」


 ずずぅん、と地響きがした。パラパラ……と天井から砂埃が落ちてくる。


「あの巨人……停まったのかと思ったけど、僕らがいることに気づいてるかもしれないな」

「ヒカル、待って。これはなにかしら?」


 ラヴィアがテーブルに置かれていた1つの巻物を指した。表書きにはこうある。


「『聖王朝系譜』と書かれてる。それがなに?」

「どうしてそんなものがここにあるのかしら? 非常事態だったわけよね?」

「……ラヴィア、いいところに気づいたな」


 ヒカルが巻物を解くと、そこには確かに家系図があった。王族の名前、婚姻先、王家から外れた者——。


(……なんだ? この巻物から魔力的な反応がある。重要なものなのか? それに……)


 王名は、基本的に名前の後ろに「ギィ=ポエルンシニア」で統一される。だけれど一度王族から外れてから戻った者や、別の貴族家から婿や嫁を取るケースもある。

 それらの貴族のフルネームはしっかりと書かれてあった。

 いちばん最後に書かれている王の名前——彼の父は、別の貴族家から来ていた。そしてその貴族家の名前は、系譜のあちこちに書かれてあった。


『バルブス家』——。


 歴史学者ガフラスティ=ヌィ=バルブス(・・・・)と無関係だとは、どうしても思えない。


「! ヒカル!」


 地鳴りのような音が響いてくる。

 窓を薄く開けてみる。紫色の巨人がゆっくりと、こちらへ身体を向けようとしている。


「身体がなまってるから体操しようっていう雰囲気じゃないな」

「こっちに来るかしら」

「だろうね。ラヴィア、ひとつ覚悟をしてくれないか」

「なに?」

「王を殺す。——ああ、いや、もう死んでるか」


 アンデッドとなった国王を倒す。ヒカルはそう言っているのだ。

 ラヴィアの表情が引き締まる。


「……構わないわ。あなたがやれというのなら、わたしは倒す」

「ありがとう。正確には、国王は僕がやるから、残りのデッドノーブルを頼む」

「はい」


 ヒカルは巻物をぐるりと巻き取ると、バッグに突っ込んだ。系譜なんぞをなんのためにここに置いておいたのかはわからないが、ガフラスティはおそらくこの系譜が欲しかったのではないだろうか? 持ち出しておいて損はないし、他を調べる時間もない。

 ふたり、手をつないで資料庫を出た。




 人間を探知して動くテクノロジー、「電気」のように使える照明、それらはこの世界では見なかったものだ。「魔導ランプ」というものはあるが、これは「乾電池」で動く「懐中電灯」のそれとほぼ同じ。コンセントから電気が供給されているのとはまったく違う。


(「電気の供給」……「聖魔の供給」、か)


 ずぅぅぅん……と床が揺れた。

 巨人が動き出している。ヒカルはラヴィアとともに謁見広間へと戻ってきた。


「国王を倒して……宝物庫へ?」

「そのとおり。あんな巨人、相手にしていられないよ。逃げるに限る」


 ヒカルは、十中八九、あの巨人がアンデッドを生み出した原因だと考えていた。

 自ら「聖王朝」などと名乗ってしまう王たちが、集団自殺をして自分たちをアンデッド化するとは思えないのだ。

 あれほどの広範囲を破壊した巨人だ。とんでもない力を持っているのは間違いない。それこそ人智を超えた——。


(神兵……)


 ああいうデカイ相手はヒカルの天敵だ。倒せる気がしない。


「ラヴィア、着くよ」


 謁見広間の手前で立ち止まる。かすかな声で、いまだに議論している貴族たちの声が聞こえてくる。

 巨人が至近距離に現れたというのに、彼らは軍の働きに期待してここを動かなかったのだ。

 それは、過ぎたテクノロジーを手に入れたがゆえの傲慢なのかもしれない。

 そして彼らが気がつく前に——なんらかの力が働いて、全員がアンデッドと化した。


「僕が単独で国王を仕留める。詠唱中の君はここに残す。手を離した瞬間、位置がバレるだろうけれど、魔法を撃ち込めば大丈夫だ」

「わ、わかった」

「僕ごと吹き飛ばすつもりでやってくれ。僕は大丈夫だから」

「ほんとうに?」

「ああ。約束する。これでも石橋を叩いて渡る性格なんだ」


 ぎゅうと握りしめられた手の力が緩む。


「……あなたって、ウソつきよね」

「死ぬ気がないのはほんとうだし、リスクはちゃんと計算している。君の魔法は広範囲に影響があるから、ここなら壁の陰に入れるだろ?」

「そういうことね」

「——君がどんな魔法を使っても、僕は大丈夫だから」


 前回、強烈な火魔法を使ったあとのことを思い出した。ラヴィアは不安な顔をしていた。


「そこは信用しているわ」


 イタズラっぽくラヴィアは笑ってみせた。大丈夫そうだな、とヒカルは思った。

 そしてラヴィアが詠唱を始める。


「『我が呼び声に応えよ精霊。我が欲せしは万物を、生き物を、理すらも焼き尽くす業火』――」


 ラヴィアを中心に魔法陣が現れる。まだ「集団遮断」は発揮されているから、こちらに気づいた様子はない。

 今だ——。

 ヒカルは走り出した。


「『踊れ精霊』」


 その瞬間、広間にいる全員がラヴィアに振り向いた。

 予想以上に速い反応速度に、ヒカルは舌打ちする。

 今さら止まる気もないが。


「『我が魔力を糧に歌え精霊』」


 ヒカルは「隠密」状態でアンデッドの王の前へとやってきた。その胸元に「腕力の短刀」を突き立てると、国王の身体から力が抜けた。

 単独での「隠密」ならば国王もヒカルを察知できなかった。

 魂の位階があがる感覚。

 デッドノーブルたちはラヴィアへと向かおうとしていたが、国王がやられたことに気がついた。

 なにが起きたのかと足を停める。

 ヒカルはすぐにアンデッドの腕から指輪を抜き出す。そして「隠密」状態を解除する。


「初めまして、皆さん。そして——さようなら」


 にやりと言って、すぐに身体を翻す。


「『無垢なる天地を取り戻すため、焼き尽くせ』」


 デッドノーブルがヒカル目がけて殺到する。

 だがヒカルは彼らよりもずっと早くラヴィアの元へと戻った。だてに「瞬発力」を2まで上げていない。

 頭上には巨大な炎の塊が、魔法陣から生み出されている。


「『業火の恩恵(フレイムゴスペル)』」


 魔法陣が、ガラスのように割れる。光を放ちながら。

 放たれた炎の大蛇はデッドノーブルたちを呑み込んでいく。着地のタイミングで、熱風が吹き荒れる。

 魔力の消費によって脱力するラヴィアを抱えて、ヒカルは通路へと避難する。

 真昼のように明るくなる謁見広間。天井に彫り込まれた見事な彫刻——天使と悪魔の戦いが、600年振りに光の下にさらされる。

 だがそれもすぐに終わる。デッドノーブルたちを——国王も含め、アンデッドを焼き尽くした炎は鎮火した。

 焦げたニオイが熱風によって運ばれてくる。肉の焼けるニオイではない。それを通り過ぎて、死体は炭化している。


「歩ける?」

「ええ……前よりはだいぶマシ。『職業』をあなたに言われたとおり『魔力の理に挑む者』にしておいたのもよかったのかしら」


 威力は弱くなるが、消費魔力量が減るだろうと踏んだのだ。「フレイムメイガス」は強すぎる。


「なんだか……すごく魂の位階が上がったような」


 デッドノーブルの大量殺戮だ。いや、すでに死んでいるから「殺戮」もなにもないのだが。


「そうだね。でも確認する前に——行こう。ヤツが来てる」


 地響きはだんだん近づいていた。

 ヒカルは国王から巻き上げた指輪を握りしめた。


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