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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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古代神民の地下街 1

申し訳ありません。ダンジョンの展開については考えてあるのですが、その後の大きな方針をどうしようか考えているところです。これから先、毎日更新ができず、1日2日空いてしまうことがあるかもしれません。

できる限り更新は早めにしたいと思いますが(3日は空けない)、あらかじめご了承いただきたく、よろしくお願いします……。

「うう……面目ない」


 ヒカルは謝罪した。「ちょっと怖い」と言ったラヴィアに「ならば逃げよう」などと言っておきながら「ダンジョンを踏破する」と宣言してしまった。

 舌の根も乾かぬうちにとはよく言ったものだ。

 さすがのラヴィアもこれには苦笑する。


「大丈夫。あそこまで言われたら怒るわ。わたしだって『ヒカルはすごいのに』って言いたかった。でもわたしからは言えないから……本人のヒカルが言ってくれてスッとした」

「そう言ってくれるとありがたいけど」

「それにヒカルは判断を誤らない人でしょう? 命の危険があると思ったら、踏破のことを忘れてちゃんと回れ右できる」

「ああ、約束する。生きた身体で踏破しなければ意味がないから」

「じゃあ、行きましょう?」


 ふたりは霊廟の前までやってきたところだった。

 先ほどの冒険者たちは、ヒカルの宣言を聞いて——しばらくの沈黙の後、大爆笑。「せいぜいがんばれ」と言い残して先にダンジョンへ入っていった。

 ギルドの係員は、ヒカルが規則を盾にすると「……通行は認めますが、このことはギルドに報告しますからね」とイヤそうな顔でなにかメモを取った。いくらでも報告してくれて構わないとヒカルは思う。どうせこの後は出国だ。むしろ気持ちに踏ん切りがついた。


「行こう」


 石造りの小さな小屋に見えるが、そこは確かに霊廟だった。

 中は壁際に棚が備え付けてあり、骨壺が並んでいた跡がある。火葬の習慣はこの世界では珍しい。骨壺は、調査のために持ち去られたのだろうか。

「古代神民の地下街」はこの霊廟が入口となっている。

 そもそも発見の経緯が変わっていて、街道周辺に低位の霊モンスターが出現したことによる。近辺に集落や墓地はなかったために冒険者が調査に当たったところ、この霊廟を見つけたというわけだ。


 地面にぽかりと空いた穴には簡易的な階段が取り付けられてある。

 ダンジョンの入口、というわけではなくて「単に穴が空いていただけ」というのが発見当時。

 200メートルほどゆるやかに下っていくと「古代神民の地下街」が広がっているらしい。


『この霊廟は地下街とはなんの関係もない。なぜならば地下街に出現するアンデッドモンスターは、古代ポエルンシニア王朝期の服を着ているからだ。古代ポエルンシニア王朝は600年以上前に崩壊している。霊廟の建立はここ100年といったところだ』


 と、歴史学者ガフラスティ=ヌィ=バルブスは言っている。

 つまり地下街は古代ポエルンシニア王朝の人間が造ったものであり、そこの死体がアンデッド化した、と。

 アンデッド系モンスターは魂を引き寄せる。長い年月をかけて地面を掘ったアンデッドがおり、この霊廟にたどり着いたのではないか——という記載が「資料」にはあった。何百年も素手で地面を掘り続けたアンデッドを想像し、その執念を思うと空恐ろしさを感じるヒカルである。

 ちなみに「ポエルンシニア」は「ポーンソニア」の古語読みだというローランドの知識があった。王朝の歴史については漠然とした記憶しかなかった。


「足下気をつけて」

「ありがとう」


 ヒカルが先に階段へと足を踏み出し、ラヴィアの手を取る。

 階段は壁際に魔導ランプが取り付けられてある。一定の距離ごとにあるので不十分ながら視界は確保できている。「集団遮断」を発動してヒカルはラヴィアとともに地下道を進む。


(ひやりとしてきたな……)


 気温が下がったのを感じる。奥から弱い風が吹いていて冷気を運んでくる。壁面は剝き出しの岩盤に変わる。ランプの照らす岩肌がぬらぬらと濡れている。

 どこかで、ぴちょん、と水滴が滴った。

 200メートルはあっという間だと思ったが、思いの外、遠くに感じられた。ヒカルもラヴィアも言葉少なになる。だが始まりがあれば当然終わりがある。


「わ……広い」


 通路は唐突に終わった。ふたりが出たところは、石造りの民家だ。壁に穴が空いていて、そこに通路はつながっていた。急にからりとした空気が口に入ってくる。

 何人もの人間がやってきたのだろう、床は泥だらけだ。ボロイ毛布やテーブルが置かれている。


 ——アアァァア————……オオォォォォ………………。


 犬の遠吠えのようなものが遠くから聞こえてきた。

 なんとはなしにヒカルはラヴィアと視線を合わせてしまう。犬ではない。モンスター……あるいは、人間だろう。

 ギィ……と木製の扉が外へ開いた。黒々とした闇が口を開けている。

 ここから先だ。いよいよ、ダンジョンが幕を開ける。


 魔導ランプの明かりをギリギリまで絞って、ラヴィアが持った。もう片方の手をヒカルとつなぐ。


「行くよ」


 ヒカルが言うとラヴィアはうなずいた。

 小屋から外へと出る。

 しん、と静まり返っている。厚い雲の垂れ込めた闇夜ですらもう少し明るいだろう。

 世界が終わり、ふたりきりになってしまったかのような心細さがある。

 出てすぐ、足下が盛り上がっていた。小さな橋になっているらしい。小川が——と言うより用水路が——家をぐるり囲っている。ただし水は涸れている。

 橋を渡って出る。道は踏みならされているが乾ききっているために砂埃が舞う。歩くのに問題はない。ランプを掲げると向かいの家がすぐに見える。

 5段ほどの階段を上がると玄関がある石造りの家だ。どこも同じ造りになっていることは数軒見ればわかった。

 家々は石造りのために数百年を経過している今も残っているが、屋根が朽ちて落ちているところがほとんどだった。2階や3階があるところは1階部分が無事だ。しかしすでに冒険者たちによって荒らされたあとだ。タンスはひっくり返され、陶器の皿が割れていた。


「……ひどいニオイだ」


 あまりに静かな、「地下街」だったが、ヒカルは妙なニオイを嗅ぎ取った。饐えた肉のニオイ——。


「!」

「シッ」


 ヒカルはそいつ(・・・)の接近に気づいていたために反応できた。ラヴィアの口元を手で塞いだのだ。

 家の陰からのそりと現れた人間——かつて人間であった者。

 眼球は落ちて目の部分はくぼんでいる。下唇が剥げて黄色の歯が剝き出しだ。

 服の袖から右手はのぞいているが左手は見えない。肘の辺りから先はすでに取れてしまったようだ。

 足下がふらついている。だが歩いている。こちらに気づいた様子はない。


(デッドシチズンだな)


 アンデッドモンスターの中では雑魚オブ雑魚と呼ばれている。ただし厄介な点がある。こいつは仲間を呼ぶのだ。なにせここは「地下街」。仲間はいくらでもいるだろう。


(「遮断」はうまく行ってる。光があっても気づいてない……っていうか目がないか、そもそも。アンデッドモンスターは目が見えなくても問題ないようだ)


 となると「探知」系の能力があるのだろうか? ()人間だからソウルボードを見られるかもと思ったが、そう都合よくはいかないようだ。

 実のところヒカルの「生命探知」にはアンデッドモンスターは引っかからない。だが「魔力探知」にははっきりとかかった。ヒカルを中心に半径100メートル。アンデッドモンスター——おそらくデッドシチズンは12体いる。


(かなり多い。1体ずつならふつうの冒険者でも相手にできるだろうけど、仲間を呼ばれたら手強いだろうな)


 ヒカルはラヴィアの手を引いてデッドシチズンの背後に回る。

「腕力の短刀」を引き抜く。そして——。


「フッ」


 心臓の位置に刃を突き立てた。デッドシチズンはぶるりと震えたと思うと、その場にくずおれた。ぼふん、と砂埃が舞った。


「問題なく殺せる……と言うのも変か。倒せるが、この体液はイヤだな」


 黒ずんだ液体が刃にべたりとついてしまった。


「ヒカル。デッドシチズンでしょう、これ? 心臓が弱点なの? そういった記述はなかったように思うけど」

「魔力がそこに集中していた。それを断つイメージ」


 それは「魔力探知」のおかげでわかったことでもあるが、ラヴィアは「あら」と小さく口を開けた。


「ヒカルは魔力の流れがわかるのね。魔法も使えるようになるかもよ?」

「はは……だといいけど」


(ポイントを振れればすぐなんだけどなあ……余裕がまったくないだけで。にしても——)


 ヒカルは今の戦闘で2つ疑問を持った。


(アンデッドモンスターを倒しても魂の位階は上がるのか?)


 これは実験で解決できる。気は進まないが何体もデッドシチズンを倒せばいい。

 魔法は使えない。魔法は、目立つからだ。あとニオイもすごそうだ。

 もう1つは、


(なんでこんな入口付近にモンスターがいる?)


 5年前の発見以来、何百、何千という冒険者がこのダンジョンに挑んでいるはずだ。入口付近の建物が荒らされ尽くしていることからも明らかだ。当然モンスターだってこの辺は狩られ尽くしているだろう。

 にもかかわらず、すぐにヒカルはデッドシチズンに行き会った。

 デッドシチズンはその場に倒れたままだ。ボロ布のような服を着たまま。


(まあ、いい。今は先へ進もう)


「集団遮断」を発揮しているおかげでデッドシチズンはこちらに気づかないようだ。

 それ以外にも、肉の落ちきったデッドシチズン——骨だけのモンスター「スケルトン」。

 スケルトンの格上である、戦闘に特化した「スケルトンアーマー」。これは鎧を着ているのではなく、体表に魔力を走らせて身体を硬化させている。

 杖を持ったスケルトン「スケルトンメイジ」は魔法を使うようだが、気づかれる前に倒せるので問題ない。

 ちょっと濃いめの霧にも見える霊体モンスター「ゴースト」。

 このあたりのモンスターがいた。

 いた、というか、めっちゃ(・・・・)いた。

 気にせず歩けば5分ごとに遭遇する。大体が2、3体ごとで群れている。


 とりあえず、ヒカルは片っ端から倒していくことにした。

 スケルトンは頭蓋骨に魔力の塊があったので頭に短刀を突き刺した。

 ゴーストに物理攻撃が効くのかわからなかったけれども、試しにやったところふつうに刺さり、手応えもはっきりしていた。布を裂くような感覚だった。

 最初の疑問「アンデッドモンスターを倒すと魂の位階は上がるのか?」についてはすぐに答えが出た。

 上がった。

 ただしゴブリンやグリーンウルフに比べると上がりが格段に悪い気がする。割合にして1/5くらいだろうか。

 それでも魂の位階を上げることはヒカルにとって優先事項であるために、遠回りにならない限りは倒していくことにした。


 そんなときだ。


「——おい、追加が来てる!」

「——わかってる! 押さえとけ!」

「——ちっとキツイ!」

「——気張れやオラァ!」


 金属音とともに声が聞こえてきた。

 闇の向こうに、ぽつりと浮かんだ明かりが見える。

 そこでは5人の冒険者が、スケルトンの集団と戦いを繰り広げていた。


「どうすんだよ!? 際限ねぇぞ! 倒しても倒しても——」

「だから聖水ケチんなっつったんだ!」

「1体1体は弱ぇえんだから気張れボケが!」

「あ、悪い、もう魔力が足らん……」

「あああ!? か、噛まれた、い、いてぇぇっ!」


 すぐにわかった。

 ダンジョン入口で会った冒険者たちだ。


「へぇ……?」


 どうやら苦戦しているらしい。


「ヒカル。すごく悪い顔してる」

「そうかな。いつもどおりだけど」


 ヒカルはラヴィアの手を引いてそちらへ歩いていく。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初冒険者は絡んできただけと思ったけど、 特に喧嘩を吹っかけてくるでもなく、 笑って先に行ったので、悪い連中ではなかったのか [気になる点] ウンケンもそうだったけど、 この世界ってその人…
[一言] 主人公補正があるだけでEランクと一般人のペアを止めたギルド員と冒険者たちは正しかった。
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