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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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装備の調達


 ラヴィアの調子もだいぶ良くなったということで、ふたりで長い時間を過ごして(・・・・)から寝た。元々翌日はゆっくり動くつもりだったので問題ない。

 ラヴィアとともにホットドッグ屋へ向かうと、セリカはいなかった。店主は腕組みしたままこちらにぐるり首を巡らすと、うむ、とうなずいた。


「60ギラン」

「まだ頼むと言ってないんだが」


 せっせと店主はホットドッグを挟み込み、ケチャップとマスタードを注いで差し出してくる。

 ヒカルは金を渡してからホットドッグにかぶりついた。


「ふむ……」


 ソーセージに歯を立てるとぷつっと皮が破け肉汁が飛びだしてくる。酸味の利いたケチャップと、マスタードのハーモニーはなかなかいい味になっている。


「十分及第点じゃないか」

「……そうか」

「なんだよ。うれしそうじゃないな」

「いや……ついに認めてもらえたということだな、師匠」

「…………」


 今なんて?

 なんで目をきらきらさせてこっち見てるの?


「ま、まあ……あとはバリエーションでも増やしたら? トッピングでチーズとか、刻みタマネギとか、マスタードじゃなくて辛味のある酢を加えてサルサソースみたいにしてもいいし」

「わかったぜ! 俺はやる! このホットドッグで世界を獲る!」

「お、おう……」

「辛味が足りないわ」


 ラヴィアがなにか言っていたがそれはスルーしておいた。

 この後、「ポーンドホットドッグ」は国境を越え、大陸中に広がっていくのだが――それはまた別のお話。




 ヒカルは昨日も顔を出した「ドドロノ防具工房」にやってきた。できれば明日にはポーンドを出たい。となると装備品を整えられるのは今だけだ。


「今日もキラッキラ☆ ワシのコーデ!」

「暑苦しい」


 いい年したドワーフのオッサンがウインクかましながら目元で横ピースしてくるのだからたまらない。真夏にお汁粉を飲まされる気分と言えばわかるだろうか。


「いくつか見繕ってもらいたいんだけど」

「うむうむ。なんでも言ってくれて構わんぞい」

「まずは昨日話した、気配を消せるような装備が欲しい。金がかかってもいいから見積もってくれないかな?」

「お前さんが着るのか?」

「いや、こっちのレンクロウ。後で売るかもしれないから男女兼用のものがいい」

「ふぅむ」


 じろじろとラヴィアを見るドドロノ。一瞬ひやりとする。そんなに見られると正体がバレてしまうのでは……。


「お前さん」

「は、はい」


 うろたえるラヴィア。


「……肌がきれいじゃのう! うらやましいのう!」


 焦って損した、とばかりにヒカルは息を吐いた。


「それならなんでも似合うじゃろう。ちょっと見積もるから待っておれ」


 ヒカルとラヴィアはそれ以外にも、旅で必要になりそうな替えの着替えを補充した。ヒカルは「ナイトウルフのツナギ」という黒の上下だったので麻製のシャツやズボンも買うことにした。とはいえ持ち運べる量にも限界があるから、慎重に選ばざるを得ない。

 ラヴィアはラヴィアで女物の下着なのだが、「妹のために!」とかわざわざ言い訳しなければならないのが面倒ではある。


 外套を新調する必要はない。騎士団長ローレンスの攻撃で犠牲になった外套は、王都の中古市場で買ったものだからだ。ああいう、夜の侵入用は、足がつかないものを買っておいて使う。

 一通り買い物を済ませると、全部で800ギランだった。それなりに品質のいいものを選ぶとそこそこ高くなる。


「見積もりは終わったが……なかなか高いぞ」

「いくらだ?」


 見積もり用の紙を差し出してくる。


・カムフラージュリザードの革……9200ギラン

 *隠蔽竜の革の場合は+18,000ギラン

・精霊魔法石(風)……1500ギラン

・工賃……1000ギラン


・合計:11,700ギラン


「ドドロノさん……」

「わ、わかっておる。だから高いと言ったじゃろ? 精霊魔法石も使うからのう。風を起こして使用者のニオイが散らばらないようにするんじゃ。たかだか外套にそこまで払う人間は――」


 ヒカルはビシッと指差した。


「工賃1000ギランは安すぎだろ!」

「え、そこか?」

「オーダーメイドでこの金額はない。せめて倍じゃないか?」

「い、いや、1000ギランでも結構高い……」

「2000ギランにして。それで、できれば優先的に仕上げて欲しい」

「わかっ――待て、ヒカル。もしや注文するつもりか?」

「それはそうだろ。注文しないのに見積もり取るヤツはいないよ」

「じゃが金額が」


 ヒカルは財布代わりの革袋を取り出した。ジャラリとした音と重量感に、ドドロノは息を呑む。


「聞きたいのは『隠蔽竜の革』ってヤツ。性能的にどうなの?」

「圧倒的にいい。隠蔽竜自身はさほど大きくない竜でダンジョンにも出没するほどのサイズじゃ。外壁や山肌に紛れると、まあ姿を確認することはほぼ無理じゃの。皮膚にそういう機能があってな、外套にもその機能を使う。――無論、死んだ皮膚じゃから性能は落ちてはいるがの。それでもカムフラージュリザードよりはずっとよい」

「流通はどう? どっちの素材のほうが流通している?」

「『隠蔽竜の革』のほうが手に入りやすいじゃろうな。高いから、なかなか品物が動かん。じゃから一度討伐されると在庫が長く残る。先日も王都から来ていた問屋が見せた在庫一覧にあった。カムフラージュリザードは時期がある。あれは冬に冬眠するから、その時期によく狩られる。春先に加工されるから今の時期はあまり出回らん」

「それなら『隠蔽竜の革』を使って欲しい」

「……わかった」


 もうドドロノはなにも言わなかった。


「工賃は変わらず2000でいいの?」

「いい。『隠蔽竜の革』は加工しやすいからのう」

「じゃあ日数はどれくらいかかる?」

「んん……そうじゃの、優先しても10日前後じゃろうか。仕入れに時間がかかる」

「10日か……」


 ヒカルは考える。明日ここを出たい。10日待つのは避けたい。


「できあがった品物を送ってもらうことはできる? 実は近いうちに『古代神民の地下街』に行きたい」

「ダンジョンか! なるほどのう、ダンジョンならこういった装備も役に立つじゃろうて」

「やっぱりそう思う?」

「無論。ダンジョンでは先制攻撃を取るほうが圧倒的に有利じゃからな」

「それじゃあ、向こうの冒険者ギルドに送って欲しいんだけど」

「向こう……ルートハバードか」


 ヒカルはうなずいた。「古代神民の地下街」の最寄りの街がルートハバードだ。


「では手はずじゃが――」


 ヒカルとドドロノがやりとりしていると、ラヴィアが目を輝かせて聞き入っていた。

 今手持ちの金額がなかったので、30,700ギランについてはギルドでおろしてから払うことにした。一括全額前金払いということで、ルートハバードまでの運送料はドドロノが負担すると申し出た。




 それからヒカルたちは「レニウッド武器工房」へと向かう。

 モンスターを何十体と狩ったのでそろそろ「腕力の短刀」にガタが来ていた。それにラヴィアの護身用としても買っておきたい。


「ッカーッ! こいつは使い込んだねぃ!」


 ヒカルが「腕力の短刀」を見せるとレニウッドは刀身を見つめてそう言った。

 鍛冶バカのエルフは自分の武器がきちんと使われていると知ってうれしそうだ。


「刃はボロボロだし柄にもゆがみが出てるじゃぁないか? いったいこの短期間でどんな使い方をしたんで?」

「まあ、いろいろあった」

「修繕はできるけど、今日1日預かることになるな!」

「それなら予備でもう1本買おうかな。あと――精霊魔法を使うのに都合のいい杖なんかもあるといいんだけど」

「杖は錬金術師ギルドに行ったほうがいいもんがいっぱいあるぜ? だけどここにもあるのだァッ!」


 カウンターの上に、布にくるまれて出てきた数十本の杖。

 ラヴィアが目を丸くしている。


「全部金属製……!?」

「そうとも! 俺は鍛冶屋だ。だから頑丈で殴れる杖を金属で作ったってぇわけ!」

「精霊魔法は樹木を媒介にしたほうが制御しやすいはずだけど……」

「そう、そう! だからこいつらにかかってる加護は魔法と関係ねぃ!」


 ああ――とヒカルは納得する――また残念武器か。


「こいつは『腕力』の加護! こいつは『腕力』の加護! そしてこいつは『腕力』の加護だッ!」

「偏りすぎな」


 冷静にツッコんでしまった。


「やっぱしお客もそう思うかぃ? いやーははは、おかげで全ッ然売れねぃんだわ!」

「そりゃそうだろうよ。錬金術師ギルドで買うってなるわ」

「だがしかし、全部が全部『腕力』ってわけじゃぁないんだぜぃ?」


 レニウッドは1本を指差した。

 くすんだ銀色の棒――警棒のような棒だ。長さは30センチ程度で持ち手がついている。先端までつるりとした棒。


「こいつにはなんと『スタミナ』の加護がついているッ!」

「へぇ、いくら?」

「お値段なんと、400ギラン!」

「……よほど売れなかったんだな」


 ヒカルの「腕力の短刀」ですら5,000ギランだったのだ。その10分の1以下である。

 この「スタミナの杖」に、なんの加護もついていない「鋼鉄の短刀」(4,000ギラン)をあわせて購入した。「腕力の短刀」は修理(300ギラン)のために預ける。




 早馬に乗って東の湖を目指す。ちょうど昼時に湖に到着したので食事をした。


(……冒険者がいるな)


 湖の周辺で、釣りをしている釣り人たちに聞き込みをしている冒険者が3人いた。

 ヒカルはピンときた。


(僕の「不正」を調査しているのかな)


 昨日納品した山ほどの討伐品。これが「問題なかったものかどうか」を確認しているのだろう。


(せいぜいがんばってくれよ)


 にやりと笑う。

 ヒカルはラヴィアとともに、彼らから見えない位置で食事をとると、森の奥へと入っていく。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界を席巻するホットドッグフィーバー回、楽しみにしてます
[気になる点] おいおい、店主のソウルボードは? 隠密の効かない理由が気にならないのか? それとも猫を見ていたという言葉に騙されたのか? いくらなんでも猫が主人公とずっと同じ動きしてたわけないだろ …
[一言] 冷たいお汁粉なんてあるんですね。 でもほとんどはあったかいお汁粉なので十分伝わると思いました。
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