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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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「隠密」vs剣聖(前哨戦)

 くぁ……とヒカルはあくびをかみ殺した。

 目の前には宿の朝食。バスケットには焼きたての黒パンがあり、別の皿にはなかなかキツめのニオイを放つスライスチーズ。それに、野球ボールサイズのオレンジ色をした果物が積まれてあった。

 マグカップに入っているのは温いミルク——乳だ。牛乳ではないようで、独特のまったりとした味わいと、これまたニオイがある。


「追加だよー」

「え」


 どん、と皿を置かれた。バナナくらいの大きさのソーセージが5本も載っている。

 こんなに朝から食べられないよ……と思うのだが、別のテーブルを見るとみんなガツガツと食べていた。


「1日の計は朝食にあり。食べないと大きく育たないわ」


 果実ジュースをすすっているだけのラヴィアが、ヒカルの向かいで偉そうに言う。


「『一年の計は元旦にあり』じゃないんだから……というか、君だって食べなよ」

「まあ。レディーに朝からこんな重たい食事をさせようというの? レディーの敵よ」

「僕だってこんなに食べられるわけがない」

「残すのが前提なんじゃないかしら」


 ヒカルも、ラヴィアも、宿の食事は初めてだった。それだけにどれくらいの力加減で料理が出てくるのかがわからない。

 まあ、少なすぎるよりかはいいのだけれども。

 ちなみにこの宿は2人部屋を確保することができた。懸案だった「ソウルカードの提示」については「必要ない」ということだ。ソウルカードが偽造されていてもわからないし、王都ほど広いといちいち人間の確認などできないらしい。

 ただし、「犯罪記録の有無」を確認する——という石版に触れることが必要だった。王都において、オフィシャルな免許を持って宿を経営しているところには必ずある石版のようだ。なにもかもポーンドとは違うな、と思いつつヒカルとラヴィアは石版に触れた。もちろん、犯罪記録などはなかった。

 ちなみに1部屋1泊500ギラン(朝食付き)だ。かなりお高い部類だが、第2居住区に近いこともあってこの宿以外を選ぶ理由はなかった。

 前払いで3泊分、支払っていた。


 残:21,780ギラン(+100,000ギラン)


 ひたすら食べて、半分以上残して、宿の女将さんに「もっと食べなきゃ大きくなれないよ!」と背中をはたかれて「うっぷ」となったヒカルだったが、とりあえず部屋に戻った。

 明け方に戻ってきて、1時間程度しか寝ていないのだ。このまま昼まで寝るつもりだった。


「……わたしも寝る」


 ベッドに突っ伏したヒカルの横に、もぞもぞとラヴィアが入ってくる。

 ラヴィアもまたヒカルの帰りを待って起きていたらしい。本人は「心配なんだから待ってて当然」と言っていたが、書店で借りてきた——この世界の書店は「購入」ではなく「レンタル」が主流のようだ——冒険物語の先が気になって読むのを止められなかったというのも理由のひとつだろう。

 ともあれ、ふたり、昼前まで寝た。


 昨晩、ヒカルは予定通り3人の騎士隊長を襲撃した。いちばんの目的は、「木の葉を隠すなら森」というわけで、「イーストの死罪をうやむやにするため」だ。

 騎士隊長があっという間にやられるような相手になら、イーストが襲撃されて負けても仕方がない——そういった判断になるはずだ。隊長含めて全員が死罪になるなどとは考えにくい。

 イーストが死罪にならなければ、多少周りの人間が骨を折っても(慣用句ではなく)ヒカルにとっては許容範囲だ。襲撃を受けた騎士隊長からするといい面の皮だろうけれど。


 別の目的としては、2つある。


 1つは、王都中央の警備状況を見てみたかった。

 こちらは、思いの外、たいしたことがなかった。貴族街や第1居住区を隔てる門は、夜間も常に警備されていたが、裏を返すといつでも通行可能だった。警備兵が何人いようがヒカルにとっては素通りである。騎士団宿舎にしてもそうだ。24時間、人の出入りがあるために施錠されない。フリーパスで入れる。こう思うと、グロリアの自室のように、小さい家屋のほうがよほど侵入しにくい。

 第6騎士隊長スコットの住居に侵入するのは多少苦労した。隣の建物が工事中だったのでそちらにまず入る。そして屋上まで登った。屋上から、隣のスコットが住む集合住宅に飛び移り、こちらも屋上からスコットの部屋へとロープを下ろした。

 昨晩スコットは「賊は窓から飛び降りて逃げた」と思っただろうが、実はロープを伝って屋上へと再度登ったのだ。で、隣の建物からまた逃げた。

 ヒカルが襲撃した3隊長の居場所は、騎士団宿舎にあった「緊急連絡網」から知れた。住所だけでなくご丁寧に地図付きで記載されていた。


 2つめの理由は、騎士隊長がどれほどの力量なのかを確認したかった。結果としては相手の力量がわかるほどの戦いはなかった。

 スコットのソウルボードを確認したところ——。



【ソウルボード】スコット=フィ=ランズ

 年齢26 位階22

 0


【生命力】

 【自然回復力】4

 【スタミナ】7

 【免疫】

  【魔法耐性】1

 【知覚鋭敏】

  【視覚】1

  【味覚】1

【魔力】

 【魔力量】5

 【精霊適性】

  【風】2

【筋力】

 【筋力量】3

 【武装習熟】

  【剣】4

  【小剣】1

  【長槍】2

  【弓】1

  【盾】1

  【鎧】3

【精神力】

 【心の強さ】1

 【信仰】

  【聖】2



 といった感じのスキル構成だった。

 持てるポイントを使い切るほどに訓練しているということだろう。他の隊長や騎士も残ポイントは0や多くて3といったところだった。

 そのせいで、いざ長所を伸ばそうというときに成長の壁にぶち当たりそうにも思えたが。


 武装していない騎士隊長レベルならば、いくら「剣」など「武装習熟」項目が4あったとしても、ヒカルの敵ではなかった。

 これで板金鎧(プレートメイル)を着込まれると「投擲」2や「筋力量」1程度のヒカルでは相手にならなさそうだが。




「さて、と……それじゃ行くか」


 夕刻、ラヴィアに断りを入れたヒカルは王城へ向かって進んでいた。

 街中で確認できる騎士たちは、3人1組で行動しているように見えた。襲撃者対策であることは明らかだ。

 ただ、各居住区の門を押さえている警備兵には特に警戒の色が見えない。「騎士隊長襲撃」の報は伝わっていないようだ。


(ふーむ……やっぱり騎士が少ないよな)


 騎士団宿舎にあった「連絡網」にはおよそ500名の名前が書かれてあった。だが、ヒカルが騎士団宿舎で目にした騎士は、はるかに少なく、4〜50名だ。もちろん第6騎士隊長スコットのように自宅が別にある者もいるだろう。だが明らかに空室が目立ったのだ。


(戦争か)


 騎士団宿舎にはあと3人、騎士隊長がいるはずだった。残りはすでに前線に送り込まれていると考えるのが適当だろう。

 どのように戦端が開かれ、どのような戦況になっているかはヒカルの知るところではない。

 騎士や兵士が少ないのなら襲撃に当たって乱入要素が少なくなるのでヒカルとしては大歓迎だった。


 貴族街の門をくぐっていくころには日が暮れていた。かがり火が焚かれ、門番が掲げる槍の穂先に灯りが映じている。もちろん、そんなもの関係無しにヒカルは中へと入った。

 騎士団宿舎には騎士団長の寝室はない。貴族街の騎士団長私邸に向かったもののそこは閉じられたきりで、そもそも人間がいるような感じがなかった。ノックしてみたが誰も返事がない。


(すると王城? それはないか? ……む、まさか)


 ヒカルはある予感(・・・・)がした。

 向かったのは騎士団の関連施設である「屋内訓練場」である。

 木造建築物で、小学校の体育館サイズだ。騎士団宿舎に掲げられていた騎士団関連施設の中でいちばん大きな施設でもあった。

 地面は剝き出しで、単に木造の壁と屋根だけがあるようなところだ。「納屋」とか「牛舎」みたいだとヒカルは感じた。

 壁際に寄った8本の柱が天井を支えている。キャットウォークがあって、2階から見下ろすこともできる。

 かがり火が4つ、焚かれていた。

 明かりとしてはまったく不十分だ。4箇所、開け放たれた観音開きの扉から入り込む、夜の薄明かりすらこの場においてはありがたい。


 その中央に、巨漢がいた。

 最低限のプロテクターだけを身につけ、地べたに座っていた。ヒカルの身長ほどもある幅広の剣が地面に突き刺さっている。


(騎士団長……!!)


 瞬時に察した。

 それだけ、その男が放っている気配は圧倒的だった。

「隠密」スキルと「職業」によって守られているはずのヒカルだが、その身体は濃密な気配に絡め取られ、プールの中を歩くようなもどかしささえ覚えた。


 別格だ。

 昨日襲撃した騎士隊長とは明らかに別格だ。

 しかもこちらの襲撃に備えているのだ。


 真正面に立っているヒカルに気づいた様子はないが、それでもヒカルは「陰」を求めて手近な柱に身を潜めた。

 そこから、じり、じり、と近づいていく。

 そしてソウルボードを確認できる5メートルの距離まで到達する。



【ソウルボード】ローレンス=ディ=ファルコン

 年齢35 位階48

 0


【生命力】

 【自然回復力】8

 【スタミナ】11

 【免疫】

  【魔法耐性】2

  【疾病免疫】2

  【毒素免疫】1

 【知覚鋭敏】

  【視覚】2

  【聴覚】1

  【嗅覚】1

【筋力】

 【筋力量】16

 【武装習熟】

  【剣】3

  【大剣】6

   【天剣】1

  【長槍】1

  【盾】5

  【鎧】5

【精神力】

 【心の強さ】4

 【カリスマ性】1

【直感】

 【直感】6



 化け物め……!

 ヒカルは一気に壁際まで逃げた。

 ウンケンの「小剣」6に匹敵する「大剣」6だ。だがその「筋力量」は16と桁違いだ。「筋力量」は最大30まで上げられるはずだが、10を超えている人間すら初めて見た。

 それに気になるのは「天剣」だ。明らかに「武装習熟」の派生スキルと見ていいだろう。

 総ポイントは83ポイント。そのすべてを使い切っている。魔法はまったく使えないようだが、使う必要すら感じられない。

 一方、ヒカルのポイント数は32ポイントしかない。



【ソウルボード】ヒカル

 年齢15 位階17

 1


【生命力】

【魔力】

【筋力】

 【筋力量】1

 【武装習熟】

  【投擲】2

【敏捷性】

 【瞬発力】1

 【隠密】

  【生命遮断】3

  【魔力遮断】3

  【知覚遮断】5(MAX)

   【暗殺】3(MAX)

   【集団遮断】3

【直感】

 【探知】

  【生命探知】1

  【魔力探知】1



 ローレンスのポイント総量は倍以上だ。

 それになにより気になるのが、


「……来たな? 襲撃者よ」


 バレた。

 そう、「直感」6だ。

 ウンケンですら4しかなかった「直感」。


(半端ないな、騎士団長。さすがこの国最強の「剣聖」……いや、最強だよな? 最強じゃなかったらどうなるんだ? この人ひとりで数百人くらい倒しそうな気さえするんだけど)


「どこにいる。姿を見せよ——いや、姿を見せずに襲いかかるのがお前の流儀であったな」


 のそりと立ち上がる。

 その目が周囲を睥睨する。優しそうな瞳は一転して油断も隙もないものに変わっていた。

 騎士団長は続ける。


「お前の目的はわかっている」


 え? ウソ?

 ヒカルは背筋が冷たくなるのを感じた。

 まさかイーストをかばおうとしてることとか、ラヴィアのこととかバレてる? なぜ——?


「『腕試し』だろう?」


 ずっこけそうになった。


(勘違いかよ! まあ、確かにそう見えるかもなぁとは思ったけど!)


 騎士団長は相変わらず周囲に視線を投げている。「直感」でヒカルの来訪を感じつつも、どこにいるかまではわからないようだ。


「喜べ。いかにも、このローレンスこそが騎士団長。この国最強の男だ」


 自称なのでどこまで正しいかはわからないが、ヒカルの想定はそう外れていないようだ。


(ま、こんなのがごろごろいたら、この世界の戦争は怪獣大戦みたいになるだろうけど)


「——襲撃者よ。姿を見せてはくれまいか?」


 するとローレンスの声色が変わった。落ち着いたものへと。


「聞けば年端も行かぬ者だという。その年でその実力、末恐ろしいものだ。お前を騎士団に迎え入れたい」


(は? なに言ってんだ? 騎士団に泥を塗った相手だぞ?)


 ヒカルは一瞬のうちにローレンスの意図を考える。

 ひとつは、本気でヒカルを騎士団に欲しいと思っている。

 ひとつは、油断を誘って姿を見せたところでぶった切る。

 ひとつは——。


(増援待ちか?)


「隠密」を破る高位の魔法を展開している可能性がある。ヒカルは「生命探知」「魔力探知」の両方を起動する。これを起動すると視界にかぶさってくるのでふだんは使っていなかったのだ。


(……ん)


 増援、というか、すでにいた。

 ひとり、2階のキャットウォークの隅でじっと身を潜めている。

「生命探知」には引っかからなかったが「魔力探知」には引っかかったのだ。「生命反応」を遮断するなんらかの魔導具を使っているに違いない。

 ヒカルは1階でとある仕掛け(・・・・・・)を施して、2階へ登るハシゴを伝った。


「どうだ? 悪い条件ではないと思うがな——」


 1階ではローレンスが話を続けている。

 ヒカルはすぐにその人物のそばに至ることができた。高位の探知魔法を詠唱している——ということもなく、ただ座ってローレンスを見ていただけらしい。

 女性、である。

 というか少女、である。

 魔導具で認識を阻害される——肉眼では確認できないが、魔力反応ははっきりある。かなりの魔力を持っている。



【ソウルボード】クジャストリア=ギィ=ポーンソニア

 年齢17 位階4

 0


【魔力】

 【魔力量】5

 【精霊適性】

  【火】1

  【風】1

  【土】1

  【水】1

【精神力】

 【カリスマ性】3

 【魅力】1

【直感】

 【ひらめき】

  【美術】1

 【知性】

  【演算】1



「ギィ=ポーンソニア」。この名前がつく人物が、どんな人間なのか——それはヒカルの記憶、ローランドの記憶にあった。

 王族、である。


(……なんで王族がこんなところにいるんだ?)


 わけがわからない。さすがにこれは予想外だ。

王女「きちゃった」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 犯罪歴なし……? ヒカル、結構騎士団に襲撃してない? なんなら殺人や窃盗もしてるし。
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