騎士の消息
レッドホーンラビットの解体を終え、モツをぶら下げて「パスタマジック」へと向かう。
案の定、クマのような店主は非常に喜んで、「こないだみたいに全部ごちそうってわけにゃいかねえが、たっぷりサービスはしてやるぞ!」と言った。前回と同じボックス席に通される。
少年ふたりがやってくるような店ではもちろんないので、すでにいあわせた客は興味津々という視線をこちらに投げてきた。ただ、店長の態度もあるのだろう、特に誰かに話しかけられるということもなかった。
「うれしい。ヒカルとお店で食事なんて」
そう言えば、とヒカルは思い返す。確かにこれまで食事はすべて屋台のもので済ませてきた。栄養バランス的にどうなんだという気持ちもあったが、意外や意外、屋台と一言で言っても非常に多くの種類がある。魚介に肉、野菜に果物。
食事に不足を感じたことはなかったが、「ちゃんとしたお店」で食べることも心の栄養バランス的に必要なのかもしれない。
「——さすがだな」
「? なにが?」
最初に出された冷製のオードブルを食べるラヴィアの姿。
背筋はぴんとして、ナイフとフォークの扱いひとつひとつが美しい。
「僕は礼儀作法なんて身についてないから。——まあ、知識としてはあるんだけど」
ローランドの知識だ。
だが知識は知識で、身体に染みついているものではなかった。
「……やっぱり、冒険者っぽくないかな?」
「たぶん」
「ちょっと崩したほうがいい?」
「いや。そのままで」
ひとつひとつの仕草が美しい冒険者がいたっていい。
それにヒカルが見ていて気持ちのよい食べ方だった。
「僕もやってみよう」
「知識があるなら、きっとすぐよ」
「そう一朝一夕に身につくものではないと思うけどね」
そんなことを話しながら食事をする。
場所が違うと気持ちも変わるのか、交わされる会話もいつもと違う。
ラヴィアが好きな食事や果物、それに彼女が読んでいた冒険小説のこととか、楽しい話題が続いた。
「いらっしゃい。——おや? 久しぶりじゃねえか」
しかし楽しい話題はそこで終了となった。
クマ店長の声でヒカルはちらりと店の入口に目を向ける。
そして、うめいた。
「ヒカルさん。こんばんはぁ」
グロリアがいたのだ。
「ヒカル様!」
「……え、えっと、こんばんは」
「また来てしまった」
しかも、ポーラ、ピア、プリシーラを連れて。
「……どういう魂胆だ?」
ヒカルとラヴィアがいたボックス席には、さらに2つイスが運ばれてきていた。
ヒカルの隣にグロリア、その隣にプリシーラ。
ラヴィアの隣にポーラ、その隣にピアだ。
「あら〜。ピアさんたちがヒカルさんに命を救われたとおっしゃるから、お礼のために連れてきたんですよお」
相変わらずにこやかにグロリアが言う。
「……お前ら」
思いがけず冷たい声がヒカルの口からこぼれた。
「僕は他人には言うなと言ったよな?」
言うなと言ったのにグロリアに言いやがった——と気づいたら、止められなかったのだ。
途端に場の空気が凍りついた。
「申し訳ありません!」
テーブルに手を突いて深々とポーラが頭を下げる。
「わたしがお手洗いに行っている間に、ピアがしゃべってしまったらしくて……」
「す、すまねえっ! でもさ、フォレストバーバリアンなんてあたしたちが倒せるわけないじゃないか? そこをつつかれるとどうしても……それにギルド職員だったら秘密にしてくれるだろうし」
「そうですよお。秘密にしますよお。でも、どうしてですか? ヒカルさんは他者を救えるほどに実力ある冒険者。もちろんフォレストバーバリアンを倒せるほどとは思いませんでしたけど。悪い話じゃないんですから、秘密にしなくたっていいじゃないですか」
「そうだよ!」
ピアがグロリアの言葉に賛同する。ヒカルがぎろりとにらむと、ピアはプリシーラを引っ張ってその陰に隠れようとした。
「……お前、冒険者に向いてないよ。もう止めれば」
「なっ、なんで……」
「依頼上、秘密にしなければならないことだってあるだろう。それは、ギルド職員だからといって話していい相手とは限らない。僕の話は、悪い話じゃないから言ってもいいと思ったのか? あるいは僕なんて子どもだから言ってもいいと思ったのか?」
「そ、そんなことは……ないけど」
「ヒカル様! 申し訳ありません……ピアにはわたしから重々言っておきますので」
「ごめん、ヒカル。確かに迂闊だったと思う」
ポーラとプリシーラが横からとりなす。
すでにピアは真っ青で目尻に涙も浮かんでいる。
だけれど許せるものではないとヒカルは思った。秘密を一度漏らした相手は、2度も3度も漏らすだろう。そうなればヒカルが危なくなるだけではない。ラヴィアだって危ないのだ。
向かいのラヴィアは帽子を目深にかぶってカップのお茶をすすっている。
「ヒカルさん」
にこやかな笑顔のままグロリアが言った——そう、グロリアこそこちらの情報を与えたくない相手だ。
「こう、謝っていらっしゃいますし、許してさしあげては? それにヒカルさんだってこれから冒険者ランクを上げるつもりがあるのでしょう? であれば必然的にその実力は他の冒険者やギルド職員に伝わります。もちろん『シビリアン』でどうやって依頼ができるのか、と疑われることも多いと思いますが」
(ほらな、探りを入れてきた)
ヒカルは内心でため息をついた。
(グロリアの推測は、僕が特殊な「職業」を持っているということだろう。そしてその恩恵でフォレストバーバリアンを倒した、と)
「すごいんですよお。彼女たち、フォレストバーバリアンの素材を査定に出して、その金額をすべてヒカルさんに差し上げたいと言われるんですから」
「要らないよ。僕にとってははした金だから」
「——そうなんですか?」
「その程度の金がなければフォレストバーバリアンを殺せる武器なんて買えない」
「…………」
一瞬だけグロリアの目が細められる。
ヒカルのまいた「ウソ」だ。
倒したのは「職業」の恩恵ではなく「高級武器」の恩恵なのだ——と勘違いして欲しい。
もちろん真相は「職業」と言うよりも「ソウルボード」なのだが、これだけは絶対に知られたくない。
「だけどまあ、お前たちも気が晴れないだろう。だったらこの店の食事をおごってもらおうかな」
「そ、それはもちろん!」
ピアが食いついてくる。
「おごってくれたら、後腐れナシだ。何度も謝られたり感謝されたりするのは僕だって気持ち悪い」
「わ、わかった! ——店長、メニューを!」
ぴりぴりしていた空気が緩んだ。
これでヒカルが許してくれる——と思ったピア。とりあえずほっとしているプリシーラ。それに、
「…………」
明るく取り繕いながらも不安な陰を残すポーラ。
だけれどこれ以上、ヒカルがなにかフォローする気もなかった。
このまま突っぱねて帰ることもできたが、無用な摩擦は起こしたくないと思ったのと、あのフォレストバーバリアンが自分の殺し漏らした1体かもしれない、という罪悪感があったせいで、怒りを引っ込めてしまった。
ただ、彼女たちと接点を持つのはこれで最後にしたほうがいいだろうと思った。
食事が進む。ことさらに明るくピアが話を振り、ポーラがそれに乗る。プリシーラは相変わらずだったがグロリアもまた話運びが上手だった。共通の話題なんて冒険者に関することしかないので、そうなればグロリアの知識量は非常に豊富だったのだ。
ヒカルやラヴィアは時々話に参加するくらいで、冷たくすることもなければ無理に盛り上げることもしなかった。料理の味がよかったので、話題に困れば料理の話をすればいいのだから楽と言えば楽だった。
「——そう言えば」
グロリアが、ぱん、と小さく手を叩いた。
「先日ランクC冒険者がポーンドに来ていたんですよ」
「C!? すごい!」
「すごいですよねえ。Cなんてポーンド所属の冒険者ではいませんから」
「どんな人なんだ?」
興奮するピアにグロリアがいろいろと説明する。
3人構成であること。とある貴族の令嬢を護送する依頼を受けたこと。そして任務に失敗したこと。
「煙のように消えた……令嬢は魔法使いだった、とか?」
「空間転移の魔法は研究されていますがいまだかつて成功例はないですよ。——ヒカルさんはどう思われますか?」
「ん?」
「令嬢のこと」
「それは簡単だろう」
簡単、という言葉にポーラたちが興味津々という顔をする。グロリアの目が光る。ラヴィアもまたこっちを凝視している。
ラヴィア、見過ぎ。もうちょっとふつうにしてて。
「冒険者3人がさらったんだよ。他の貴族から二重で依頼を受けていたんだろうね」
「……にしてはあまりに手口がお粗末ですよお。そのまま彼らは王都に行って『煙のように消えた』って報告したらしいですよ?」
「そう思わせるのが目的だったら、どうだ? ヤツらは冒険者ランクCだ。そんなヤツらがあまりに幼稚な失態を告白するだなんて誰も思わない」
「なるほどぉ……」
「真実っていうのはたいていシンプルなんだ」
「ではこっちの話はどうですか?」
グロリアは騎士イーストが襲われたという話をした。
同日、場所も令嬢誘拐現場とほど近い。
驚いたのはポーラだ。
「1対1で騎士様を倒す盗賊ですか? よほどの凄腕ですね」
「そういうことになりますねえ」
グロリアも肯定してうなずくので、ヒカルは疑問を挟んだ。
「騎士様っていうのはどれくらい強いんだ?」
「あら〜。ヒカルさんは騎士様と戦ってみたいんですか?」
「いや……なんていうか、冒険者より強いものなのかな、と単純に疑問で」
「そうですねえ。騎士見習いでも冒険者ランクEくらいの腕はあると思いますよ。もちろん、単純な戦闘力だけですけれど。多様な人材との連携プレーや、ダンジョン攻略のノウハウなんかは当然冒険者のほうが持っています」
「見習いがEなら一般騎士だとランクDってところ?」
「はい。もちろん冒険者の粒がそろっていないのと同様、騎士様も違いますけどねえ」
「ふうん……」
ヒカルは考える。
【武装習熟】でいう「1〜2」は騎士見習い、冒険者ランクEというところか。
「3」が騎士、冒険者ランクD。
「騎士団長っていうのがいちばん強いのか」
「『剣豪』とも『剣聖』ともあだ名されていますから、とぉ〜っても強いですよ。冒険者ランクBやAと模擬戦をして勝ったとも聞きますし。騎士団長の下に騎士隊長がいて、その下に一般騎士がいて、騎士見習いがいるという感じですねえ」
「4」が騎士隊長、冒険者ランクC——ノグサも「4」だった。
「5」が騎士団長? 冒険者ランクB?
「6」は——ウンケンが「小剣」で「6」だった。
「ウンケンさんはどれくらい強い?」
「……ウンケンさん、ですか? あの人強いんです?」
「あー、知らないなら、いい」
「ヒカルさん〜教えてくださいよぉ」
腕をつかんで胸を押しつけてくる。
……なかなか弾力のある胸だった。
なるべく平気な顔をしようと努めていたヒカルだったが、向かいの席から冷気のようなものが漂ってくる気がしてそちらに視線を向けることができない。
(浮気とかじゃないから! そういうんじゃないから! 落ち着いて、ラヴィア!)
心で念じたのが効いたのか、すぅと冷気が引く。
「え、えーと……物腰がふつうじゃないから。それにあの人ギルドマスターなんだろ? 凄腕の冒険者がなんらかの理由でギルドの職員になり、ギルドマスターになる、って考えればすっきりする」
「へぇー。私、ウンケンさんが強いとか全然知りませんでしたあ」
これはほんとうに知らない顔だな、とヒカルは思った。
すると唐突にグロリアは言う。
「そうそう、騎士イースト様がおっしゃるには彼を倒したのは子どもらしいんです」
えー? とも、はあー? とも、声が上がらなかった。
ピアも、ポーラも、プリシーラも、「騎士を倒す子ども」——と聞いて同じひとりを思い浮かべたのだ。
「そんなにすごい子どもがいるんだ。見てみたいな」
この手の質問が来ることは想定していた。ヒカルはまったく調子を変えずに反応できた。
「ヒカルさんは心当たりありませんか?」
「ないな。子どもでそれほど強ければ目立つんじゃないか?」
「もちろん、すっごく目立つと思いますよ」
「なのに冒険者ギルドの職員も知らないとなれば……冒険者ではなくやっぱり盗賊か、あるいは背の低い大人か?」
「そうですねえ……可能性としてはそっちが高いだろうとウンケンさんも言ってました」
「背の低い種族は?」
「ホビットやマンノーム種族は背が低いですが、なにせ数が少ないですからねえ」
「そうなんだ。いずれにせよ街道にそんなのが出るってことは気をつけなければいけないな」
「ええ……でも騎士様も気の毒ですよねえ」
気の毒、という言い方が妙だとヒカルは思った。
襲われて戦って負けたのなら騎士が未熟なだけだ。
「なにかそれ以上にあるのか? 子どもに負けた以外に」
「ええ……子どもは騎士様を見逃したんですよ。命までは取らない、って。でも騎士のことをなにもわかっていないんでしょうねえ」
「どういうことだ? 僕だけじゃなく、ポーラたちだって騎士のことなんてなにもわからないぞ」
うんうん、とポーラたちがうなずく。
「盗賊ごときに負けたとあれば騎士の名折れですから、死罪は確定でしょう」
「……は?」
「盗賊の少年は命を助けたのに、結局騎士様は死ぬのですから——これは気の毒ってことですよね」
ヒカルは少しの間、言葉を発することができなかった。
それから話題が変わると、ピアやポーラ、プリシーラも会話に戻ってきた。
そうして「パスタマジック」での会食は終わった。約束通り、ピアたちが金を払った。
「それじゃ、僕たちはここで」
「ごちそうさまでした」
ヒカルとラヴィアが頭を下げた。店の前で、ちょうどポーラたち3人と、グロリアと、それぞれ方向が違ったので別れたのだ。
少し歩いて道を折れてから——ヒカルはラヴィアの手を握り、「集団遮断」を発動した。
「ヒカル?」
「グロリアを尾ける」
「——やっぱりあの人、ヒカルを疑ってるの?」
「ラヴィアもそう感じたか。疑っている……そうだね、可能性のひとつとして検討している、なのか、それをダシに僕の秘密を探ろうとしているのか、わからないけれども厄介な相手ではある」
「尾行する目的は?」
「グロリアの背後に誰がいるのか知りたい。情報収集したらすぐにその情報を届けるとか、報告書をしたためるとかするはずだ」
「定期的に連絡しているだけかもしれないわ」
「もちろんそれでも、なんらかのメモをするだろう。なにもなければ——彼女は自分の趣味で僕を探っただけだ」
「……悪趣味ね」
(ま、それ以上に悪趣味な能力を僕は持っているけれどね)
グロリアは軽く酒を呑んでいたが、足下はしっかりしている。いや、少し歩調は軽やかかもしれない。気分良く酔っているようだ。
彼女は「パスタマジック」を出て10分ほど歩いた、集合住宅へとやってきた。
3階建て。共同の入口が1つあり、内階段を登っていくとそれぞれの部屋に着くような仕組みだ。
表通りに面しているのはすべて窓だけだった。洗濯物を干したりする場所がないから、おそらく裏手にバルコニーがあるのだろう。
「〜♪」
鼻歌交じりに共同玄関を開けると、後ろ手にドアを閉める。ヒカルが入り込む隙はなかった。カギもすぐにかけられてしまう。
グロリアは階段を登っていった。
「どうするの?」
「シッ」
ヒカルはドアに耳を当てる。
階段を登る足音——長い。3階まで向かっているようだ。
「裏手に行こう」
建物の裏手はちょっとした広場になっていた。
巨木があり、井戸がひとつ。井戸の周りには長いすが置かれてあった。井戸端会議用か。
共同の竈なんかもある。近隣住民が憩えるようになっているのだ。
夜の9時ともなるとひっそりとしていたが。
「——あの部屋か」
案の定、と言うべきか、こちらはバルコニーが出ていた。
3階の1室にほんのりとした魔導ランプの明かりが点った。
雨戸は下ろしていない。ガラス戸にカーテンだけだ。
「ラヴィアはここにいて」
「どうするの?」
「登る」
ヒカルは走り寄ると、明かりの点いた窓の下、2階のバルコニーに向かってジャンプした。
指先がなんとか引っかかったのは「瞬発力」に1振ったおかげだろう。
そして指先だけでなんとか自分を引き上げられたのも「筋力量」に1振ったおかげだ。
2階のバルコニーの手すりからジャンプして、今度は3階へと登る。
「はぁ、はぁっ、はあ、はぁ……」
登ることはできたが「スタミナ」には振っていないので死ぬほど呼吸がつらい。今日の夕方魂の位階が1上がっているからポイントも1余っている。「自然回復力」や「スタミナ」にポイントを振りたくなるが、ぐっと我慢した。これからなにが必要になるかわからないし、ヒカルとしても、ある程度「理想」のスキルセットのためにポイントを残しておきたいのだ。
息が荒くなっても「隠密」スキルと「隠密神:闇を纏う者」のおかげで相手に気づかれることはないだろう。
ヒカルはバルコニーでしゃがみ込み、レースのカーテン越しに中をのぞき込む。
「!?」
目を、疑った。
まさかこんなことが起きるとは想定もしていなかった。
誰か宛てに密書を書く、ならまだわかる。
誰かがグロリアを待っていて報告を聞く、ならそれもまたわかる。
そのどちらでもなかった。
部屋にはグロリアしかいなかった。
そのグロリアが、服を脱いだのだ。
あらわになる豊かな胸、くびれたウェストから腰のふくらみ——ヘソの下はソファが邪魔で見えなかった。立ち上がれば見えただろうが、その前にさっさとグロリアは隣室へと歩いていく。
揺れる胸と長い髪。
彼女の形のよい尻が遠ざかっていった。
どさっ。
という音が聞こえた。おそらくベッドに突っ伏した。
「…………」
見て、しまった。
どうしよう、これ……。
グロリアが「裸」でないと眠れないだなんて知っているはずもない。
バクバクと心臓が跳ねる。落ち着け、落ち着けって! ——あまりにショッキングで平常心がなかなか帰ってきてくれない。
グロリアがあれこれヒカルにたずねた——推測を立ててヒカルに誘導尋問をかけたのは、ただの趣味、という線が濃厚ではないか?
となると単にヒカルはグロリアの裸をのぞいただけだった。
湧き上がるとてつもない罪悪感。
(なにかメモや、文書がないか調べるべき……か?)
忍び込むにもバルコニーの外側にカギはない。
それに、中に入ればベッドにいるであろうグロリアの裸体とご対面することになる。
(……戻るか。他にやるべきこともあるし)
これ以上はどうしようもない。窓を破壊したら忍び込んだことがわかるし、表の玄関のカギを開けるようなスキルもない。
(「隠密」に優れていてもカギ開けができないと、十分に性能を発揮できないかもな……)
なにか方法を考えよう——。
「ヒカル」
下りるとラヴィアが寄ってきた。
「……なにがあったの?」
「グロリアはすぐに寝たみたいだ。今のところは彼女のただの趣味だな——」
「それだけ?」
「え? なにが?」
「……それだけなら、いい」
どきり、とした。
余計なことは言わなくていいだろうと黙っていたが、なんだろう、こっちでも罪悪感が芽生える……。
「ヒカル、ホテルに戻ろ」
「うん——だけどラヴィアは先に寝ててくれないか? 部屋まではちゃんと送るから」
「えっ……」
ヒカルは小さく息を吐いた。
「騎士が死罪になる、っていうのが気になるんだ。イーストの様子を見に行きたい」





