第20章 戦闘開始(2)
スラム勢と公安特殊部隊との戦闘は、日々苛烈さを増し、スラム側に深刻な打撃を与えつつあった。
「スキャット、敵の位置は?」
「手筈どおり、リッキーたちの誘導にのせられて、第7ストリートをホテル街に向けて北上してる」
「よし、うまくいったな。先回りして、裏路地に追いこんだところで挟み撃ちにするぞ」
「シェン、目印は『スター・ダスト』でよかったな?」
「そーゆうこと」
「墓場に相応しいネーミングだぜ。敵さんにも、せめて最後くらいは美しい星くずになって、さっさと消えてもらいましょ」
「油断すんなよ、決着がつくまで勝負は水モンだかんな」
「勝利の女神様は、むさ苦しい中年オヤジより美少年のが好きだとよ」
「おいおい、だれのことだよ、そりゃ」
挟撃ポイント付近に到着した改造車とバイクの集団は、仲間内でのヘッドホン越しの通話を切ると、それぞれの愛車を乗り捨てて、すぐわきの建物内へ移動した。
《没法子》配下、《玄武》――総勢19名。
廃屋ビルの地下まで降りた彼らは、オートロックのかかっている扉を認証キーで解除すると、200メートル先の目的地に直通する抜け道へと足を踏み入れた。このまま通路を抜けて地上へ上がり、戦闘配置につく手筈となっていた。敵が、別働グループによって狭い裏路地に追いこまれてきたところを待ちかまえ、逃げ道を塞いで前後及び建物の上から攻撃し、一網打尽にする作戦だった。
スラムには、上位階層の有力グループを中心とするセクトが縄張りとする一帯に、通常、このような専用の抜け道がいくつも造られている。それゆえ、自分たちが庭とする場での戦闘は、最大限に地の利を活かすことができた。
通路を走り抜けながら、リーダー格の少年が手もとの通信機に目を落とす。そして、途端にその速度をゆるめた。
「どうした、シェン?」
不審に思った仲間の少年が、声をかけた。シェンは、ついに足を止めて仲間たちを顧みた。
「通信が、切れてる」
少年たちは不安げにざわめいた。
「電波妨害か?」
シェンの親友であり、《玄武》の副将を務めるスキャットが尋ねると、シェンは難しい顔でおそらくは、と頷いた。
「どうする、いったん引き返すか?」
「だが、リッキーたちの状況が掴めない」
「だからこそ、妨害波の外に出たほうがよくないか? とりあえず、車は確保しておいたほうがいい。そのうえで狼に――」
その言葉が終わらぬうちに、前方でけたたましい喚声と銃声音が炸裂し、通路内に谺した。
「なん……」
「シェンッ、逃げろ!! 敵が――」
目を凝らした先に、軍を追いこむ役目を果たしていたはずの味方が形相を変え、転げるように走ってくる姿が見えた。後方から押し寄せる、目に見えない恐怖が、彼らを瞬く間にパニックへと突き落とした。
危険をさとった少年たちは、ただちに方向転換し、出口を目指した。その背後で、目映い閃光が走った。
凄まじい爆音と烈風が、彼らを吹き飛ばした。




