81.新しい服
評価、ブクマ、いいね。ありがとうございます!
「しばらくは、慣れるまでは大変でしょうが、最低でも1日1回は【嗅覚】を使ってください。
繰り返し使うことで、うまく調整出来るようになるはずです」
「はい……。わかりました」
スキルによって覚醒した【嗅覚】は、敏感になりすぎて調整が難しいらしい。
臭い匂いはもちろん、良い匂いでさえ強烈に感じ取ってしまうようで、レーヴェは真っ青な顔でぐったりとしている。
「とりあえず今日は、いろいろと大変だったでしょう。もう休んでください」
「朝食の時間にはリズが声をかけに行くから、ちゃんと寝て、しっかり休んでね」
なんだかんだでいろいろあったけど、レーヴェと会ってからまだ半日しか経っていない。
ステラも病み上がりだし、レーヴェもスキルのせいで相当疲れただろう。
二人には、ステラを寝かせていた隣の部屋へ戻ってもらった。
* * *
ーー翌日。再びフェラール商会を訪れた。
「じゃあ、これ、試着してみて」
ステラに似合いそうなワンピースを選んで、彼女を試着室に押し込むと、レーヴェが驚きの声を上げた。
「ジルティアーナ様の服を、買うんじゃないんですか!?」
「だって、私の服は昨日買ったもの。
今日はレーヴェとステラの服を買いに来たのよ」
そう言いながら、レーヴェに似合いそうな服を物色する。
レーヴェは護衛だから、動きやすくて丈夫なものでないとね。
男性物の服を見ていると、リズが「これはいかがでしょうか?」と、黒の上下に長めのジャケットを持ってきた。
「うんっ! これ、いいわね。レーヴェに似合いそう!」
「では、レーヴェさん。試着してみて下さい」
「ちょっと待ってください!
そりゃあ、今までの服でジルティアーナ様にお仕えするわけにはいかないかもしれませんが……フェラール商会の服を、俺たちが着るなんてっ」
……やっぱり、そうなるか。
昨日、隣の部屋で寝てもらおうとした時も、ステラは今までの薄い布団より、しっかりとした暖かい布団で寝られることを素直に喜んでくれたけど、レーヴェは「俺たちがこんないい部屋で寝るなんて!」と恐縮し、宿を飛び出そうとした。
それを「しっかり休んで、元気に護衛するのが仕事!」と、私が必死に止めたのだった。
新しい服だって……。
本当なら、私たちが選んだ物じゃなくて、レーヴェとステラ、それぞれ本人たちが気に入った服を買ってあげたい。
だけど、それは恐らく難しいだろうと、リズに止められた。
それでこうして、リズと二人で選び、試着してもらっているわけだが……。
うん、リズの言う通りだったわ。
「レーヴェさん。
あなたはもう、今までとは違い、ジルティアーナ様の専属です。
ジルティアーナ様のお側に仕える者が、格の低い物を身に着けていては、主であるジルティアーナ様の恥になります。
仕事だと思って、受け入れてください!」
「え? うわっ!」
リズはレーヴェと選んだ服を無理やり試着室に押し込み、やれやれといった様子で息を吐いた。
私と目が合うと、悪戯っぽく片目をつぶり「レーヴェさんにはこれくらいしないとダメですよ」と小声で言った。
そんなことをしていると、ステラが入っていた試着室の扉が開いた。
恥ずかしそうに、もじもじと顔を出すステラ。
「ど、どうでしょうか……?」
「ステラ、可愛い~!」
「ええ。サイズもちょうど良さそうですね。
ステラさんは、いかがですか?」
ステラが着ていたのは、白を基調に胸元にリボンタイがついた膝丈のワンピースに、グレーのショート丈のジャケット。
ワンピースの白が白い耳とよく合っていて、可愛らしいステラにぴったりだった。
「こんな上質な服を着るのは緊張しますが……可愛い服が着られて嬉しいですっ!」
やっぱり女の子。
自分の服装を確認するように鏡を見て、本当に嬉しそうに笑った。
うん。ステラの服は、これに決まりだね!
なんて思っていると、今度はレーヴェの試着室が開いた。
「わぁ! お兄ちゃん、その服カッコイイ!!
よく似合ってるよ!」
ステラが赤い瞳を輝かせて、レーヴェの姿を見つめる。
私も振り向いて、レーヴェを見ると──
おおお、本当にカッコイイ!!
黒いシンプルなシャツに、細身の皮のようなパンツ。
それに合った黒いロングジャケットが、長身のレーヴェによく似合っている。
ステラは嬉しそうに、レーヴェの周りをぴょんぴょん飛び跳ねながら、後ろ姿なども確認する。
……まるで本物のウサギみたい。
にこにこと笑いながら「カッコイイ! カッコイイ!!」と何度も言われて、レーヴェもまんざらでもない様子だ。
「いい買い物ができて良かったですね」
「うん」
二人を見ていた私に、リズがそう話しかけてきて。
私は笑顔でうなずいたのだった。
ステラは病弱で奴隷だった時も、ほぼ寝たきりで過して居たので、世間では獣人がどの様に見られているかをあまり知りません。
今のティアナからの高待遇が、とても良くして貰っている事は分かっていますが、どれほど特別な事か理解してません。
でもレーヴェは外でもたくさん理不尽な目に合い世間を知ってる分、獣人で奴隷だった自分達に親切すぎるティアナと差別なく対応するリズに戸惑いを感じてます。




