79.ロストスキルの確認
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「では、契約も成立したことですし、情報の共有をいたしましょうか。
さっそくですが、レーヴェさん。失礼ですが、あなたのステータスを見せていただけますか?」
「それは……先ほどもお話ししたように、俺は【ロストスキル】なんです。
見てもあまり意味がないと思いますが……」
リズに切り出され、レーヴェは目線を落とし、申し訳なさそうに答えた。
異世界の感覚がいまいち掴めていない私には分からないけれど、やはりステータス、特に【ロストスキル】を見せるのには抵抗があるのかもしれない。
「それについてなのですが……
ジルティアーナ様にステータスをお見せすれば、何かが分かるかもしれないんです」
「……?
よく分かりませんが、ジルティアーナ様がご覧になりたいのであれば、お見せします。
ステータスオープン」
レーヴェの言葉とともに、目の前に彼のステータス画面が現れた。
──これは……。
「これ、英語!? ……ですよね?
でも見慣れない単語が多くて、なんて書いてあるか……分かりません」
リズは目を見開いて驚いたが、そのあと読めないことに気づいて、残念そうに瞳を伏せた。
私は内容を確認しながら言う。
「英語とほぼ同じアルファベットだけど……英語じゃなくて、ドイツ語ね」
「ドイツ語!? それも、ティアナさんの……?」
「うん。私のいた世界の、日本でも英語でもない、別の国の言葉だよ。
大丈夫。ちゃんと読めるから」
私の言葉に、リズは安堵の表情を浮かべた。
◆
私とリズは、混乱していたレーヴェとステラに、事情を説明した。
──私の秘密。
今の私は異世界からの転生者であること。
本当のジルティアーナは、すでに亡くなってしまったらしいこと。
ジルティアーナも【ロストスキル】だったが、それは「スキルが無い」という意味ではなく、
異世界の文字で記されたスキルであるということ。
そして、私の【翻訳】スキルにより、それを読むことができるということ──。
「転生者……ですか。それも異世界から……」
「うん。この世界の常識って、いまいち理解できないことも多くて……
ジルティアーナの知識はあるんだけど、偏りもあるみたいなの。
だから、傍で色々と助けてほしいのよ」
「それはもちろん。
俺たちで力になれることがあるのなら、なんでもいたします。
……ただ、転生なんて話は初めて聞きました。
もちろん、ジルティアーナ様のお話を疑っているわけではないのですが……」
まぁ、そりゃそうだよね。
私も自分の身に起こった事でなければ、信じ難い話だもの。
「……あのっ!」
「なに?」
「さっき、お兄ちゃんのスキルが読めるって……本当ですか?」
ステラが、期待と不安が入り混じった瞳で私をじっと見つめてきた。
レーヴェがステラを止めようとしたが、私ははっきりと答えた。
「うん。レーヴェの天職もスキルも、ちゃんと分かったよ」
「本当に……? よかった……。
【ロストスキル】は、本当にスキルが無いわけじゃなかったんだ……っ」
ステラはそう言って、目に涙を浮かべた。
もちろんレーヴェも、何も言わずとも感慨深い様子だった。
そんな兄妹の姿を見て、私はジルティアーナが【ロストスキル】だと知ったときのことを思い出す。
自分が【ロストスキル】だと分かって、絶望したジルティアーナ。
この世界では、成人の儀で──天職やスキルが人生を左右する、とても重要なものだとされている。
日本でも、進学や就職先は人生に関わる大きな選択だけど、
それで人生が完全に決まるわけじゃない。あとから転職することもできる。
でも、この世界では……。
オリバーさんのところで見たように、例えば「料理人になりたい!」と思っても、【調理】スキルがなければ、料理は不可能だと信じられている。
実際には、【調理】スキルを持っていないマリーでも、ちゃんと教えれば料理できるようになった。
ただ、スキルがあると泡立てなどが楽だったし、道具の少ないこの世界ではスキルが助けになる場面も多そうだ。
オブシディアンによると、天職は先天的に生まれつき持っている場合と、後天的に努力や環境によって得られる場合があるらしい。
つまり、いま【調理】を持っていないマリーでも、努力を重ねればスキルを得ることができるのかもしれない。
──それが私の推測だ。
でも、この世界の常識では、天職やスキルは成人の儀で「神様から授かるもの」と信じられている。
微妙なスキルを授かるだけでもショックなのに、もし「無し」と言われたら……。
特に、ジルティアーナのような上級貴族の跡取りには、絶望的だったろう。
日本で例えるなら──
総合病院の跡取りとして、期待され、医学部を目指していたのに、一発勝負の受験に失敗して、さらに滑り止めすら落ちた。
──そんな感じ、かな?
「……さん、ティアナさん!!」
リズに呼ばれて、ハッと我に返る。
どうやら考え事をしていて、話を聞いていなかったらしい。
「ごめん。なに?」
「それで、レーヴェさんの天職は……なんだったんですか?」
目の前には、エメラルド色の瞳をキラキラさせて興奮するリズ。
……また研究者の血が騒いでるな?
リズの後ろを見ると、レーヴェとステラもソワソワしている。
長年“【ロストスキル】=スキルなし”と思ってきたのだから、それも無理はない。
私は、レーヴェの天職を伝えることにした。




