77.私の覚悟と決意
なかなか更新出来ず、すみません。
コメント、ブクマ、評価、ありがとうございます!!
その言葉に、思わず私の方が驚いてしまった。
そしてウノさんの顔を見て──その頬に刻まれた“隷属の証”を見て思う。
(そうだ。奴隷の首輪を外したところで、ウノさんは……)
先ほどリズに、奴隷の首輪と隷属の証について教えてもらっていた。
奴隷の首輪を着けられた者は、首輪の鍵を持つ主人の所有物になる。
主人が奴隷をどのように扱おうとも、罪に問われることはない。
逆らえば罰を受ける。
暴力や食事抜きといった罰は当たり前で、奴隷は次第に主人の望むようにしか行動できなくなるという。
そして、隷属の証は──
先ほど、私が「しゃがんでください!」と強く言ったときのウノさんの反応。
あれはやはり、私の言葉が命令として作用した結果だったらしい。
隷属の証の主が、強い意志を持って言葉を発すると、それは紋を刻まれた者の意志に関係なく、強制力を持つ。
リズが市場でウノさんを見たときに言っていた。
「主人への絶対服従の証であり、命令に背けば全身に激しい痛みが走る……呪いのようなものです」と。
その言葉の通り、命令に逆らおうとしたり、従えなかったりすると、全身を引き裂かれるような激痛が襲い、命令に背くことはまず不可能。
人を傷つけることも、自ら命を絶つことすら命じることができてしまうという。
主人となった私が首輪を外したことで、奴隷という立場から彼らを解放することはできた。
──でも、隷属の証の契約は、生涯破ることはできない。
今回のように、主の権利を売ったり譲ったりすることは可能だが、それ自体を無にしたり、ウノさん自身の手で解除することはできない。
かつては、高位の解術師によって解除できたとも言われているが、今ではそもそも奴隷制度が禁じられ、隷属の証を解除できる術師は極めて稀。
現代においては、見つけるのはほぼ不可能とされている。
「ジルティアーナ様」
ウノさんが、私を呼んだ。
顔を上げると、いつの間にか目の前に彼がいた。
彼はゆっくりとした動きで、その場に跪く。
それを止めようと伸ばした私の手を、ウノさんがそっと取った。
「エルアを奴隷から解放したい。病気を治したい。
その想いだけで、ずっと生きてきました。
それをジルティアーナ様が叶えてくださいました。本当に、ありがとうございます。
これからは、ジルティアーナ様にお仕えしたいと思います」
「……っ!」
私は、そんなふうにして欲しくて、彼らを買い上げたわけじゃない。
何か力になれれば、とは思っていたが、実際に買い上げたのは、ギルベルトさんとリズに言われ、流れで決まったことだった。
それなのに、こんなに感謝までされて──俯く私を、ウノさんは穏やかな顔で見つめていた。
「ジルティアーナ様が、我々を奴隷として扱いたくないと考えていらっしゃることは、存じています。
ですが、おそらくその優しさが……この先、貴女自身を苦しめることになるでしょう。
そういったときには、貴女のために動ける駒として、我々をお使いください」
──そうだ。さっき、心に誓った。
クリスディアの領主として、領内でこれ以上、ウノさんたちのような人々を生んではいけないと。
そのためには、協力者が必要だ。
そして何より、私自身の覚悟も。
「──わかりました。
貴方たちには、私の専属として、これから力になっていただきます。
改めて、よろしくお願いします」
「はい。精一杯、務めさせていただきます」
ウノさんは、誓うように、私の手の甲に額を押し当てた。
そして改めて、ウノさんとエルアさんが契約書に向き合う。
ふたりは「どんな内容でもサインします」と言ってくれたが、それでは私の方が納得できない。
リズにお願いし、内容を読み上げてもらった。
すると、ふたりは呆けたように顔を見合わせる。
「何か、質問や問題点はある?」
「いえ……あの、本当にこれだけでいいのでしょうか?」
そう尋ね、戸惑ったように目を合わせるふたり。
それを見て、リズが軽く笑って答える。
「私が、守秘義務だけは契約に加えるよう、ジルティアーナ様にお願いしました。
それをしないと、逆にお二人に──特に戦う術を持たないエルアさんに危険が及ぶと思ったからです。
ジルティアーナ様は、本当は守秘義務すら契約で縛りたくなかったようですが」
それを聞いたウノさんに、「お気遣いありがとうございます」と笑顔で返され、内心ではいたたまれなさを感じていた。
契約を結ばないことで、逆にエルアさんを危険にさらすなんて──そんなこと、考えもしなかった。
私は、この世界の常識や危険性を、まだ何も分かっていないのだと、自責の念に駆られる。
ウノさんは、「我々を駒としてお使いください」と言った。
でも、私はただの駒としてなんて……決して彼らを扱わない。
ウノさんは、「ジルティアーナ様の御命令なら、どんなことでも受け入れる覚悟です」と言ってくれた。
でも、そう言ってくれる彼らの主となる私の方こそが──覚悟を決めなければいけない。
そう、心の中で改めて決意し、契約書にサインしようとするウノさんに、私は声をかけた。




