70.長い耳の⋯⋯妹?
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「ただいま戻りました」
日が沈むころ、リズが戻ってきた。
思わず駆け寄る。
「おかえりなさい! どうだった!?」
「ギルベルト様がご協力してくださり、無事にお二人を買い上げることができました。
こちらが契約の鍵になります」
そう言って渡されたのは、チェーンでつながれた刻印入りの小さな二つの鍵。
こんな物で……人を好きなようにできてしまうんだ。
恐ろしさを感じながらも、それを受け取り、腰に付けたマジックバッグにしまった。
「それで、ウノさんたちは? エルアさんは大丈夫だった?」
「エルアさんは……ウノさんが言っていたように、病気がかなり悪化していたので、上級ポーションを使い、私が体力の回復術を施しました。
……すみません。私の治癒術では、怪我を治すことはできますが、病気には体力の回復くらいしかできないのです」
申し訳なさそうに下を向くリズ。
私はそれを否定するため、彼女の腕を掴んだ。
「そんな……! 謝らないで。
回復術と上級ポーションをありがとう」
「今は、部屋で休んでもらっています。
ちょうど隣の部屋が借りられたんです。行きましょうか?」
「うんっ!」
私はリズの後ろについて、隣の部屋へ移動した。
隣の部屋は、私の部屋より狭いが、私の部屋が広すぎるだけで、内装や広さは普通のホテルのツインルームといった感じだ。
細い通路を抜けると、ベッドの横の椅子にウノさんが座り、その横にギルベルトさんが立っていた。
私に気づいたウノさんが立ち上がり、こちらへ来る。
あ。服が……ギルベルトさんにきれいにしてもらったけれど、継ぎはぎだらけだった服が変わっている。
シンプルだけど上質そうな白いシャツに黒いズボンが、ウノさんによく似合っていた。
その姿を見てホッとしていると、ウノさんがすっと跪き、頭を下げた。
「この度は、私どもを買い上げてくださり、ありがとうございました。今後はご主人様……」
「ちょっと待って下さい!」
私が慌てて止めると、ウノさんはきょとんとし、不安げに見つめてくる。
床に跪いているため上目遣いだ。尻尾がぺたんと垂れ下がっていて、まるで飼ってたうちのワンコみたい……!
って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
「あのっ! 私は、奴隷として扱いたくて買い上げたわけじゃないんです。
ご主人様なんて呼ばないでっ!
改めまして、私の名前はジルティアーナです。これからよろしくお願いします」
そう言って手を差し出すと、ウノさんは立ち上がり、そっと私の手を握った。
「……わかりました。これからよろしくお願いします、ジルティアーナ様」
そう言ってウノさんは、今までの寂しげでも自嘲的でもない、きれいな笑顔を見せてくれた。
──その時だった。
「ウノさん! エルアさんが、目を覚ましそうです」
いつの間にかベッドの傍に移動していたリズが、ウノさんを呼ぶ。
私が来るまで座っていた椅子に座り直したウノさんが、心配そうにベッドの少女の顔を覗き込む。
私もそっと近づき、少女の顔をのぞいた。
なにこの子! 可愛い~~っ!!
美少女がそこにいた。
白い陶器のような肌に、肩までの薄いピンク色の髪。うっすら開けた大きな瞳は赤く、頭からは白くて長い、うさぎのような耳が生えていた。
(……あれ? うさぎ、さん??)
ウノさんの頭には犬のような立ち耳だったけど……
エルアさんだと思われるこの少女には、兎のような長い耳がある。
(んんん? どういうこと??)
そんなことを考えていると、エルアさんが目を覚ましたようで、か細く可愛い声が聞こえた。
「……ん、お兄……ちゃん?」
「エルア! 良かった……! 目を覚ましたんだな」
そう言ってウノさんは、エルアさんの手を両手で包み、額に当てた。
うおおお! 美男美女兄妹!!
……いや、ちょっと兄妹なのか疑問だけど。
「お兄ちゃん、ここ……どこ? いつものお部屋と違う……」
不安そうに部屋を見渡しながら、ウノさんの手をぎゅっと握って聞く。
「俺たちはもう、イリーガル商会の物じゃないんだ。お貴族様に買い上げられたんだ」
その言葉を聞き、エルアさんがひゅっと息を呑むのがわかった。
「それって……っ! ……え?」
掛け布団を跳ねのけ、反射的に起き上がったかと思うと、自分の身体を不思議そうに見つめ始めた。
「なに、このきれいな服……?
それに身体……すごく軽い。頭も……痛くない! ……あっ」
「エルアッ!!」
そのまま立ち上がろうとしたところで、エルアさんの身体がぐらつき、倒れそうになる。
けれどウノさんが支えたおかげで、なんとか倒れず、ベッドに戻された。
「お兄ちゃん、わたし……」
「失礼します。少しよろしいでしょうか?」
何かを言おうとしたエルアさんの言葉を遮って、リズが声をかけた。




