68.獣人の青年のスキル
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「……そうですね。
奴隷であるうえに、獣人への偏見が根強いこのフォレスタ王国では、貴方がパーティーを組むのは難しいかもしれません。
ただ、そうなると先ほどの話で、気になることがあります。貴方は『自分では下級の薬しか用意できない』と言いましたが、西の森で一人で素材採取ができるならば、いくら半分を主人に渡すにしても、もっと良い薬が用意できるのでは……」
え、そうなの? もしかして……。
そう思っていると、ギルベルトさんが青年が持っていた大きめな袋を見ながら聞く。
「今回採取した素材はまだ持っていますか?
もしよろしければ、それを見せていただけませんか?」
「は、はい」
そうして、テーブルの上には素材がずらりと広げられた。
獣の皮や牙のようなもの、宝石のようにキラキラした丸い玉や鉱石、何かの実や薬草など、さまざまな素材が置かれた。
うん。何が何なのかサッパリわからん!!
【解析】使ってみる?
なんて思っていると、リズは獣の皮と牙を、ギルベルトさんはキラキラした丸い玉をそれぞれ手に取った。
ギルベルトさんは丸い玉を親指と人差し指の二本の指で持ち、目の前に掲げて眺めた。
「これは……っ! 虹色スライムから、稀にとれるという虹色石ですよね?」
「こちらは、シルバーウルフの皮に牙ですね。
シルバーウルフは普通のウルフとは速さが桁違いです。通常はスピードを下げる術士が居ないと仕留めるのは難しいはずですが……これをよく一人で仕留めましたね」
私は驚く二人の横で、ギルベルトさんが虹色石という物に夢中になってる隙に、聞かれぬよう小声で「……【解析】」と呟いた。
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【ヒール草】
薬草。そのまま食べると苦い。中級ポーションの材料。
(効果)
怪我や病気の回復。
(品質)
★★★
(状態)
新鮮
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「……えっ、中級?」
「えっ?」
私がポソリと呟いた声に、リズが反応した。
「いや、これね? ヒール草っていう中級ポーションの材料みたいなんだけど……」
私がヒール草を手に持ち、困惑しながら答えるとギルベルトさんが、大きくため息を吐いた。
「貴方、どこの店で換金と、薬の作製を頼んでいるのですか?
どうせ御主人様に指定された店に行っているんでしょう。騙されてますよ。ヒール草があればお嬢様が仰る通り、低級ではなく、中級のポーションが作れますし、虹色石はレアでたまたま手に入ったのかも知れませんが、シルバーウルフの素材だけでも、余裕で中級ポーションが購入出来るほどの価値があるはずです。
虹色石なんて、コレ1つで本来なら貴方の妹さんを買えるんじゃないですか?」
青年は少しだけ驚いたような顔をした後、諦めるようにまた力なく笑った。
「薄々俺も、もしかしてかなり安く買い叩かれているのでは? とは思ってはいました。ですが、悔しいですが……隷属の証を付けられた俺には、御主人様からの命令に背くこともできません」
悔しそうに拳を握る彼の姿を見ていると、リズが言った。
「あの……大変失礼ですが、貴方は優秀な戦闘スキルをお持ちなんですか?
シルバーウルフや虹色スライムをソロで仕留めるなんて」
リズが大変失礼と言ったのは、天職やスキルはプライバシー性が高いモノの為に、【料理人】などの、それにあった職業の人以外にスキルを聞くことは失礼なことになるらしい。
「俺のスキルは……ありません」
小さい声で言いづらそうに言ったあと、自嘲的な笑みを浮かべた。
「俺には、スキルも天職もないんです。
──ロストスキルなんです」
ロストスキル……っ!?
予想外な事を言われ、固まってしまった。
私以外で、ロストスキルの人に初めて会った。
ステータスを見てみたい! と思うが、スキルを聞くだけでも失礼なのに、ステータス見せてくれ。なんて失礼が過ぎる事だろう。
黙りこむ私とリズをよそに、ギルベルトさんと獣人の青年が会話をする。
「ロスト……スキルですか。ロストスキルだという人に初めて会いました」
「俺は、隷属の証が付いた奴隷という身分のせいで、それ以上に恥もないのでお伝えしましたが、普通、ロストスキル持ちを恥だと思うので、隠しますからね」
はいはーい。恥だと思ってる訳じゃありませんが、ロストスキル持ちはここにも居ますよー?
と心の中で叫ぶ。
「それにしても、ロストスキルという事は、ステータス補正もないのに、よくシルバーウルフを倒せる程の能力がありますね。
「それは……俺が獣人のおかげでしょう」
そう言って右手を挙げたかと思うと、その右手は巨大化し、肘から右手にかけて尻尾と同じフサフサな白い毛に覆われた。
そして指先には、毛とは対照的な黒く鋭い爪が現れたのだった。




