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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
クリスディアへの道程

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67.獣人の青年の大切なもの


さらに獣人の青年は、続けて言った。



「助けていただいたうえに、優しく接してくださった貴女に、何かお礼をしたいのですが……奴隷の身である俺には自由がなく、何もできそうにありません。

それに、俺のせいで貴重な情報まで話させてしまって……申し訳ありません」


そう言って、彼は深く頭を下げた。


──謝ることなんて、ない。

お礼を期待して助けたわけじゃない。あの市場での理不尽な出来事が不愉快で、つい庇っただけだ。

……それだって、ギルベルトさんが出てきてくれなかったら、ちゃんとできていたか怪しい。


確かに彼がきっかけでドライヤーの情報を漏らしてしまったけど、うっかり喋ってしまったのは私の不注意のせい。

この人が悪いわけじゃないのに──。


でも、それを口にしたところで、きっとまた謝られるか、お礼を言われるだけなような気がして、私は言葉を飲み込んだ。


「──ところで貴方は、どうして一人で市場にいたんですか?」


重たい沈黙を破ったのは、ギルベルトさんの声だった。

私たち三人の視線が彼に集まる中、ギルベルトさんは淡々と問いかけを続ける。



「奴隷を何度か見かけたことはありますが、多くは手枷や足枷をつけていました。

そもそも奴隷が外出することは稀で、たまに外に出るとしても、主人と同行するのが普通だと聞きます。

なのに貴方は一人でしたし、枷もつけていないようでした」



それを聞いた青年は、わずかに力なく笑った。

目を伏せ、そっと自分の首に巻かれた無骨な鉄の首輪に触れる。


「それは……おそらく、一般的な奴隷の話だと思います。

この首輪は、契約により主が持つ鍵以外では外せません。さらに、鍵に魔力を込めれば奴隷の居場所を特定することもできます。

それでも……自由を求めて逃走する奴隷が一定数いる。

遠方に逃げられた場合、場所を特定するための魔力の負担は、平民にとって小さくはありません。

だからこそ、外出時には枷を着けるのが一般的になったんです」


彼はゆっくりと顔を上げ、金色の瞳でギルベルトさんを見つめた。



「……俺には枷があります。手枷や足枷以上の、絶対に逆らえない“命令”の枷です。

この隷属の証を刻まれた者にとって、ご主人様の命令は絶対です。戻ってくるよう命じられていれば、それに逆らうことはできません」


そう言いながら、頬に描かれた隷属の紋章を指先でなぞる。そして、続けざまに言葉を紡ぐ。



「先ほどの質問……市場にいた理由ですが、街の外で薬草を採取していた帰りだったんです。

俺には妹がいます。病弱な子で……でも、奴隷である妹に薬を与えてもらえるはずもありません。

だから、ご主人様に懇願して、特別に月に一日だけ、薬草採取のための外出を許可してもらっています」



──月に一度だけのお休み?

ただでさえ過酷な労働環境なのに、それさえも“特別”だというの?


思わず言葉を失っていると、ギルベルトさんが表情を強ばらせて問い詰める。


「……あのイリーガル商会の会長が、奴隷に休みを与えるとは思えません。それに、一人で街の外に出すなんて……

まさか、その隷属の証は、そのために……?」


「はい。妹は、俺にとって唯一大切な存在です。

奴隷の身である俺にとって、大切なものは妹だけ。だから彼女のためなら、何だってします。

妹の病が悪化し、このままでは命が危ないと分かった時……

薬をいただけないなら、自分で材料を集めさせてくださいと、ご主人様に頼みました。

そのとき提示された交換条件の一つが──この隷属の証でした」



そんな……。

隷属の証について、ジルティアーナは詳しくないようだけど、それは主人からの命令に逆らえなくなる、絶対服従の魔術刻印。

あまりに一方的な制度のため、奴隷制が禁じられたのと同時に、隷属の証も禁忌とされていたはずだ。

……でも、今も奴隷が存在するくらいだ。獣人相手なら黙認されているのかもしれない。



「……俺が用意できる薬なんて、下級のものばかりです。

それでも、それすらなければ妹は死んでしまう。

だから月に一度、西の森まで薬草を採りに行っています。採取した薬草や魔獣の素材の半分はご主人様に渡し、残りは必要な薬草を除いて換金しています。

その金で薬を加工し、そして──いつか妹を買い上げて自由にするために、少しずつ貯めているんです」



それまで黙って聞いていたリズが、そっと口を開いた。


「……西の森に、一人で素材採取に行かれているんですか?

あそこは強い魔獣が多いことで有名です。普通はパーティーを組むことが推奨されています。

それなのに、あなたは一人で、薬草だけでなく魔獣の素材まで……?」


「はい。……奴隷の俺と、パーティーを組んでくれる方なんて、まずいませんから」


彼は悲しそうに目を伏せながら、そう呟いた。



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