48.ナポリタンを食べてもらおう
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本日、2話目の更新です。
「わぁー!! 美味しそう!」
「もう、食べていい!?」
マイカちゃんとルークくんの前に、ナポリタンを置くとふたりが歓声を上げた。
『早く食べたい!』という気持ちが、見ているだけでひしひしと伝わってくる。
「こら。みんなの分が揃ってからにしろ」
昨日、厨房にいた男性──マリーの弟だという彼が、二人に注意した。だが──
「お父さん! このジュース、すっごく美味しいっ!」
「ジュースの中に、ペシェルが入ってるよ!?」
「あっ! おい!!
マイカたちを注意してるのに、お前らが飲むなよ!!」
弟さんがマイカちゃん達に気を取られている隙に、逆側のテーブルでは弟さんの息子さんたちがペシェルを飲み始めていた。
──マイカちゃんくらいの男の子と、ルークくんほどの女の子。従兄弟の二人だ。
ちなみに、彼らのお母さん──弟さんの奥さんは、一番末っ子の赤ちゃんのお世話で、食堂には来られなかったらしい。
「コレね、実はジュースじゃなくて、紅茶なんだよ?」
私はナポリタンをテーブルに置きながら、マリーの甥っ子たちに話しかけた。
「そうなの!? でも、冷たいよ?」
「紅茶は冷たくしても美味しいんだよ。
暑い日には冷たいものが飲みたくなるでしょ?」
「うん! 温かい紅茶は苦手だったけど、コレなら甘くて美味しいから、オレ好き!」
そう言ってニカッと笑ってくれた。
その隣では妹ちゃんが、ペシェルの果肉を食べようとコップを傾けすぎていたので、私はスプーンを手渡す。
「お姉ちゃん、ありがとう!!」
「色々、すみません……」
マイカちゃんとルークくんもだけど、従兄弟たちも本当に可愛い……!
胸がキュンキュンしていると、マリーの弟さんが私に頭を下げてきた。
「いえいえ、気にしないでください」
「いやっ、子供たちのことだけじゃなく、 オリバーたちの分だけでなく、俺たちにまで新しいレシピの食事を作ってくれたこと、それにマリーのことも……」
「マリーのこと?」
「姉が……『料理を教えてほしい』とか言ったらしいですね。
マリーは【料理人】じゃないから、料理の常識も知らないんです。
子供に手料理を食べさせたいなんて、くだらない理由で……貴重なレシピを教えて欲しいなんて。本当にすみませんでした」
……くだらない理由、かぁ。
私は、にっこりと笑った。
「大丈夫ですよ。
とりあえず、料理も運び終わりましたし、みんなでナポリタンを食べましょう」
私がテーブルにつき、みんなが揃っているのを確認してから言う。
「では、食べましょうか」
私のその一言に、待ってました!と言わんばかりに、ルークくんと従兄弟くんたちがナポリタンに飛びついた。
私とリズ、それからマイカちゃんの3人は、
「「「いただきます」」」
と手を合わせてから食べ始める。
すると、マリーが不思議そうに首を傾げて言った。
「“いただきます”……?」
「“いただきます”っていうのはね……」
マイカちゃんが説明しようとしたその時、それを遮るように響いた元気な声。
「おいしー!!」
「このパスタ、すっごく美味しい!!」
「ソーセージ! なんか変な形してるのあるよっ?」
……変な形、って。
ダメだったかな……と一瞬不安になる。けれど、ナポリタンをかき分けながら、
「あ! ボクのところにもあった!!」
と、宝探しみたいに喜ぶ子どもたちを見て、思わず笑ってしまった。
“タコウィンナー”だって伝わらなかったけど、楽しんでくれてるなら、結果オーライ。
さて、私もいただこうかな──そう思ったタイミングで、食堂のドアが開いた。
「お母さん!!」
「やっと寝てくれたから急いで来たけど……遅かったかぁ」
入ってきたのは一人の女性。夕食の時に見かけた、弟さんの奥さんだった。
どうやら授乳を終え、赤ちゃんを寝かしつけてから来たらしい。お手伝いさんにバトンタッチしてきたそうだ。
彼女の姿を見て、従兄弟くんたちは嬉しそうに走り寄る。
「お母さん! これ、すっごくおいしいよ!!」
「冷たい紅茶もあるの!」
「本当だ……いいなぁ、美味しそう」
そう言いながら、テーブルの上の料理に目を向ける義妹さん。
その様子を見たマリーは、そっと立ち上がり、自分が食べようとしていたナポリタンを彼女のテーブルに置いた。
「お疲れ様。これ、まだ手をつけてないから、あなたも子どもたちと一緒に食べて」
「え!? それ、お義姉さんの分じゃないですか!?
い、いや、行けないと思って断ったのは私だし、お義姉さんが食べてください!」
「大丈夫よ。ナポリタンの材料はまだあるし、目玉焼きを焼けばすぐ用意できるわ。
だから、先に食べてて」
「え……?」
戸惑う義妹さんをよそに、マリーはオープンキッチンに向かい、卵を割り追加の目玉焼きを作り始めた。
「ええ!?」
その様子を見た弟さんが、思わず立ち上がって驚きの声を上げる。
私はアイスペシェルティーをグラスに注ぎ、義妹さんの前に置いた。
「マリーの分は今作ってくれてるので、少し時間がかかります。
どうぞ、その間にゆっくり食べてください」
「え……? まさか、ナポリタン……これ、本当にマリーが作ったんですか!?」
そう言いながら、ナポリタンをすでにひと口食べていた弟さんは、口元を手で押さえた。
「はい。私が作ったのは、アイスペシェルティーだけですよ。
数が多かったので、私とリズの目玉焼きは私が焼きましたが、みなさんのナポリタンは、全部マリーが作ったものです。美味しいでしょ?」
私は、みんなの様子を見回しながらにっこりと笑った。
次回、49.マリーの夢。




