46.オリバーさんへのお話
ブクマ、評価、誤字報告ありがとうございます!
誤字・・・気を付けてるつもりなんですが、すみません。ありがとうございました。
「すみません! お待たせいたしました!!」
先ほどのマリーのように慌てた様子で、マリーを伴ってオリバーさんが現れた。
でも、なんだろう。妙に焦ってるように見える。
「いえ、こちらこそ。急に来ていただいてありがとうございます」
「えっと……それで、何か?
妻が何か、失礼なことでもしてしまったのでしょうか?」
なんでそうなるの!? と思いマリーを見ると、彼女は「てへっ」と笑って、
「どう説明していいか分からなくて、
『大変なことしちゃったから、食堂来て!』ってだけ伝えたの。
私が貴族のことを聞いたら、大変な話になっちゃったのは間違いないし?」
「貴族について……?」
なんちゅー言い方を……!
間違ってはいないけど、説明が雑すぎるわいッ!
「とりあえず、座りましょうか?
私たちがマリーさんからお話を伺って、ある提案をしたので、ご相談のためにオリバーさんを呼んでもらったんです」
リズがそう促し、全員でテーブルについた。
「それで、お話というのは……?」
「改めまして、私の名前はエリザベスと申します。
ヴィリスアーズ家のジルティアーナ様の侍女をしております」
「……!! ヴィリスアーズ家の侍女!? 」
驚きのあまりフリーズするオリバーさん。
しばらく動きそうもない彼に、マリーが話しかける。
「でね、ティアナたちに──」
「ティアナ!?
っ……ティアナさんも、もしかして貴族なんですか?」
「あ、はい。すみません、実はそうなんです」
頭をかきながら、へらっと笑って答えると、オリバーさんはフルフルと震え始め、隣のマリーの両肩をガシッと掴んで叫んだ。
「なんで“ティアナ”なんて呼び捨てにしてるんだ!?
貴族に対して、失礼な振る舞いをしたらどうなるか……っ!」
「あのー……」
「申し訳ございません!
妻は貴族の対応に不慣れでして……!」
「いやいや! 大丈夫なんで、頭を上げてください!!」
日本だったら土下座してるんじゃって勢いで頭を下げてくるので、慌てて止める。
「マリーには、私から呼び捨てにするようお願いしました。
ここでは貴族として振る舞うつもりはありませんので、オリバーさんも今まで通りに接してください」
「……わかり、ました」
納得はしていない様子だったが、オリバーさんは渋々うなずいた。
リズが話を続ける。
「それでですね。マリーさんから伺いました。
オリバーさんが以前、王都で貴族の専属料理人をされていたと。
それでぜひ、ジルティアーナ様の専属料理人として、お迎えできないかと思い、ご相談させていただいたのです」
「私を……ジルティアーナ様の専属料理人に……!?」
またもやフリーズするオリバーさん。
……あ、動いた。
少し間をあけて、気まずそうに口を開いた。
「確かに王都で、お貴族様の専属料理人として働いておりましたが……もう何年も前のことですし、何より、私の雇い主は下級貴族でした。
大変ありがたいお話ではありますが、上級貴族であるジルティアーナ様の専属が務まるほどの実力は、私にはないと思います」
「マリーさんにもお伝えしましたが、ジルティアーナ様が求めておられるのは、“実力”、つまり美味しい料理です。
上級貴族にふさわしい見た目などは、後々練習していただければ構いません。
ティアナさんも絶賛されたオリバーさんの料理であれば、ジルティアーナ様にもきっと気に入っていただけます」
「…………承知いたしました。
それで、私はどうすれば?
皆様は本日午後、ルセルを発たれると伺いました。私もご一緒に出発すべきでしょうか?」
思っていたよりも話し合いはすんなり進み、オリバーさんはあっさり承諾してくれた。
でも……なんだろう、この違和感。
念願の専属料理人になれる喜びというより、どこかしら渋々引き受けているような雰囲気。
まるで「左遷命令を出されたけどクビにはなりたくないから受け入れる」みたいな……。
それに、ついさっき出た話を、条件もほとんど聞かずに受け入れて、数時間後には出発っておかしくない?
私だったらただの出張だとしても、「準備あるから明日にして!」って訴えるわ。
しかも今回は“専属として”ついていくって話よ?
そんな簡単に決めていいの!?
疑問が湧いてきて、思わず口を開いた。
出張に行け。って言われても、私なら準備があるから明日にして!って訴えるわ。
それが今回の話は専属として着いてきて欲しいという事。
そんな簡単に決めちゃっていいの!? と思わず、その疑問をぶつけた。
「ちょっと待ってください。
私が言うのもなんですが、そんなあっさり決めちゃって大丈夫なんですか?
もっと考えてからでもいいんじゃ……?
クリスディアに来てほしいって話ですよ?
馬車で何日もかかりますし、今のお仕事の引き継ぎや引っ越しの準備、何よりご家族での話し合いも必要じゃないんですか?」
「……? でも、もう私を専属料理人にするというのは、決定事項ですよね?
私は……その指示に従うだけですから」
え……。まさか……
“自分の意思は関係ない”ってこと?
“命令されたから従う”なんて──。
次回、専属料理人。




