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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
クリスディアへの道程

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39.マリーさんのお願い


フライドポテトに満足したオブシディアンは部屋へ戻り、オリバーさんはお客さんに呼ばれて仕事に戻っていった。


その後、私はリズとのんびりお茶を楽しんでいたが、部屋に戻ろうと食堂を出たところで、マリーさんに声をかけられた。


「ルークくんたちは大丈夫なんですか?」


「はい。義妹が……あの厨房にいるのは、私の弟なんです。

その奥さんが、甥っ子たちと一緒にマイカとルークを見てくれているので、大丈夫です」


マリーさんの視線を追うと、厨房にいるのはオリバーさんとは別の男性。

言われてみれば、マリーさんとその男性はどことなく似ている。

同じ焦げ茶色の髪に、少したれ目がちな目元も似ていた。


「……あの、何か?」


リズも同じことを思っていたようだった。

マイカちゃんとルークくんを預けてまで、わざわざ私たちの前に現れた理由。

きっと、子どもたち抜きで話したいことがあるのだろう。そう考えていると、マリーさんが私を見つめ、意を決したように口を開いた。


「図々しいお願いだとは思うのですが……

ティアナさん。私に、料理を教えていただけませんか?」

「料理……ですか?」


そんなこと、ご主人のオリバーさんに頼めば──そう言いかけた瞬間、卵を振りかぶり、片手で割ろうとしていたマイカちゃんの姿が脳裏をよぎった。


私が迷っている間に、リズが先に思っていたことを口にした。


「料理をしたいのであれば、【料理人】であるご主人のオリバーさんに教わるのがよいのではありませんか?」


「それが……主人に何度も教わったことはあるのですが、情けないことに、言われた通りにうまくできなくて……。

でも、マイカがティアナさんに教えてもらったら、卵をうまく割れたって話を聞いて……。私もティアナさんに教えてもらえたら、もしかしたら……!って思ったんです」


……やっぱり、そういうことか。

【料理人】の【調理】スキルの影響で、やり方さえ分かれば、初歩的な作業は自然にできてしまう。

だから練習もしないし、コツも知らない。人に教えるのが難しいらしい。


東大生が優秀でも、必ずしも家庭教師に向いているわけではない、みたいな?

頭が良すぎて、覚えるのが苦手な子の気持ちがわからない、的な?


そんなわけで、マリーさんもオリバーさんに何度も料理を教えてもらったが、うまくいかず、卵を割ることさえできなかった。

でも今回、私がマイカちゃんと料理をしたことで──正確には、少し手伝ってもらっただけだけど、マイカちゃんは、初めて卵をうまく割ることができた。


何度教えてもできなかったことが、一度のやり取りでできた。

だからマリーさんも、大人の自分がちゃんと教えてもらえば、簡単な料理くらい作れるようになるのではないかと思ったのだろう。


「いつも食事は、主人や弟が作ってくれています。

でも……私も、一度でいいから、“お母さんが作った料理”を子どもたちに食べさせてあげたいんです」


その言葉を聞いて──思わず、マイカちゃんたちが羨ましくなった。


ジルティアーナは貴族だったこともあるだろうけど、義母であるイザベルはもちろん、実母のアナスタシアの手料理なんて、食べた記憶がない。

私のために何かをしてくれた──そんな思い出も、ほとんどなかった。


そして、日本で生きていた私も。

日本では“母親がご飯を作る”のは普通のことだったはずなのに、私にはそれすらなかった。


いつも友達なんかが

『私はママの手料理の中なら、ハンバーグ好き』

『ウチのお母さん、料理下手なんだよねぇ』

などと、当たり前のように話していることが羨ましくて仕方なかった。

下手であろうが……料理を作ってくれようとするお母さんが、欲しかった。


マリーさんは、マイカちゃんたちの“お母さん”なんだ。


「……ダメ、でしょうか?」


私が黙って考え込んでしまったせいで、不安にさせてしまったようだった。


「いいえ。大丈夫ですよ。

あまり人に教えたことはないので、うまくできるかわかりませんが……やってみましょうか」


私の返事に、ほっとした表情を浮かべるマリーさん。

明日の朝食後、厨房を借りて昼食を一緒に作ることを約束して、マリーさんは去っていった。


「ごめんね。またルセルを出発する予定が遅くなっちゃった……」


本当は今日の朝にはルセルを出る予定だったのに、私が料理を作ることになったせいで予定を一日延ばしていた。

さらに、明日の朝に出発するはずだった計画も、先ほどの約束でさらにずれてしまった。


「大丈夫ですよ。

オブシディアン様の翼があれば、昼に出ても夜にはウィルソールの街に着けるはずです。

明日の料理、マリーさんがうまくできるといいですね」


「うん! ありがとう。

明日は何を作ろうかなぁ?」


せっかくだから、マイカちゃんたちが喜んでくれて、なおかつ簡単に作れるもの……

何がいいかなぁ? と考えながら、私はリズと一緒に部屋へと戻った。




次回、アイスペシェルティー

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