35.山盛りポテトの注文
「リズお姉ちゃんが言った通りだね!
しっとりふっくらで……ナポルが甘酸っぱくて、なのに、上の方は甘くてパリパリしてて美味し~~い!!」
「しっとり甘酸っぱくて幸せの味でしょ?
少しこげて、キャラメリゼになったのもおいしいよね!」
「本当に……とても美味しいです。
今までのケーキは……なんだったんでしょう?」
本当、何だったんだろうね?
先程「いただきます」の意味を考えたせいで余計に思う。
あれは……食材への冒涜だわ。
「うまい!! もっとくれ」
…………食べ過ぎです。我慢してください。
3人それぞれの感想を聞き、とりあえずみんな美味しかったようで、ほっとした。
ちなみに、オブシディアンはおかわりを2回し、3回目をしようとした所でストップをかけたのだった。
「リズお姉ちゃんの入れてくれた紅茶も凄いおいしいね! ナポルケーキと一緒に飲むともっと美味しい!」
「でしょ? リズのお茶はとっても美味しいのっ!」
つい自分が褒められたように嬉しくなり、そう返すとリズは照れた様に微笑んだ。
「また、凄い美味しそうな……甘い匂いがしますね」
「お父さん!」
ジャガイモを抱えたオリバーさんが、ちょうど仕入れから戻ってきた。
「……おや?」
「お帰りなさいませ、オリバーさん。
すみません、連れの者が合流したので、一緒にティアナさんのケーキを試食してました」
オブシディアンに気づいたオリバーさんにすかさず、リズが言った。
さすが、リズさん。
……ただ、オリバーさんへ説明。
というよりもオブシディアンが余計な事を言わせない為の牽制のように思えるのは、私の気のせい?
オリバーさんは「ケーキ……ですか」と微妙そうな顔をしたが、カウンターに置かれたナポルケーキに目をやり目を見開く。
「これが……ケーキですか?」
「そうだよ!お父さんが言ってたケーキと違って、しっとりしてるのにナポルの表面がパリパリしてて、と──ても美味しかったのっ!!」
「オリバーさん。オリバーさんはもちろん、マリーさんとルークくんの分も作ったんで、ぜひあとで食べて下さいね?」
「えっ! いいんですか? ありがとうございます!!」
そう言えば、オリバーさんもケーキは美味しくない。と思ってたんだったね。
以前食べたケーキと見た目からして、全く違ってたナポルケーキに驚いたようだ。
「そうだ。ティアナさんにご相談があるのですが……」
「はい、なんですか?」
「今日、たくさん良いジャガイモが手に入ったんです。
宜しければ、先程作って頂いたフライドポテトを、今日のディナーでメニューに入れてもいいでしょうか?」
「はい。もちろんです。どーぞ、どーぞ」
「ありがとうございます!
ちゃんとレシピの代金は払いますので……」
え!?レシピ代?
思わぬ事を言われ、びっくりする。
「レシピ代って……別にそんなの要らないですよ?」
「え!?」
「別に私が考えたものでも無いですし、フライドポテトでもマヨネーズでも、良かったら好きな様に作ってください」
普通は料理を教えたらお金を取るものなのかな?
……よく分からん。
「むしろ、プロであるオリバーさんに作ってもらえるなら、私が作るより美味しいと思います。
今日の夕飯も楽しみにしてますね」
「そう仰ってくださるなら……有難く作らせて頂きます。ティアナさんが作ってくれたように、美味しく作れる様に頑張ります」
オリバーさんがお礼を言った。
そして、それに一番反応したのは……食いしん坊だ。
「フライドポテトとは、昨日食べた細いやつのことだな!?
じゃあ、この後作るなら──俺の分として、このボウルいっぱいに作ってくれ!」
そう言ってオブシディアンが差し出したのは、先ほどケーキ作りで使った大きなボウル。
………………。
俺の分として?
まさか、この中にフライドポテトを山盛りにして、一人で食べるつもり?
……いやいや、食べ過ぎでしょ!!
その思いは、マイカちゃんも同じだったようで……
「お兄ちゃん、フライドポテトは美味しいけど……1人でそんなに食べるの?」
「ん? 今日の夕飯だけで食べるのではないぞ?」
「夕飯で食べなくてどうするの?
ディアンも冷めてたの残念がってたじゃない。
フライドポテトは冷めたら美味しくないよ?」
「………………。」
マイカちゃんが疑問をぶつけ、それに答えるオブシディアンに私は突っ込んた。
……リズはそんなオブシディアンをみて、何か考えてる??
やっぱりフライドポテトは揚げたてが断然おいしいよね。
私は、しなしなポテトはあまり好きじゃない。
ファーストフード店などで買ってフライドポテトをすぐ食べれなかった時は、レンジでチンするのでさえしっとりするのが嫌で、フライパンで温めたり、手間ではあったが、もう一度揚げ直したりしてた。
「大丈夫だ。くうか……「オリバーさん、当たり前ですが、ちゃんとお金は払いますので、フライドポテトを作って頂けませんか?」
くうか……??
何を言おうとしたか分からなかったが、オブシディアンの言葉をリズが遮りオリバーさんに笑顔でお願いした。
だが、笑顔が……何故か恐い。
先程の『自重してください』と怒られた時と同じ気がする。
「わ、わかりました。任せてください!」
オリバーさんもそれを感じ取ったようで、引き気味だったが了承してくれた。
次回、マジック鞄の非常識




