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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
聖霊の住む森

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343/349

342.それは企業秘密です


過去の回想から意識を現在へと戻した私は、

穏やかに微笑むシルヴィア様を前にして──完全に困り果てていた。


(……やってしまった)


ああ、そうだった。

今では養豚はすっかり軌道に乗り、自分たちの食卓だけでなく、

おにぎり屋の提供分や領民へ回す分まで、安定して確保できている。


それゆえに、つい忘れていたのだ。


本来、オークのお肉は“とても貴重な食材”だったことを──。


(ど、どう答えれば……!?)


内心であたふたしていた、その瞬間。

横に座るミランダお姉様が、いつもの落ち着いた声でさらりと言った。


「実は、オークを“養豚”しているのですよ」


「……ようとん?」


私は思わず、お姉様の顔を二度見した。

そんな大事なこと、いきなり言ってしまっていいの!? と目で訴えるが──


お姉様は優雅にお茶をくゆらせるだけで、まったく動じていない。


案の定、シルヴィア様をはじめ、その場の皆が

「“ようとん”? 何それ?」

と言いたげな表情をしている。


(……ですよね。

この世界、そもそも家畜文化が存在しませんもんねぇ)


心の中で盛大にため息をつく私をよそに、

ミランダお姉様は柔らかな微笑みを浮かべて続ける。


「ええ。オークを飼っているのです。“食用に適した環境で育てる”という意味ですわ」


シルヴィア様はぱちぱちと瞬きをし、そっと身を乗り出した。


「オークを……育てる?

あの魔獣を、人間の管理下で?」


「ええ、そうなのですよ」


ミランダお姉様はにっこりと私へ視線を送る。


「ティアナは、とてもこう……柔軟な発想を持っていますから」


(やっぱりこれフォローじゃないのね! 褒められてないですよね!?)


遠巻きに聞いていたエステルさんは、青ざめた声でつぶやいた。


「信じられません……あのオークを飼うなんて……」


ヴァルドさんも腕を組み、重々しく頷く。


「……オークは魔法を扱い、空を飛びますからね。

普通に考えれば、管理など到底不可能でしょう」


続いて、テリルさんが勢いよく手を上げる。


「そうっすよ! オークって飛ぶし暴れるし、

風魔法なんて使われたら室内なんて一発で崩壊っす!

どうやって飼ってるんすか!?」


質問が途端に雪崩を打ったように押し寄せ、

私は内心で「ぎゃーー!!」と叫んだ。


(誰か助けてぇぇぇ!!)


だが──


ミランダお姉様は、人差し指をそっと口元に添えた。


「ふふ……詳しいことは“企業秘密”よ」


ただそれだけ。

なのに空気は一瞬で静まり返り、

「それ以上は聞くべきではない」という空気が完璧に完成した。


(さすがお姉様……!

私なんて横でおろおろしてるだけなのに……!)


安堵してお姉様を見つめた、その瞬間。


視線が合う。


そして──バチンッ!!


「いったぁあああ!!? ちょっ、なんでデコピン!?!」


鋭く澄んだ音とともに、お姉様の長く美しい指が私の額へクリーンヒット。


お姉様はため息まじりに、しかし優雅に告げる。


「ティアナ。

思っていることをそのまま表情に出さないこと。

貴族は、平然としていれば良いのですわ」


「す、すみません……っ!」


私は涙目になりながら額を押さえる。

──そう、これ何度も言われてる。

でも私はどうも、感情がそのまま顔に出やすいのだ。


周囲はというと──


シルヴィア様は優しく微笑み、

他の皆は気まずそうに「まあ……」と視線を逸らしていた。


(は、恥ずかしい……!)


しかし、ミランダお姉様の表情は優雅そのもの。

揺るぎない“大人の余裕”を見せつけていた。


そんな空気のなか、額を押さえる私を横目に、

シルヴィア様はなおも興味深そうに言葉を続けた。


「……しかし、本当に興味深いですわ。

オークほどの強力な魔獣を、どうやって安全に育て上げているのか……」


(ひぇぇぇ……! そこ深掘りされると困るんですぅぅ!!)


シルヴィア様は控えめながら鋭く切り込む。


「魔道具で管理?

それとも──特殊な結界術を?」


お姉様に助けを求めるように視線を向けると──


ミランダお姉様は、春の陽光のような穏やかさで微笑んだ。


「シルヴィア様がクリスディアの特産物に興味を持ってくださるのは、とても光栄ですわ」


そしてカップを置き、ゆったりと続ける。


シルヴィア様はその顔をじっと見つめ──

ふっと柔らかく笑った。


「本当に……ティアナ様と仲良くしておられるのですね。

安心しましたわ」


あまりにも自然な“着地点”だったため、私は一瞬きょとんとしてしまった。


(……あれ?

質問、完全にかわされた……?

しかも私たちの関係の話で締められた……!?)


胸の奥がくすぐったいような、複雑な気持ちがじんわりと広がっていった。




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