表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
聖霊の住む森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

342/349

341.マジックバッグではじめる養豚ライフ


「……ようとん?」


きょとんと声をあげたのはネージュだけではなかった。

ほかのみんなも首を傾げたり、「聞いたことがない」と言いたげに眉をひそめている。


まあ、それも当然だ。

この世界には“家畜を飼う”という発想がほとんどなく、前世の日本で当たり前だった概念が、この世界ではすっぽり抜け落ちている。


「簡単に言うと、この子たちを……マジックバッグの中で飼うってことよ」


「ええ~~っ!! この子たちも食べないの!?」


ネージュが、世界の終わりのような声で叫ぶ。


私が説明する前に、リズが一歩前へ進み、丁寧に問いかけた。


「ティアナ様は以前にも、オークを“飼う”とおっしゃっていましたよね。

ですが今回は“ようとん”と……。

養豚とは、ただ飼うのとは違うのですか?」


興味深そうに首を傾げるリズに、私は頷く。


「“養豚”っていうのはね……簡単に言うと、“食べる前提で育てること”よ」


その瞬間、ネージュの瞳がギラッと光った。


「最高じゃん!!」


そしてまた口元がゆるみ、涎が垂れそうになる。

エレーネさんが、慣れた手つきで無言のままハンカチを差し出していた。


リズはさらに確認する。


「では……食べる目的ではありますが、すぐに食用にするわけではない、ということですね?」


「ええ、その通りよ。

マジックバッグの中は安全で管理しやすいし、空間が閉じてるから逃げられない。

そこで“オーク牧場”を作るつもりなの」


「オーク牧場……」


ステラがぽかんと口を開け、エレーネさんと視線を交わした。


──ちなみに、この予備のマジックバッグには時間停止効果はない。

だから中に入れたオークは普通に成長する。


そんな中、ぷぎーが誇らしげに胸を張って前へ飛び出した。


『あるじー!

ぷぎーたちは従魔として、弟分たちの管理、全部任せてくだせぇ!!

ご飯の配分からケンカの仲裁、姐さん対策まで!!』


「最後の“姐さん対策”って何!? 本気で怖いんだけど!!」


するとレーヴェが、真剣な顔でゆっくり頷いた。


「……確かに、外部の脅威が減れば、最優先すべきはネージュ様の暴走防止でしょうね」


「なんでよー!!?」

ネージュが抗議するが、誰一人否定しなかった。


気を取り直したネージュが、元気いっぱいに手を挙げる。


「じゃあさっそく、オークたちを放牧しに──」


「しないわよ!?

ここは、庭よ!? 空飛ぶ魔獣を放牧したら、町が大惨事になるから!!」


私は深呼吸し、全員へ向き直る。


「とにかく!

これからはマジックバッグの中で、人もオークも安全に、平和に育てていきます!」


するとネージュが、しれっと手を挙げた。


「分かったけどぉ……お肉はいつ食べれるの?」


「……ネージュ」


「なぁに?」


私はネージュの手をぎゅっと握りしめた。


「焦っちゃだめよ。

栄養たっぷりのごはんを与えて、ストレスなく育てるの。

そうすれば──」


「……そうすれば?」


「オークのお肉は、今食べるよりもっと美味しくなるわ」


一瞬、ネージュの肩が震え、瞳が潤んだ。


「……っ!! それ、最高……っ!」


「それに、こんなにたくさん連れてきてくれたんだもの。

週に一匹くらいなら問題ないと思うわ」


「わかった! 週一で我慢するよ、ティアナ!」


ネージュが誇らしげに胸を張る。

どうにか説得は成功したようだ。


……が、背後から小声がした。


「……なんか、“もっと食べたい”って言ってたネージュ様より、ティアナ様のほうが残酷……」


「しっ! 静かに!!」


聞こえなかったことにした。



◆◇◆



──それから。


結果だけ言えば、養豚計画は大成功だった。

もっとも育てているのは豚ではなくオークなのだけれど。


この世界の人々にはそもそも“豚”という概念がない。

だから──“養豚? 豚じゃなくてオークだよね”なんて気にするのは私だけなので、オークを育てることを“養豚”と呼ぶことにしたのだ。


そして自然な流れで、

オーク肉の味噌汁は “豚汁とんじる” と呼ばれるようになった。


……そして何より、養豚のオーク肉はとんでもなく美味しかった。


野生のオークより、私たちが育てたオークのほうが獣臭さは軽減されているし、手元で飼育しているので、食べたいときに絞めて常に“新鮮で最高の状態”の肉を食べられるようになったのだ。


この世界のどんな高級肉よりも、うちの“養豚オーク”のほうが美味しい──

そんなふうに言われる日が、もしかしたら来るかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ