340.ネージュたちの暴走
「“新しくオークを捕まえる”って……どういうことなのよ!?」
完全にフリーズしていた頭がようやく再起動し、私は思わず叫んでいた。
その前でぷぎーは、鼻をふんっと鳴らし、胸を張ってなぜか誇らしげだ。
『ぷぎーは、あるじから“ぷぎー”の名をいただいたおかげで、ちょー強いオークになったです!
そこらへんのオークなんて、もうちょろいもんですよー!』
「いやいや、“強くなった”のはいいとして……オークを捕まえるって、それ仲間じゃないの?」
私が戸惑いながら言うと、ぷぎーは「何を言うのか」という顔で目をぱちくりさせた。
『えー? 何言ってるですかあるじー。
違う群れのやつらは敵ですよ~? 仲間って言えるのは、あいつらだけっす』
そう言って、ぷぎーは木陰で縮こまっていた三匹へ視線を送る。
三匹はそれに応じるように、妙に誇らしげに鼻を鳴らした。
「ぷごーっ!」「ぷぎーっ!」
まるで「アニキー!」と声をそろえているかのようだ。
ぷぎーはその“歓声”を受け、さらに鼻を高く持ち上げた。
(ええー……そういうものなの?)
私は思わず額を押さえた。
オーク社会って……こんなに雑??
その混乱の中、ネージュが当然のように声を張り上げた。
「じゃあ、決まりだね!
ぷぎー! 追加のオークの捜索、よろしくっ!」
『はーいっ! まかせてくだせぇ、姐さん!!』
「……ね、姐さん!?」
思いもよらぬ呼び名に、私は変な声が出てしまった。
ネージュは胸を張り、得意げに指をパチンと弾く。
その瞬間、捕縛していた縄がするりと解け、地面へ落ちた。
「さぁみんな! オークを捕まえに──行くぞぉー!!」
「「「ぶひーーっ!!」」」
三匹のオークはビシッと背筋を伸ばし、やる気満々で鳴いた。
……いや、なんで君たちまでノリノリなの!?
「え、ちょっ……!?」
焦る私をよそに、ぷぎーがくるりと振り返り、胸をどんと叩いた。
『あるじー、任せてくだせぇ!
ぷぎーがこの自慢の鼻で、“おいしいオーク”を嗅ぎ分けて連れてきますんでぇ!』
「本当にそれでいいの!? 倫理観どこ行ったの!?」
しかしぷぎーは満面の笑みである。
『心配ご無用ですよ、あるじ!
いまのぷぎーにとって大切なのは──
あるじの笑顔と、姐さんの胃袋を満たすことっすから!』
いや、優先順位……ひどくない!?
ネージュは腕を組んで満足げに頷いている。
「うんうん! ぷぎーはよく分かってるねぇ!
そう、まずご飯! すべては美味しいご飯のために!!」
「そんな理念を掲げないで!? 危険思想よそれは!」
しかし三匹のオークまで賛同してしまう。
「ぷごっ!(姐さんのためなら!)」
「ぶぎぃ!(食われないように頑張る!)」
「ぷぎゅぅ!(力を合わせてがんばるぞ!)」
どうしてここで団結できるのか、本気で分からない。
結局私は止められず、ネージュとオークたちは再び空へ飛び去っていった。
◇
──そして。
「何よ、これは!?」
庭に響いた私の絶叫をよそに、ネージュとオークたちは誇らしげに胸を張っていた。
その背後には、先ほどの五匹をはるかに上回る──
巨大な氷漬けのオークが三つ。ほぼ小山である。
「やっぱりオークのことは、オークが一番よく分かってるねぇ!
ぷぎーたちのおかげで、大きな群れを見つけられたよっ!」
ネージュはキラッキラの笑顔を見せた。
元々、五匹でも“多すぎる”と思っていたのに……。
連れ帰ってきたのは── 五十匹近いオーク。
「いやいやいやいや!?
なんで十倍に増えてるのよ!!?」
私が叫ぶと、ネージュは胸を張って言った。
「だってティアナ、いっぱいあったほうが嬉しいでしょ?」
「いっぱいが多すぎるのよ!!」
ぷぎーは鼻を鳴らし、一歩前に出る。
『あるじー。ぷぎーたちは命がけで頑張ったです!
“姐さんの胃袋”のために……!』
「ぷぎー……!」
嬉しそうに抱きつくネージュ。
鼻を誇らしげに鳴らすぷぎー。
三匹も胸を張って続く。
「ぷごっ!(アニキに続け!)」
「ぶぎっ!(姐さんのために!)」
「ぷぎゅっ!(今日は勝利の日!)」
勝利とは……何に対しての勝利……?
私は観念し、四匹の前に立つ。
「分かったわ。ぷぎー──あなたたちには……名前をつけます。
正式に、私の従魔にするから!」
「「「「ぶひーーっ!!!」」」」
四匹は跳ね上がり、涙を流して喜びを爆発させた。
『あ、あるじ……! ぷぎー、一生ついていきますだ……!!』
「ぷぎぃ!!(名持ちだ……!)」
「ぶもぉ!!(夢が叶った……!)」
「ぷぎゅう!!(もう食べられない!)」
素直な喜びが胸に刺さる。
……いや、本来は刺さる場面じゃないはずなのに。
そして残った大量のオークたち。
ネージュが氷漬けの山を指差し、期待に満ちた顔で聞いてくる。
「で! ティアナ!
この新しいオークたちはどうするの?
食べる? 食べきれないなら干し肉にする?」
「いいえ!」
私は即答した。
「この子たちは……マジックバッグの中で養豚します!」
「「「「ぶひー!?!?」」」」
「……ようとん?」
ネージュが小首をかしげ、きょとんとした目で私を見つめた。




