337.ぷぎーとオークたち
私は、“ぷぎー”と表示されたステータス画面を見つめながら、思わず頭を抱えた。
「ティアナ様、どうかなさいましたか?」
心配そうに近寄ってきたリズへ、そっとその画面を差し出す。
「……なんでティアナ様がオークの“主”になっているのです?
というか、この“ぷぎー”というふざけた名前は何ですか?」
リズの眉がぴくりと跳ねた。
「ええと、そのね。
このオークを見てたら、“あちらの世界に、この子に似たぷぎーってキャラクターいたなぁ”って思い出しちゃって……。
そんなこと考えてたら、いつの間にか名付けになっちゃったみたいで、従魔契約が成立しちゃった……らしい?」
言いながら、自分でも説明になってないのが分かる。
でも、どう考えてもそういう仕組みなのだ。
リズは、さっきの私のように頭を抱えた。
「……ティアナ様らしいといえば、らしいのですが……!」
額を押さえ、深々とため息をつく。
「いや、ちょっと待って。“ティアナ様らしい”ってどういう意味よ?」
「もう、従魔契約してしまった以上、仕方ありませんね」
「あの、リズさーん?
ねえ、無視しないで!?」
リズは再びため息をつき、こちらを見た。
「……それでティアナ様。名付けてしまった以上、この“ぷぎー”を食べるわけにはいきませんよね? どうなさるおつもりですか?」
「どうするって……言われても……」
視線の先では、問題のオーク――ぷぎーが、ぽへっとした顔でこちらを見上げている。
魔獣とは思えない、のんきそのものの表情だ。
「ぶぎ?」
いや、ぶぎ? じゃないのよ。
「……この子って、強いの?」
とりあえず聞くと、リズはステータス画面を確認しながら目を細めた。
「強いといえば強いですが……所詮は魔獣です。
聖獣であるオブシディアン様とネージュ様と契約しているティアナ様にとっては、弱いと言えるでしょう。ただ──」
「ただ?」
「ティアナ様が“主”である以上、主の影響を受けて成長する可能性があります」
「私の……影響?」
嫌な予感しかしない。
その時。
「ぷぎっ! ぷぎ~~っ!!」「ぶもー!!」
騒がしい声が聞こえ、視線を向けると“ぷぎー”以外のオークたちがマジックバッグの中で大暴れしていた。
「どうしたのかしら?」
「急に騒ぎはじめましたね」
心配になって駆け寄ると、暴れるオークたちをレーヴェが縄で縛り、地面に押さえつけていた。
「あ、ティアナ様!」
私に気づいたステラが駆け寄ってくる。
その後ろでは、縄に縛られたオークたちがなおもじたばたしており、ネージュがじっと様子を見ていた。
「どーしたのー? また暴れるなら、ネージュが“がおー”するよ?」
そのひと言に、オークたちはびくんっと震えた。
「ぷ、ぷひ……」
涙ぐんでいるようにすら見える。まぁ、白虎に睨まれた怖いわよね。
ステラはそんなオークたちを見て、眉を寄せる。
「……ティアナ様。この子たち、何か訴えてるみたいです」
「え? 本当に?」
言われてみれば、ただ暴れていたというより、必死に何かを伝えようとしているようにも思える。
「ネージュ、この子たちが何を言ってるのか分かる?」
私が尋ねると、ネージュは小さく首を横に振った。
「んー……ネージュには分からないよ?」
そう言いつつ、じっと縄のオークたちを見つめ、ぽつりと続ける。
「でもね、私じゃなくて……ぷぎーなら分かると思うよ」
「ぷぎーが?」
ネージュはこくりと頷いた。
「だってあの子はオークだもん。それにティアナとは会話できるようになったでしょ?
だったら、ぷぎーに“通訳”してもらえばいいんだよ」
なるほど……確かに、ぷぎーとは意思疎通ができる。
なら、ぷぎーが仲間の言葉を理解できれば、私も分かるはずだ。
「分かったわ。……ぷぎー、出ておいで」
私はマジックバッグから呼びかける。
「ぷぎ~!」
勢いよく飛び出してきたぷぎーは、私の足元にまとわりついたあと、縄で転がる仲間たちに気づき「ぷぎ?」と小首をかしげた。
「ぷぎー、この子たちが何を言いたいのか分かる?
ちょっと話してきてもらえる?」
「ぷぎっ!」
力強くうなずいたぷぎーは、仲間のもとへ向かっていく。
オークたちはぷぎーを見た瞬間、ざわ……と動揺した。
「ぷ、ぷぎぃ……!?」
「ぶも……ぷぎ?」
頭を下げるその他のオークたちと、どこか胸を張るような偉そうな態度の、ぷぎー。
……まるで、“格上が来た”と言わんばかりの反応だった。




