表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
聖霊の住む森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

335/349

334.ネージュの咆哮


「じゃあ──まずは一匹目から!

オークさんに、おとなしくしてもらいましょう!」


私の声に、みんながぐっと頷き、それぞれが構えを取った。


ネージュが無邪気に手をひらひらさせながら言う。


「じゃ、氷結魔法、解除するね?」


氷を包む魔力がふっと薄れた──その直後だった。


──ぼこり。


氷塊の奥で、何かが“確実に”動いた音。


全員が一斉にそちらを振り向く。


(……今の、ただの氷の音じゃないよね!?)


ほんの一瞬で背筋が冷える。


「──来ますっ!」


レーヴェの低い声が空気を震わせた瞬間。


ばきんッ!!


氷塊の表面が破裂し、オークが弾丸のように飛び出してきた。


「きゃあああ!!?」


私の悲鳴と、周囲の遅れた反応が同時に響く。


ピンク色の丸い身体が、ふわっ……と重力にあらがって宙へ舞い上がる。


──いや、ふわっとで終わるわけがない!


オークは空中で高速回転し始め、鳴き声とも悲鳴ともつかない声をまき散らした。


「ぶもおおおおおっ!!」


「飛んだ!!?」


私が叫ぶと、ステラが青ざめた顔のまま続ける。


「……こんなに……元気だなんて……!」


エレーネさんは口元を押さえ、震え声でつぶやいた。


「お、噂より……ずっと……!」


ただひとり、ネージュだけが楽しそうに笑う。


「わぁぁ! 元気だねぇ!」


……元気が過ぎるんだってば!


リズが一歩前へ出て、冷静に指示を飛ばす。


「ティアナ様、魔力を叩き込んでください!

暴れる前に──今です!」


「い、今!? あんな高速で回ってるのに!?」


空中のオークは、例えるならまるで……“暴走コマ”。狙える気がしない。


するとオリバーさんが落ち着いた声で言った。


「大丈夫です。ティアナ様なら届きます。

軌道を、読むだけです」


「読めるかぁぁぁ!!」


叫んだものの、両手はしっかり構えていた。


心臓が跳ね続ける。でも──やるしかない。


私は息を吸い、タイミングを計る。


「ぶもぉぉぉーーっ!!」


オークがラストスパートの回転に入った瞬間。


「ティアナ様、今です!」


「いっけぇぇぇ!!」


渾身の魔力を放った。


ばしぃっ!!


見えない衝撃が空気を揺らし、オークの回転がぴたりと止まる。


……静止。


「……止まった……?」


私が呟くと、リズが満足げに頷いた。


「ええ。魔力が完全に流れています。もう暴れません」


ネージュが大きく手を挙げて跳ねる。


「ティアナすごーい!! かっこよかった!!」


「よ、よかったぁ……!」


私が膝に手をついて息をついた──その時。


……ぼこん。


残りの氷塊のひとつから、いや〜な音が響いた。


全員の視線が、ゆっくりとそちらへ吸い寄せられる。


リズが眉を上げ、淡々と告げた。


「ティアナ様。

──あと四匹、います」


「ひぃぃ!!!?」


「うわぁ!」


「「「「ぶもぉおおおおお!!」」」」


残り四匹が、まさかの同時飛び出し。


(ちょっ……これ、どれ狙えばいいの!?)


迷っている私へ、四つの影が一斉に襲いかかってくる。


「ティアナ様っ!」


レーヴェが瞬時に前へ飛び出し、私を庇ったその時──


「ガァッ!!」


白い影が横を駆け抜けた。

ネージュだ。いつの間にか本来の白虎の姿に戻っている。


その咆哮が、空気を震わせた。


一瞬で場の空気が変わる。


空中で好き放題に飛んでいた四匹のオークが──


ぴたり。


まるで時が止まったかのように硬直する。


「えっ……?」


オークたちはネージュの青い瞳を見つめたまま、ぶるぶると震え上がった。


(……威圧!? 魔法じゃなくて!?)


ネージュがゆっくりと一歩前へ進む。


白い毛並みが逆立ち、喉の奥で低い唸り声が響く。


「…………ティアナに、怪我をさせたら──」


獣の声。


地面を這うような、逃がさないと宣告する音。


「──ゆるさないよ?」


その一言で、オークたちは見事に縮こまった。


「ぶもぉ……(すみません……)」 「ぶも、ぶも……(もうしません……)」 「ぶもっ!?(命だけは……)」 「ぶもー……(許して……)」


……鳴き声の意味は完全に私の脳内補完だ。


「えっ……なんでこんなに大人しくなるの?

魔法とか、使ってないよね!? 威圧だけで!?」


私が叫ぶと、リズが涼しい声で答えた。


「白虎は“王”です。

魔獣の中には、本能的に逆らえなくなる種も多いのですよ」


「えっ……そういう生態あるの……?」


レーヴェも苦笑を漏らす。


「ネージュ様ほどの強さなら、魔獣から見れば“天敵”でしょうね」


エレーネさんは両手を胸の前に組んだまま固まっている。


「そ、そんな……魔法抜きで……あの圧を……?」


ネージュは尻尾をぴこぴこ揺らしながら振り返った。


「ティアナ、だいじょうぶ?

このこたち、悪い子だったから、ちょっとだけ叱っちゃった」


「ちょっとどころじゃなかったよね!?

完全にラスボスの風格だったよね!?」


ネージュはにっこり笑い、人型に戻る。

可愛い顔なのに、さっきの威圧を思い出して背筋が寒い。


一方のオーク四匹は……


……まるで“しつけられた大型犬”みたいに地面に座り込み、ぷるぷる震えていた。


「ぶも……(もうしません……)」


近づくと、揃って視線を逸らす。


(……ネージュ、強すぎる……)


リズがようやく息を吐く。


「これで全てのオークがおとなしくなりましたね、ティアナ様」


「ほんとに……助かったぁ……!」


そこでオリバーさんが静かに言った。


「では、おとなしい今のうちに……下処理を始めましょう」


全員が慌てて頷いた。


ステラは震えながら呟く。


「ネージュ様……すごすぎます……」


レーヴェも大きく息を吐いた。


「……命拾いしましたね……」


ネージュは胸を張ってドヤ顔で宣言する。


「ふふん。まかせてね!

ネージュが、ティアナのこと……ぜったい守るから!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ