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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
聖霊の住む森

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323/349

322.秘密の領主


「はじめまして、ジルティアーナ様。

 わたくしは、シルヴィアと申します」


フードを取った彼女が微笑む。

その笑みは、まるで陽を受けて咲くソレーユの花のようだった。


堂々としたシルヴィア様の姿とは対照的に、

後ろに控える二人の従者は、わずかに不安げな面持ちでこちらを見ている。


私は静かに姿勢を正した。

胸の前で両手を揃え、ゆるやかに一礼する。

顔を上げ、顎をわずかに引いて──言葉を紡ぐ。


「お初にお目にかかります。

 わたくしはジルティアーナ・ヴィリスアーズと申します。

 ようこそ、クリスディアへ。

 この地にてお迎えできますこと、光栄に存じます」


見つめ合う私たち。

それだけで、互いの立場と誠意が通じ合ったような気がした。


やがて、シルヴィア様が可憐に笑った。

その笑いは春風のように柔らかく、気品を損なうことなく場の空気をほどく。


「シルヴィア様……」


咎めるように姫の名を呼びながら、エステルさんも静かにフードを外した。


そこから現れたのは、やはり獣の耳。

色は灰銀であるものの、シルヴィア様と同じく細く尖った形をしていた。

耳の先がわずかに揺れ、光を受けて柔らかく輝く。


「さすがでいらっしゃいますね、ジルティアーナ様。

 すでに、わたくしたちの正体にお気づきだったのでしょう?」


いたずらっぽく笑うシルヴィア様に対し、護衛の青年が目を丸くする。


「えっ……!? ──だから、姫の耳を見ても驚かなかったのか」


そう言いながら、彼もためらいがちにフードを下ろした。

そこから現れたのは、艶やかな黒の獣の耳。

鋭い印象の彼にしては意外な、少し丸みを帯びた形で、

その柔らかい動きが場の緊張をほんの少しやわらげた。


「ジルティアーナ様……?」


ぽつりと自分の名を呼ぶ声。

そちらを見ると──あ、忘れてた。


ネロくんが、呆然と私を見ていた。


「ジルティアーナ・ヴィリスアーズって……クリスディアの領主の……?

 ティアナさんって、ジルティアーナ様の専属じゃなかったのか?」


「えっ!?」


ネロくんの言葉に、私ではなくシルヴィア様が驚きの声をあげた。


「ああ、そういえば……フレイヤ嬢が言ってたな。

 “ティアナ様はすごいのよ! 私と違ってちゃんとしたお貴族様なのに、

 普段は平民や下級貴族のフリをして街に出てるんですって”って」


黒い耳の青年が頭をかきながら言う。

その言葉に、シルヴィア様とエステルさんは一瞬、目を見合わせた。


──そして、静寂。


先に口を開いたのはエステルさんだった。


「……ということは、ジルティアーナ様はご身分を隠して働いておられたのに、

 シルヴィア様が……今、うっかりそれをお明かしになってしまった、ということでございますね」


視線が一斉に私へ集まる。


「ええ、まあ……そういうことになりますね」


苦笑いを浮かべながら答えると──


「ご……ごめんなさいぃぃぃぃ!」

シルヴィア様の悲鳴のような声が、応接室に響き渡った。


「ど、どうしましょう……わたくしったら、なんてことを……っ!」

顔を真っ赤にして狼狽えるシルヴィア様。

普段、平民のフリをしている私が言うのもなんだが……うん、やっぱりこの人、王族っぽくない。


「大丈夫ですよ。幸い、彼はとても信頼できる優秀な従業員です」


みんなの視線が私に集中した。その中には、ネロくんの視線もある。


成人し、今では後輩の指導も任され、上客の応対も一人でこなすネロくん。

最近はすっかり落ち着いたと思っていたのに、そんな彼が珍しく慌てる様子に、

思わず、ふふっと笑ってしまった。


「それにネロくんは従業員である前に、以前からの友人なんです」


私が笑顔でそう言うと、ネロくんはいつかのように両手で顔を覆う。


「いやいやいや……無理だから!

 領主様と“友達”なんて、恐れ多すぎて胃が痛くなるって!」


「ふふっ、相変わらずね」

つい吹き出してしまう。

そんなやり取りに、シルヴィア様が小さく微笑んだ。

その笑みはどこか安堵を含んでいて、

さっきまでの緊張が、少しだけやわらいだ気がした。


──その時だった。


コンコンッ、と軽いノックが響く。

返事をするより早く、扉が勢いよく開かれた。


「シルヴィア様っ!!」


飛び込んできたのは、ミランダお姉様だった。




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