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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
聖霊の住む森

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309.祈りと、おにぎり?


『“見守る者”は時に光となり、時に影となって道を照らす。

あなたの想いが続く限り、この森もまた輝き続けるでしょう』


その声を聞きながら、私は静かに頭を垂れた。

胸の奥に、確かにあたたかな光が宿るのを感じる。


『ティアナ。

あなたの中にある優しさは、誰かを導くだけでなく、時に迷いを抱える者の灯となるでしょう。

けれど──忘れないでください。

光があるところには、必ず影も生まれるということを』


「……影、ですか?」


顔を上げると、泉の光がわずかに揺らめいた。

聖霊の輪郭はやわらかく滲み、まるで森そのものが語っているかのようだ。


『光が強ければ、影もまた濃くなる。

それでも歩みを止めない心が、世界を癒すのです。

あなたがそうであるように』


その穏やかな声が、泉を包み込む風に溶けていった。

私は胸の前で手を組み、そっと目を閉じる。

心の奥に、ひとつの祈りが芽吹くのを感じた。


──この森が、もう二度と泣かないように。

──この光が、誰かの心を照らし続けるように。


ルナが小さく鳴き、ステラの腕の中で尻尾を揺らす。

ネージュがふっと微笑み、光の中で金糸のような毛並みを輝かせた。


『ネージュ』


ぴくりと耳が動き、彼女は青い海のような瞳で聖霊様を見上げる。


『どうか──ティアナのことを、これからも守ってくださいね』


その声がやわらかく消えると、泉を包んでいた光が静かに薄れていく。

淡い輝きの残滓が水面を漂い、やがてひとすじの風となって森の奥へと流れていった。


ネージュはその風を見送りながら、そっと瞼を伏せる。

「もちろん。

ティアナがどんな道を選んでも、ティアナのことはネージュが守るよ!」


その声は泉の奥に響くように澄んでいて、

金糸の毛並みが光を受け、まるで聖霊から授かった証のようにきらめいた。


ステラはそっとルナを抱きしめる。

ルナはその腕の中で尻尾をふるふると揺らし、泉の水面をのぞきこむ。

その瞳に映る光が、ほんの少し──以前よりも強く、やさしく瞬いていた。


「……聖霊様は、行ってしまわれたのね」

私が呟くと、ネージュが優しく首を振る。


「ううん、眠りについただけだよ。

それに、いつだって聖霊はこの森を見てるよ」


その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

森を包む風が頬を撫で、木々の葉擦れがまるで囁きのように耳をくすぐった。


「あっ!」


「どうしたんですか? ティアナ様?」


思わず声をあげると、ステラが小首をかしげる。


「しまった……聖霊様が眠る前に、お伺いしておくべきだったなぁと思って」


「何を?」


ネージュがこてんと首を傾げる。


「いや、大したことじゃないんだけどね。聖霊様にお礼を持ってきてたの」


私はマジックバッグをあさり、三つの包みを取り出した。


「それ、なぁに?」

ネージュが興味津々に目を輝かせる。


そんな様子にくすりと笑いながら、私は答えた。

「ネージュたち、食べるの大好きでしょ?

“聖霊様”ももしかしたら食べ物を喜んでくれるかなと思って、

おにぎりとサンドウィッチ、それとナポルケーキを持ってきたんだけど……また次の機会でいっか」


──そのときだった。


泉の底から、淡い光がひとすじ、空へと昇った。


驚いてそちらに視線を向けると、その光の中から、先ほど“行ってしまった”と思っていた聖霊様が現れた。


『食べ物を頂けると聞こえました!』


……うん。幻想的な雰囲気が台無しだ。


泉の上に現れた聖霊様は、先ほどよりも少し“実体感”を帯びていた。

光の衣がゆらめき、頬にはうっすらと紅が差しているようにも見える。


「せ、聖霊様……戻られたんですか?」

慌てて立ち上がる私に、聖霊様は胸の前で両手を合わせ、きらきらとした目でこちらを見つめてきた。


『ええ。少し眠ろうと思っていたのですが──“食べ物”という言葉が聞こえましたので』


「……やっぱり食べ物につられて!?」

思わずずっこけそうになる私。

ステラはぽかんと口を開けた。


「聖霊様って、食べるんですね……」

ステラがぽつりと呟く。


『はいっ、もちろん!

“味わう”という行為には、祈りと同じ力が宿りますから!』


誇らしげに言う聖霊様。

いや、神々しさが吹き飛ぶレベルでテンションが高い。

私はおにぎりの包みを見下ろし、なんとなく複雑な気持ちになった。


……なんか、初めてオブシディアンにご飯を食べさせたときのことを思い出すなぁ。


「……えっと、どれをお召し上がりになります?」


『先ほど、“おにぎり”と聞こえました!

以前、“おにぎりはとても美味い”と聞いたので、ぜひ食べてみたかったのです!』




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