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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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302/349

301.導かれし明日へ


「森に……洞窟があるって?」


思わず声を張り上げたのはダンさんだった。彼は信じられないというようにロベールさんを振り返ったが、彼も小さく首を横に振るばかりだった。


「俺も聞いたことがない。あの湖の奥にそんな場所があるなんて……」

低くつぶやく声には、長年冒険者として歩んできた者の確信がにじむ。

「子どもの頃から何度も森に足を踏み入れたが、洞窟なんて一度も目にしなかった。ましてやジャッカロープの話なんて、噂すらなかった」


「そうだ」

ダンさんも腕を組み、苦々しい顔でうなずいた。

「ステラが“出会った”と聞かされたときも、正直、見間違いじゃないかと思ったくらいだ」


頭をかき、ばつの悪そうな笑みを浮かべる。

「信じてなかったわけじゃねえ。ただ、それほど珍しいんだ。俺もロベールも長く冒険者をやってきたが、実物を見たことは一度もなかった。それが、まさかこんな近くにいるとはな……」


「本当にそうですね」

リズが静かに頷いた。

「私はアカデミーで剥製を見たことはありましたが、生きている姿をこの目で見られるとは思いませんでした」


そこで言葉が途切れ、部屋に一瞬の沈黙が落ちる。


「そして、あの薬……」


ステラの静かな声が場を満たした。そのひと言に、全員の視線が彼女に集まる。


「ルナが分けてくれた角を使って調合した薬が、こんなにも効くなんて。幻獣と呼ばれる存在は、伝承の中だけではなかった……。

私はそう実感しました」


ステラの瞳は確信に満ちており、ただの噂や偶然ではないことを物語っていた。


「……あの薬がなければ、私は今ここにいないかもしれません」

エレーネさんが口を開いた。微笑んではいるものの、その表情には深い感謝と安堵が浮かんでいる。

「薬を飲んだ瞬間、信じられないくらい体が楽になって……。あの薬のおかげで、私はこうして家族のそばにいられる。奇跡としか言いようがありません」


そう言いながら、彼女はそっと夫の脚へ視線を落とした。

ロベールさん自身も一瞬目を伏せ、右脚へ手をやる。

そこには、かつて失われていたはずの脚がある。

布越しに確かめるように触れると、それが幻ではなく確かな現実だと実感したのか、短く息を吐いた。


「幻獣の力……そして、湖の奥の洞窟。どちらも現実だとしたら、放っておくべきではない。

エレーネの回復は誤魔化しようがあるとしても……俺の脚はそうはいかない。俺の怪我は、この街の誰もが知っている事実だ」


「……だな」

ダンさんが頷き、唇を引き結ぶ。

「お前の脚が治ったと知れたら、誰だってただ事じゃないと思うだろう。だからこそ、確かめなきゃならねえ」


「その通りです」

リズも言葉を添えた。

「奇跡は尊いものですが、同時に人の欲を引き寄せるものでもあります。この力が悪意ある者の目にとまれば、必ず争いの種になるでしょう」


部屋の空気が、さらに張り詰めていく。


ステラは両手を膝に重ね、真剣な面持ちで顔を上げた。

「ルナが導いてくれた道です。偶然ではないはずです。今度こそ……確かめに行きましょう」


誰も異を唱えなかった。

静まり返ったこの空間が現実から遠ざかり、未知の世界の予兆のように思えた。


──あの森の湖の奥、誰も知らない洞窟へ。


奇跡のような力。その源にあるもの。

ステラが出会ったというルナ、そして聖霊の存在。

私たちは知らなければならない。


なにより、その力が──悪意に利用されることのないように。



「明日、森へ行ってみましょう」


静けさを破ったのは、レーヴェのはっきりとした声だった。

落ち着いた口調ではあったが、その目は確固たる決意に燃えていた。


「ルナはきっと、ステラに託したんだ。だから確かめなきゃならない」


その言葉に、皆が頷いた。視線が交わり、無言のうちに決意を分かち合う。


私は胸の奥で、小さく息を整える。


──明日、森へ。


未知なる洞窟の奥に何が待ち受けているのか。

胸の高鳴りと、不安の影とが、静かにせめぎ合っていた。





ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回は、突然の瀕死になるエレーネからの急回復に対し、登場時から欠損してたロベールの脚がやっと回復という奇跡を通して、存在が忘れられてそうなルナも登場しました。


次回からは新章、その力の源を確かめるために「湖の奥の洞窟」という新たな舞台が示されました。


次回からは、その謎に迫っていきます。そこに何が眠っているのか、そしてルナや聖霊の真実に近づけるのか……どうぞ楽しみにしていただければ嬉しいです。


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