表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

298/349

297.再び抱きしめ合える日


「お前……それは──っ!?」


「父ちゃん! 脚が……! なんで? 治ったの!?」


ダンさんの驚愕の声に、ルトくんの弾むような声が重なった。


「ステラがね、私を助けるために薬の素材を採ってきてくれて……そしてティアナ様が、その薬を作ってくださったの」


エレーネさんは膝を折り、ルトくんと同じ高さで視線を合わせる。

やわらかな笑みを浮かべながら、そっと言葉を重ねた。


「その薬を飲んだらね、私はこうして元気になれたし……お父さんの脚も治ってしまったの」


ルトくんの瞳がぱっと大きく見開かれる。

そこに宿った光は、驚きと喜びでいっそう強くきらめいた。


「父ちゃんっ!」


小さな体で勢いよく飛び込むルトくん。

ロベールさんは腕に抱いていたエマちゃんをエレーネさんに預け、両腕でしっかりとルトくんを受け止めた。


「ルト……」

声は震え、瞳には涙が滲んでいる。

腰に顔を埋めるルトくんもまた、嗚咽をこらえきれずに泣いていた。


「もう……もう、杖がなくても立てるんだね! 一緒に外で遊べる? 剣の練習も、ちゃんと一緒に出来るよね!?」


その言葉に、ロベールさんの喉が大きく詰まった。

長い間、諦めていた願い。叶えてやれなかった約束。

それが今、息子の笑顔とともに目の前でよみがえっている。


「……ああ……遊ぼうな、ルト。剣の練習も……たくさんやろうなっ!」


その様子に、ネロくんが目尻を腕でぬぐった。

「……よかった……っ」


ダンさんがそんなネロくんの頭をぐしゃぐしゃっと撫で、鼻を鳴らす。

「良かったな……本当に……っ!」


ロベールさんは二人に笑顔で頷くと、片方の腕をネロくんへと伸ばした。


そのまま、ロベールさんの胸に収まったネロくん。


「えっ! ちょっと……っ!」

驚き、体を起こそうとしたネロくんだったが、ルトくんとまとめてロベールさんがぎゅっと抱きしめた。


「……もう……二度と……こうして自分の脚で立つことは……お前たちを両腕で抱きしめることは、ないと思ってた」


表情はネロくんの肩に顔を埋めているため見えない。

だけど、その声は震えていた。

そんな父親の様子に、ネロくんは抵抗をやめ、そっと背中に腕を回した。


エレーネさんはそんな三人の姿を見つめながら、胸にエマちゃんを抱き寄せた。

生まれたばかりの娘は、何も分からぬまま小さな手をぎゅっと握りしめ、かすかに声を上げる。

その泣き声が、家族の胸をさらに強く震わせた。


「……良かったわね」

小さく、けれど確かな声でエレーネさんはつぶやいた。

こらえきれない涙が頬を伝い、エマちゃんの柔らかな産毛に落ちていく。


その姿に、ステラがそっと近づいた。

「エレーネさん……」

寄り添うように肩へと手を添えると、エレーネさんは静かに微笑み返す。


「ありがとう、ステラ。あなたが勇気を出してくれたから……こんな奇跡が起こったのよ」


そして、彼女は私たちにも顔を向け、深く頭を下げた。

「本当に……ありがとうございましたっ! この子たちに……ロベールさんと子どもたちにまた会えて……それだけでも十分なのに……彼の脚まで……っ」


言葉は涙に溶けて途切れた。

エマちゃんを抱きながら泣き崩れるエレーネさん。


私は一歩前に出て、静かに言葉を添えた。

「私はただ、薬を作っただけです。……けれど、本当にうれしい。こうして家族が笑顔でいられることが、一番だと思いますから」


その言葉に、場にいた皆の胸が温かく満たされた。

ネロくんもルトくんも、父の腕の中で顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。

だがその涙は悲しみではなく、再び得られた希望の輝きそのものだった。


やがて、ロベールさんはようやく腕の力を緩め、息子たちを見つめ直した。

「これからは……父ちゃんも、もっと頑張らなきゃな。脚が戻ってきたんだ。エマのためにも、ルトやネロのためにも……家族を守れる父親にならなきゃな」


涙に濡れた笑顔に、決意の光が宿る。

「剣を握れるなら、また兵団の最前線に立とう。もう裏方に甘んじはしない。俺のこの脚で……お前たちの未来を守る!」


その言葉は力強く、胸に響いた。


ダンさんが大きく息を吐き出す。

「まったく……泣かせやがって……俺まで泣きそうになるだろうがっ!」

そう言いながらも、目頭を赤くしているのは誰の目にも明らかだった。


そして──。

窓から吹き込む風が、家の中をやさしく撫でていく。

涙と笑顔が入り混じる空気の中には、確かに新しい明日へと続く希望が満ちていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ