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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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292.祈りと希望の調合


奥の部屋に移動し準備をしていると、ノックの音とともに扉が開き、リズが駆け込んできた。


「ティアナ様! ネロさんから聞きました。

何があったのですか?」


「リズ……これを」

私は両手で持った角を見せる。


彼女は一瞬、目を疑ったように見開き、すぐに息を詰めた。

「これは……まさか、ジャッカロープの角……? どうして……!」


「ステラが……聖霊とルナから託されたと言うの。これを煎じて飲ませれば、エレーネさんが助かるかもしれない」


リズが大きく息を呑んだ。

私自身も口にしながら、胸の奥が震えている。──信じたい、信じるしかない。


リズは角をまじまじと見つめ、それから真剣な表情で頷く。

「……分かりました。試しましょう」


私はステラと視線を交わす。

小さな拳を握りしめたステラの瞳は揺らがず、まっすぐに光を宿していた。

その姿に胸が熱くなり、息が詰まるほどの責任を感じた。


──こうして、奇跡を呼ぶための準備が静かに始まった。





マジックコンロに火を灯す。

清らかな水を鍋に注ぐ音が、静まり返った部屋に澄んだ調べのように響いた。

その水は、ステラが持ち帰ったもの──聖霊の眠る洞窟から汲んだ泉の水。

ただ注ぐだけの所作なのに、祈りを込めた儀式の一端のように感じられる。


「ティアナ様……角を」

リズの声に促され、私はテーブルに置かれた角をもう一度見下ろした。


淡い光が宿り、触れれば掌に心臓の鼓動のような温もりが伝わってくる。

その温もりは、ステラとルナの想いそのもの──。

これはただの薬ではない。命を繋ぎ、未来をつなぐための奇跡。


私は息を整え、静かに呟いた。


「──【解析】」


見慣れた半透明のウィンドウが、目の前に浮かび上がる。



-----------------------------------------------------------------------



【絆の証】

ステラの想いが込められた、ジャッカロープ・ルナの角。


(効果)

対象者を癒す効力がある


(品質)


-----------------------------------------------------------------------



ただの素材を示すはずの表示は、まるで想いの重みを文字にしたかのようだった。


胸の奥で感謝と祈りを捧げ、私はウィンドウを閉じる。


「……ティアナさま?」

ステラが不安そうに赤い瞳を揺らしながら、私を見ていた。


安心させるように微笑み、ステラの手を取る。


「ありがとう。きっとこれで──ステラとルナのおかげでエレーネさんは助かるわ」


そして、決意を胸に角を見つめた。


「ここからは私がやるわ」


慎重に角を台の上に置き、鋭い刃で根元を切り取る。

硬いはずの角が、不思議なほど滑らかに断たれ、淡い光の粉が舞い上がった。


部屋にいた全員が息を呑む。


「……きれい……」

舞い上がった光を見つめ、ステラが思わず呟いた。


切り取った角を小さく砕き、鍋へ入れる。

初めて見る角、初めて扱う素材なのに……スキルの効果なのか自然と手が動いた。


熱された水に触れた瞬間、ぱぁっと金色の光が弾けた。


まるで夜空の星を閉じ込めたかのような輝きが水面に広がり、

ほのかに花のような甘い香りが部屋いっぱいに満ちていく。


光は壁を照らし、影を揺らめかせ、まるでこの部屋そのものが祈りの場になったようだった。


──失敗は許されない。必ず、成功させる。


胸の奥で強くそう誓いながら、私は鍋を見つめた。


黄金の光はしばらくのあいだ水面で瞬き、やがて静かに沈んでいった。

鍋の中には、澄み切った金色の液体があった。


「……できた」

思わず呟いた私の声に、ステラが小さく頷いた。

その瞳には涙が浮かんでいた。


リズは真剣な表情のまま、鍋を覗き込む。


「香りも輝きも……ただの薬とはまるで違います。まさに、奇跡の調合です」


清浄な器を並べ、慎重に薬液を汲み取っていく。


器に注がれるたび、液体はかすかに光を放ち、まるで命そのものを閉じ込めたようだった。


ステラはその光景を食い入るように見つめ、ぎゅっと胸の前で両手を合わせた。

「……どうか、エレーネさんを助けて……っ!」


その祈りが部屋を包み込み、私の胸にも力を与えてくれる。


私は完成した器を手に取り、改めて心に誓った。

──必ず、エレーネさんを救う。


ステラと力強く頷き合い、私は声を張った。

「さあ、行きましょう。エレーネさんのもとへ──」


黄金の薬を手に、私たちは決意を胸に部屋を後にした。




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