27.マジック鞄と食材集め
──翌朝。
宿で朝食を頂いたあと、再び市場にきていた。
うん。朝食もおいしかった!
パンはいつも通りだったが、スープはいつもの塩スープではなく……なんと、ミネストローネだったのだ!
いやぁ、本当に感動したわ。もちろん温かくて、スープが美味しかったおかげか、パンは固かったけど美味しく食べれた。……いつもと比べては、だけれども。
あと、ほうれん草? のココットが提供された。
炒めたほうれん草と、またも貴重なベーコン。そこへ半熟卵とチーズ。
上にかかっているチーズの香りにうっとりしながら、そこにスプーンを入れると卵がとろりと出てきて、とても美味しかった。
マイカちゃんパパ、素晴らしい……!
◆
「ここでは、小麦粉やお砂糖を買えるよ!」
マイカちゃんの案内で色んなお店をまわる。日本とは違い、スーパーがある訳では無いので、それぞれの食材をどこで買えばいいのか分かりづらい。
マイカちゃんが居てくれて助かった……!
最初に行ったお店だけで、薄力粉に砂糖に水を買った。
しまった。この店は、最後にすれば良かったかも。
水に粉物なんて、重いじゃん!
リズが持ってくれるにしても気が引ける……と思っていると。
リズが「ちょっと嵩張りますね」と言ったかと思うと、腰に着けていた小さなバッグの蓋を開けた。
いやいや、どうみても無理が……と思ってるとリズがバッグの口を引っ張ると、にゅーんと口が大きく伸びて、薄力粉や水を楽々と飲み込んでしまった。
何それ!?
そして大量に物を入れたはずなのにバッグの大きさは変わってないし、バッグも下がっておらず重さも感じられない。
「いいなー! 凄いね、リズお姉ちゃん。マジック鞄持ってるんだ!?」
「マジック鞄??」
「この鞄には空間魔法がかかってるので、容量の限界はありますが見た目の何倍も物が入りますし、その重さも感じないんです」
ほおおお! 本当にファンタジーな世界だわ!
あ、リズ。という呼び方だが、私がリズと呼んだせいで、マイカちゃんやマイカちゃんパパ・ママにもリズさんとして認識されてしまった……。
いいのかなぁ……? と思ったが、リズが了承してるから良しとしよう。
マイカちゃんに案内してもらい、欲しかった材料をどんどん買っていく。
平民には貴重と言われているベーコンやソーセージも、生肉ではなく領主から許可が出て加工された物は、お金を出せば買えるらしいが……かなり高価みたいだ。
マジック鞄があるので、多めに買っておく。
「お姉ちゃん達……お金持ちなんだね」
おかげでマイカちゃんには、こう言われてしまった。
そして、最後に寄ったお店は……
「あれ? あんたたち……」
「こんにちは! 昨日のナポルとペシェルとっても美味しかったです」
「ママもキーウ美味しかったって言ってくれたよ!」
昨日の果物屋さんだ。
おばさんは昨日と同じ笑顔で、「それは良かった」と笑ってくれた。
「あんたたち、マイカの所に泊まったのかい?」
「はい、そうなんです。宿は綺麗だし、何よりマイカちゃんのパパさんの料理に感動しました」
「オリバーは、このルセルで一番の料理人だからね」
そう言われ、得意げに笑うマイカちゃん。かわいいなぁ。パパさんはオリバーさんという名前らしい。
「おばさん。今日もナポルとペシェル。
あとレモニを下さい。デザートを作りたくて……」
「お姉ちゃんデザートも作れるの!?」
「ええ!?あんたがデザートを作るんかい!?」
マイカちゃんと、おばさんに同時に驚かれた。
……え、なんで?? と思っていると
「【調理】スキルがあれば……とりあえず料理を作る事はできるけど、デザートは難しいから『熟練度をあげないとなかなか成功しない』ってお父さんが言ってたよ」
えー! そうなの!?
じゃあ、私にデザートは作れないのかしら?
と、焦って「ステータス!」と自分のステータスを出し、説明文の【調理】を長押しした。
---------------------------------------------------------------------
【調理】
洗う、切るなど整理して、さらに煮る、焼く、炒めるなどし、食べやすく味もよくする事ができる。
(備考)
和食・洋食・中華をはじめ、様々な国の料理が作れる。肉・魚・野菜・果物・卵を扱え、スイーツ・デザートも作れる。
---------------------------------------------------------------------
ふぅ……良かったぁ。デザートも作れるみたい。
それにしても、和洋中とは……たぶん私オリジナル説明だろうなぁ。
そう思いながらステータスを閉じた。
「デザートも大丈夫みたい」
「ええー! ご飯作った後にデザートも作れるなんて、凄いんだね」
「あんたが……【調理】スキルをもってるなんて……」
マイカちゃんがこのように反応した理由。
なんでもスキルを使うと、魔力を使うらしい。
……そうなんだ? 何度か【解析】使ってるし、【翻訳】【前世の記憶】は常に発動されているようだから、意識したことがなかった……。
なんでもマイカちゃん、というかマイカパパによると……それが慣れている熟練度が高い料理や、得意ジャンルの料理作りなら、あまり魔力を使わない。
だが、慣れてなかったり、専門外の料理を作るとゴッソリ魔力が必要な上に、失敗する事が多いらしい。
なので、果物の丸かじりや切っただけ。のデザートは食べた事あるが、作られたデザートというものを、あまり食べた事ないとマイカちゃんが教えてくれた。
そして、おばさんが驚いていた理由は……
「【調理】スキルは生産系の、平民向けのスキルだからね。……あ! 気を悪くしたらごめんよ」
と、マイカちゃんがリズと話してる隙に、マイカちゃんには聞こえないよう小声で教えてくれた。
【調理】どころか本当は【ロストスキル】だったんだけどね。
と、思いながら「気にしないで下さい」と、笑顔で返した。
「そろそろ厨房をお父さんが使い終わる頃だから、早く帰ろう!」
と、ソワソワするマイカちゃん。
それを見ておばさんが苦笑した。
「マイカ、お姉ちゃんが作ったデザートをねだったりしたらダメだよ?
デザートってのは高級品の砂糖を沢山使うし、何よりお父さんが言っていたようにデザートを作れる【料理人】は少ないからね。
デザートを作れる人が少ない分、その価値は高い。お貴族様だって美味しいデザートはなかなか食べれないらしいからね」
「……そうだよね……」
また昨日のように、しょんぼりとなってしまったマイカちゃん。
「大丈夫だよ。マイカちゃんも一緒に食べよ!
マイカちゃんのおかげで、たくさん良い材料が買えたんだもん」
「ほんと!? やった──!!」
「ええー。あんた大丈夫かい?」
「はい。失敗しても良いように材料は、たくさん買ったので。もし上手に出来たら、おばさんにも持ってきていいですか?」
「いや、砂糖は高かったろう? 私は何もしてないし……」
顔の前で手を振るおばさんに、私は言う。
「おばさん。改めて自己紹介させてください。
私は……ティアナと言います。
おばさんが昨日、ちゃんと教えてくれたから、こうやって名乗れるんです」
マイカちゃんも居るから、貴族の話はしたくなくて、こう言った。
でも、ちゃんと言いたい事は伝わったようで、優しい顔でおばさんは笑った。
「そうかい……。それは良かった」
「おばさんの助言が……とても勇気がいる事だったとリズから聞きました。
ありがとうございました。
だからぜひ、おばさんが嫌じゃなかったらお礼をさせて下さい。失敗したらごめんなさい、ですけど……」
と言うと、また豪快にハッハッハと笑った。
「じゃあ、とっても期待して待ってるよ!
私はデザートなんて、食べた事ないから……本当は食べてみたかったんだよ」
そう言ったおばさんに別れを告げ、マイカちゃんちの宿へと帰った。
ファンタジー小説お馴染み、マジック鞄の登場めす。
次回、初めての【調理】
やっと、念願だった調理をはじめます。




