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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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271.甘い香りに包まれて


「よろしければ、お帰りの際にお弁当としておにぎりをご用意いたしますわ」


「えっ!?」

フレイヤ様が、まるで弓から放たれた矢のような勢いでこちらを振り向いた。


「おにぎりはあまり日持ちいたしませんので、当日中にお召し上がりいただく必要がありますが……チョコレートでしたら四日ほどは持ちます」


「本当ですの!?」

大きく見開いた瞳が、私とお姉様の間を何度も往復する。


「ええ……今夜はここにお泊まりになるのでしょう?」


「はい。帰るのは明日の朝です」


「でしたら、明日のご出発前にお作りしますわ。そのほうが炊き立てをお持ち帰りいただけますから」


お姉様が穏やかな笑みを浮かべ、ゆったりとした口調で告げる。


「……まあ! 帰りの馬車でおにぎりをいただけるなんて、最高の旅になりそうですわ」


フレイヤ様は両手を胸に当て、夢見るように目を細めた。


ヴィオレッタ様も口元を和らげ、

「それなら明日まで楽しみが続きますわね。……フレイヤ、おにぎりのために早起きしたりなさらないでね?」

と、軽く肩を揺らす。


お姉様が一瞬考えるように視線を落とし、

「具材は、先日おにぎり屋で人気だったものを中心にいたしましょう。……なにかリクエストはございますか?」

と尋ねると、フレイヤ様の顔がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます! 味はすべてお任せいたしますわ!」

弾む声に、甘い香りの残る部屋がふんわりと笑いに包まれる。


「良かった……。チョコレートが四日も持つなら、シルヴィア様にも味わっていただけますね」


「えっ!?」

まさかこの場で再び王族の名が出るとは思わず、私の口から驚きの声がこぼれた。


「……だって、こんなに美味しいもの、シルヴィア様にも召し上がっていただきたいですもの」

フレイヤ様が真剣な眼差しで言う。

「きっと驚かれますわ。私たちと同じように」


ヴィオレッタ様も頷き、

「ええ。ついさっき初めて口にしたばかりですが……この香りと口どけは忘れられません。シルヴィア様もきっとお気に召すはずですわ」


お姉様がくすりと笑みを浮かべ、

「ふふ、そうですわね。では詰め合わせをご用意いたしましょうか」

と提案すると、お二人は嬉しそうに頷いた。


そしてお姉様が私へ視線を向ける。

「干しレザブとの組み合わせや、ナッツをまぶしたものも少しずつ……ティアナ、お願いできるかしら?」


「ええ、もちろんです。

オリバーたちと相談して色とりどりのチョコレートを用意いたしますので、楽しみにしていてください。

チョコレートだけでなく、クッキーなど日持ちする焼き菓子も添えましょう」


「本当に? よろしいのですか、ティアナ様?」

フレイヤ様の瞳がきらりと輝く。


「もちろん。ただし保存は四日ほどですから、なるべく早めにお渡しくださいませ」


「はい! 必ずシルヴィア様にお届けいたします!」

その声は張りがあり、まるで使命を帯びた騎士の宣誓のよう。

思わず私も口元を和ませた。──まさかチョコレートが、こんな形で王宮に渡ることになるとは。


するとヴィオレッタ様が、くすくす笑いながら付け加える。

「実は四日後、明日から三日後にシルヴィア様とお会いする予定なのです」


「まあ……! そうなのですね。私もお会いしたかったですわ」


「次の機会にはミランダも一緒に。それと……ジルティアーナ様も」


「え……私も、ですか?」

思いがけず自分の名を呼ばれ、私は息を呑んだ。


「ミランダの義理の妹君が、こんな素敵な方だとは知りませんでしたわ。きっとシルヴィア様も、お会いすればあなたのことを好きになられると思います」

ヴィオレッタ様が柔らかな眼差しを向けてくる。


「……そんな、恐れ多いことです」

私は背筋を伸ばしたが、胸の内は落ち着かず、鼓動が速まっていく。


「まあ、緊張なさらなくてもよろしいのよ」

ヴィオレッタ様が優しく笑い、

「シルヴィア様はとても穏やかで、誰にでも分け隔てなく接してくださる方ですの。けれど、気に入られた方には特に温かいの」


「ええ、だからきっとティアナ様ともすぐに打ち解けられますわ」

フレイヤ様が頷きながらカップを置く。

「……そうなれば、私たち五人でおにぎりを囲む日が来るかもしれませんね」


「おにぎり……ですか?」

私が聞き返すと、三人は声をそろえてくすくす笑った。


「ではその時は、今日のチョコレートも並べましょう」

お姉様が楽しげに言う。

「甘いものとしょっぱいもの、両方揃えば、きっと殿下も喜ばれるはずですわ」


私は小さく頷きながらも、心の奥でそっと深呼吸する。

──まさか自分が、王族と直接顔を合わせる日が来るかもしれないなんて。


不安と期待が交錯する中、頭の片隅ではすでに、どんなチョコレートを詰め合わせるかの構想が静かに膨らみ始めていた。




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