表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/349

260.まだ見ぬ、似てる人


驚く私を見て、ミランダお姉様はふっと笑みを浮かべた。


「似てるって、見た目のことじゃないのよ」


ああ、なるほど。

……って、見た目じゃないなら、どこが似ているというの?


アルベルト殿下について、私が知っていることは、まだほんのわずかしかない。

その限られた情報の中で、自分と共通点があるとは、正直、思えなかった。


私が首を傾げていると、会話を聞いていたフレイヤ様が、ぱんっと手を打って明るく声を上げた。


「なんとなく、わかる気がします! アルベルト様がシルヴィア様をとても大切にされていたように……ジルティアーナ様も、ミランダ様のことを深く想っていらっしゃいますよね」


その真っすぐな言葉に、ミランダお姉様は一瞬だけ目を見開いた。

その様子に背を押されるように、私は胸を張り、大きく頷く。


「はい! 私、お姉様のことが大好きです。お姉様を傷つける人は、誰であろうと絶対に許しません!」


「な、なにを……! ヴィオレッタ様たちの前で、そんな恥ずかしいこと言わないで!」


顔を真っ赤にしながら身を縮めるお姉様を、ヴィオレッタ様とフレイヤ様はあたたかい眼差しで見つめていた。


「本当に……フレイヤの言うとおりね。アルベルト様もジルティアーナ様も、ご自分のこと以上に、姉君や妹君が傷つけられることに強く心を痛める方たちだわ」


やわらかく微笑みながらそう言うヴィオレッタ様の声に、ミランダお姉様は気恥ずかしそうに視線を逸らした。


「それは、まあ……否定はしませんけど。私が“似てる”って言ったのは、そういうことじゃなくて」


ヴィオレッタ様は頬に手を添え、少し考えるような素振りを見せたあと、「あっ」と声を上げる。


「だったら……実年齢よりも、ずっと年上に見えるところかしら?」


思いがけない言葉に、私は驚いてヴィオレッタ様を見つめた。

彼女はにこりと笑って、言葉を続ける。


「ふたりとも、責任ある立場にいらっしゃるせいかしら。とても落ち着いていて、しっかりしているから、話していると年下だってことをつい忘れてしまうの」


「わかります、それ……!」


すぐにフレイヤ様が頷いた。


「アルベルト様とは同い年なんですけど、話していると、一回りくらい上の方と接しているような気分になるんです。落ち着きとか、威厳とか……そういう雰囲気があって」


「ジルティアーナ様もそうよね」

ヴィオレッタ様が、やさしく私を見ながら言った。


「年齢だけで見れば、私たちよりずっと若いはずなのに、冷静で、場を俯瞰できる余裕がある。そんなところが、きっと“似ている”のね」


「それは……」


言い淀みながら、私は心の中で静かに息を吐いた。


私がそう思われるのは、たぶん、精神年齢が高いからだ。

元いた世界での私は二十九歳だった。


ジルティアーナとして生き始めたころは、十五歳という若い肉体に引っ張られ、感情が昂りやすくなり、思春期特有の情緒に振り回されて涙を流すことも多かった。正直、戸惑ってばかりだった。


でも、あれからもうすぐ五年が経つ。

ジルティアーナの体も十九歳を迎え、まもなく二十歳になる。


それが肉体の成長によるものなのか、異世界の生活に慣れたからなのかはわからない。

けれど、自分でも以前よりずっと落ち着いたと感じている。


……とはいえ、「精神年齢は三十オーバーですから!」などと明かせるはずもなく、私は黙って苦笑を浮かべるしかなかった。


それにしても――

精神年齢三十超えの“おばさん”な私と似ていると言われるアルベルト殿下とは、いったいどんな方なのだろう。


ますます興味が湧いてきた。


そんなとき――


ぐぅぅぅ~~。


部屋に、遠慮のない音が響き渡った。


そちらを振り向くと、「す、すみません……」と照れ笑いを浮かべるフレイヤ様がいた。


その可愛らしい姿に思わず笑みがこぼれ、私は時計に目を落とす。


「もう、お昼を過ぎてしまいましたね。ちょうど“おにぎり屋”もピークを過ぎたころでしょう。急ぎましょうか」


「はいっ! 今ならおにぎり、四つはいけるかもしれません!」


勢いよく立ち上がるフレイヤ様に、ヴィオレッタ様が苦笑を浮かべながら肩をすくめた。


「まったく……あなたは変わらないわね」


「それがフレイヤ様の良さでしょう?」と、ミランダお姉様が微笑んだあと、ふと真剣な声で言った。


「では、これからはおふたりの身分は“平民の富豪の娘”ということでお願いしますね。

それと、ジルティアーナのことは“ティアナ”と呼んでください。街の人々は、彼女を“ジルティアーナの側近であり、下級貴族のティアナ”と思っていますので」


「はいっ、承知しました!」


フレイヤ様が元気よく答えたあと、ヴィオレッタ様がふと考えるような表情を見せた。


「……それなら、私の“ヴィオレッタ”も少々目立ちすぎるかしら」


少しの沈黙のあと、ぱっと顔を明るくして言う。


「皆さん、これからは私のことを“ヴィオラ”と呼んでください」


えええ、それは……なんだか慣れなさそう――そう言いかけた私を制するように、ヴィオラ様は微笑んだ。


「よろしくお願いいたしますね?」


そう言って、にっこりと――まるでそれ以外の選択肢はないとでも言いたげな、完璧な笑顔を浮かべたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ