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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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259.閉ざされた扉、繋がれた心


「アルベルト様は、ご自身のご家族──母君と、妹君であるシルヴィア様を、本当に大切に思っていらっしゃいました。よく『自分が卒業したあとに入学してくるシルヴィアが心配だ』と仰っていました」


「──でも、その心配は……」


結果を先に知っていた私は、思わず口を挟んでしまった。フレイヤ様は静かな視線を私に向け、そっと頷いてから言葉を続けた。


「ええ。その心配は、まさか『シルヴィア様の入学自体がなくなる』という、最悪の形で杞憂になってしまったのです」


「あれは、本当に……アルベルト様を見ているだけでも気の毒だったわ」


ミランダお姉様が眉間に皺を寄せ、ぽつりと呟く。ヴィオレッタ様も痛ましげな表情で、静かに頷いた。


「ただ耳の形が人間族と異なる──たったそれだけの理由で、シルヴィア様は陽の当たらない場所へ押し込められてしまったのです。王室の離宮に閉じこもる日々を……。けれど、あの明るい笑顔で、アカデミーに入学さえすれば、きっと変えられる。楽しい学園生活を送れると、アルベルト様は信じていました。けれど、『シルヴィアの入学がなくなった』と私たちに告げたアルベルト様のお顔は、本当にお辛そうでした」


ミランダお姉様が苛立ちを隠そうともせず、大きく息を吐いた。


「表向きには、シルヴィア様の入学取り消しの理由は……はっきりとは知らされなかったのよね」


フレイヤ様が目を伏せ、小さく首を振った。


「ですが、私たちには察しがつきました。おそらく王妃様のご意向だったのでしょう。『獣人の血が混じった子など王族の面汚しだ』──そんな言葉を何のためらいもなく口にできる方ですから」


「それなのに、表向きには『健康上の都合』とか、『母君の希望による辞退』などと説明されて……」


ミランダお姉様が皮肉を込めて言葉を引き継ぐ。


「本当に、言いたい放題のくせに建前だけはきっちり守るんだから。まったく、ずるいわ」


「ええ、本当に──ずるいです」


ヴィオレッタ様は指先をぎゅっと握りしめながら、悔しさをにじませるようにその言葉を繰り返した。


「何も知らない人々は、『ああ、入学を辞退したのね』と簡単に受け取ってしまう。その裏に、汚い大人たちの思惑と、誰かの涙や怒りが隠されているなんて想像もしない。さらに騒動の影響で婚約が白紙となった令嬢たちにとっては、『アカデミーに入学さえできないなんて、自分たちのほうがまだマシだ』と思わせる結果にもなりました」


ミランダお姉様の声には、静かな悔しさが滲んでいた。


そうか……。未婚の人も珍しくなくなった令和の日本にいた私には分かりにくい感覚だが、この世界では貴族令嬢が適齢期を過ぎて結婚していない場合、何か問題があるのではと見られる傾向がある。


まして、結婚なら独身の人も少なからずいるけれど、アカデミーに通っていないというのは、未婚以上に庇護される立場となってしまうのだ。


「アルベルト様は、シルヴィア様のアカデミー入学が消えたとき、ひどく憔悴していらっしゃいました。私たちが話しかければ微笑んでくださいますが、ただ黙って庭の木々を眺めるばかりで……」


フレイヤ様の言葉に、ミランダお姉様もそっと目を伏せる。


「それでも、アタマカール殿下やその決定を下した方々に対して、アルベルト様は一言の文句も仰いませんでしたね。怒りも悲しみも、誰にもぶつけることなく、ご自分の胸の内に閉じ込めて……」


私が何もできないと嘆く代わりに、できることを探そうとしているのは、きっと誰かにそうしてほしかったから。たとえば──あのときのアルベルト様のように。


そんな重苦しい空気の中、ヴィオレッタ様が穏やかな声音で口を開いた。


「そうでしたね。そして、あのとき……アルベルト様が『シルヴィアはアカデミーに入ったら、友人を作ることを楽しみにしていたのに』と仰ったことがきっかけで、シルヴィア様に私たちを紹介していただき、私たちはお友だちになったのです」


ヴィオレッタ様の言葉に、空気がふっと和らいだ。


「はいっ。私たちにとってもシルヴィア様との出会いは、本当に素敵なことでした」


フレイヤ様が微笑みながら続けると、ミランダお姉様も頷き、ようやく和やかな表情を浮かべた。


「あの時、アルベルト様が勇気を出して私たちを繋いでくださったからこそ、今があるのよね」


私も深く頷き、笑い合う三人を見つめた。いつかアルベルト殿下やシルヴィア王女にお会いして、自分の言葉で何か伝えられたら──そんな思いが、胸の奥で静かに芽生えていた。


そのとき、お姉様が私をじっと見つめてきた。


何だろう? と見返していると、お姉様がぽつりと呟くように言った。


「……ティアナとアルベルト様って、なんか似ているわね」


「えっ!?」


思わぬことを言われ、私は思わず声を上げてしまった。


「似ているって……アルベルト殿下って、とても素敵な、かっこいい方なんですよね?」


私がジルティアーナになってからは、だいぶ痩せて身だしなみに気を使い、しっかり化粧もするようになった。でも、どこか野暮ったいというか、いまいちぱっとしない。 そんな私が、容姿端麗と評判のアルベルト殿下と似ているとは──とても思えなかった。



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