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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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252/349

251.貴族じゃなかった彼女の話


ネイルの施術が終わり、道具を片付けているとき──


「この前、私の行きつけのお店の女将さんが教えてくれたんです。

クリスディアに、“おにぎり”っていう白くてもちもちした不思議な食べ物があるって……中にいろんな具材が入ってて、とっても美味しかったって!

ミランダは食べたことあります?」


わくわくした様子で尋ねてくるフレイヤ様に、ミランダお姉様はくすっと笑みをこぼしながら答えた。


「あら、さすがフレイヤ。もう“おにぎり”をご存じなのね」


「はいっ、名前だけ聞いてずっと気になってたんです!

白くてふわふわで、手で食べるっていうのも斬新で……今度ぜひ食べてみたいなって!」


そのはしゃぐような口ぶりに、思わず私も笑ってしまう。


「でしたら──昼食はおにぎりにしましょうか?」


「いいんですか!?」


フレイヤ様は嬉しそうに胸の前で手を組み、目を輝かせた。


(まるで……おにぎりを前にしたエレーネさんみたい)


そんなことを思い出して黙ってしまった私を見て、ヴィオレッタ様が口を開いた。


「フレイヤ。あなたの勢いに、ジルティアーナ様が驚いていらっしゃるわよ。

ジルティアーナ様、ごめんなさいね。

この子ったら、クリスディアに行くと決まってからずっと、“おにぎりを食べるんだ!”ってはりきっていたのです」


その言葉に、「えへへ」と照れ笑いを浮かべながら頭を掻くフレイヤ様。


失礼かもしれないけれど……本当に、貴族っぽくない方だな──そう思っていると、やっぱりというか、案の定というか……

私の心を見透かしたように、ミランダお姉様がやわらかな声で言った。


「フレイヤは、アカデミーに入学する前まで、平民として暮らしていたのよ」


「えっ!?」


思わず声を上げた私に、フレイヤ様は少し驚いたように目を丸くしたが──すぐに、気まずさではなく、どこか懐かしさをにじませた笑みを浮かべた。


「……そうなんです。実は私、自分の父親が貴族だなんて知らずに、平民として育ちました。

でもある日、私の祖父母だという貴族が現れて、“息子の忘れ形見だ”って言われて──突然、貴族になっちゃったんです」


静かに語られるその言葉に、私は息をのんだ。


明るくて、少しおっちょこちょいで、でも人の心に自然と踏み込んでくる彼女の素顔──

その背景に、そんな出来事があったなんて。

あっけらかんと話しているが、大変だったに違いない。


「“貴族になる”って決まったとき、正直すごく怖かった。うまく話せなかったし、礼儀作法も知らなかったし。

祖母たちに貴族の常識や作法を教えてもらいましたけど……やっぱり付け焼き刃で。失敗もたくさんしました。

でも──ヴィオレッタ様やミランダ、まわりの方々に助けられて、少しずつ慣れていったんです」


そう語る声は明るく、けれど芯のある強さを感じさせた。


ヴィオレッタ様がやわらかく微笑みながら言葉を添える。


「最初のころは、本当に落ち着きがなくてね。

私と初対面のときには、“とんでもございまへんです”って言って転んじゃったのよ」


「うわぁっ、それはもう言わないでください〜っ!」


フレイヤ様が両手で顔を覆いながら、必死に首を振る。

その様子があまりに愛らしくて、思わずふっと笑みがこぼれた。


……私も平民というか、身分制度なんてない令和の日本から、突然ジルティアーナとして生きることになった。

最初は、戸惑いの連続だった。

けれどリズが助けてくれたし、なによりも──生粋の貴族であるジルティアーナ自身の記憶と、身体に染みついた振る舞いがあったおかげで、どうにか馴染むことができた。


けれど、そういった“下地”すらない状態で、突然貴族になったフレイヤ様は──


「“お金持ちになれる!”なんて安易な気持ちでなった貴族だけど、本当に大変なことばかりで……でも、貴族になれたおかげで、ヴィオレッタ様の侍女になれたんです。感謝することはあっても、後悔はありませんよ!」


腰に手を当て、フレイヤ様は誇らしげに胸を張ってそう言い切った。


そんな力強い宣言に、私は思わず目を見張ったが──

ヴィオレッタ様とお姉様はというと、まったく驚いた様子もなく、ただ呆れたように、それでもやさしい目で微笑んだ。


「……フレイヤは、相変わらずね」


二人の笑みには、深い信頼とあたたかな愛情がにじんでいた。



ꕤ*.゜あとがき+宣伝


更新がなかなかできず、すみません!

夏休み中は、少し更新頻度が落ちてしまうかもしれません……。


そして気付いてる人いる? この話に登場したフレイヤが主人公で、彼女が貴族になった経緯やヴィオレッタ様との出会いが書かれた短編があります!


▶「婚約破棄をしたら、論破され断罪されました。」https://book1.adouzi.eu.org/n9842hl/ #narou #narouN9842HL


未読でも問題ないと思いますが、過去にはこんなことがありました。興味あれば見てみてください。そのうち、王子もでてくる……?


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