表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

236/349

235.あの人の“気持ち”が知りたくて


翌朝。


ミランダお姉様は、まだ静かに眠っていた。


昨夜はずっと気を張っていたのだろう。

ようやく安心できたのか、その寝息は穏やかで、胸がゆるむようだった。


私はそっと部屋を出て、リズとアイリスさんと朝の紅茶を囲んだ。


「……ローランドの不倫相手について、教えてください」


最初に口を開いたのは、私だった。


リズは驚くそぶりを見せなかったが、アイリスさんは一瞬だけ目を見開き、すぐに真剣な表情に戻った。


「ティアナ様……それは、ミランダ様の名誉のために?」


「それもあります。でも、それだけじゃありません」


私はカップをそっと受け皿に戻した。


「お姉様は……きっと、自分の気持ちに折り合いをつけるために、何も言わずに静かに去ったんだと思います。

でも、私はどうしても納得できないんです」


感情がこみ上げてくる。言葉を選ぶ余裕もなく、私は続けた。


「お姉様は“邪魔な存在”なんかじゃない。

裏切ったのは向こうなのに、まるでお姉様の方が悪者みたいに出て行くなんて……悔しくて、腹立たしくて!」


カチリ、と受け皿が鳴った。知らず知らずのうちに、手に力が入っていたらしい。


「私は“義妹”です。法的に何の力もないのは分かっています。

でも、お姉様を守りたい。守る権利くらい、私にあってもいいですよね?」


アイリスさんは静かに頷き、リズは一瞬だけ目を伏せて、そっと顔を上げた。


「……実は、私も納得していなかったのです」


アイリスさんがぽつりと呟いた。


「フェラール家に仕える者として──いえ、ミランダ様の側近として、あの出来事を“なかったこと”にする気にはなれませんでした」


その言葉に、リズも表情を引き締める。


「……ティアナ様、どうなさるおつもりですか?」


「まずは、情報を整理します」


私は背筋を正し、落ち着いて答えた。


「不倫相手の名前、身元、居所……そのあたりは、すでに掴んでいますよね?」


アイリスさんは静かに頷いた。


不倫相手の女性──

ロゼット・トインビー嬢。18歳の下級貴族。


「……18!? 私と同い年!? ローランドさんって、お姉様よりだいぶ年上だったよね……?」


思わず叫んでしまった。


「ローランド様は、今年で32歳です」


リズが冷静に補足した。


──一回り以上も下の子に、手を出したんかい。


内心で毒づきながらも、私は先を促す。


ロゼット嬢の父親、トインビー氏は元平民。

現在は「トインビー商会」という大商会の主で、その成功が認められ、娘が幼い頃に貴族に取り立てられたのだという。


「ミランダ様に忠誠を誓っていたローランド様の部下の話では、仕事を通じてローランド様とトインビー商会長は親しくなり、貴族との繋がりを深めたい父親自ら“娘と仲良くしてほしい”と紹介したとのことです」


……なるほど。

復讐対象リストに、トインビー商会長が静かに加えられた。


「お姉様は、置き手紙だけを残して、話し合いもせずにフェラール家を出られたんですよね?」


「はい、間違いありません」


アイリスさんの返答に、私は静かに頷いた。


「お腹の子のこと。そして、ローランドの“気持ち”も、きちんと確かめたいです」


その言葉に、アイリスさんの眉がぴくりと動いた。


「……ローランド様の“気持ち”、ですか?」


言葉は穏やかだったが、その奥に潜む怒りは隠しきれていなかった。


「お姉様は昨日こう言ってました。“離婚の決意はずっと前から固まっていた”。“夫の行動を密かに調べさせていた”と」


「ええ。確かに、おっしゃっていました」


アイリスさんは眉間に皺を寄せながら、唇を引き結んだ。


「ローランドは、ロゼットに子どもができたことを喜び、産ませるつもりでいるんですよね?」


「そう見て間違いないでしょう」


アイリスさんの顔に、不快と怒りが混ざった表情が浮かぶ。


「お姉様がロゼットとの関係、そして子どものことまで知っている──

それがローランドにとって、どれほど予想外だったかは、想像に難くありません」


「……そうでしょうね」


リズが静かに同意した。


私はゆっくりと息を吸い、笑みを浮かべた。


「ローランドが、お姉様にどんな説明をするつもりだったのか。

そして、ミランダお姉様、ロゼット嬢、さらには──お腹の子を、どう扱おうとしていたのか。

私は、それがとても興味深いんです」


その言葉に、リズが紅茶を一口含みながら問いかける。


「──で、どうやって話をするおつもりですか?」


「正面から行きます。隠し立てはしません。

私はミランダお姉様の“義妹”として、堂々と、聞くべきことを聞きます」


きっぱりと答えると、リズがふっと笑みを浮かべた。


「そうですか。……じゃあ、私からも一つ助言を」


「なに?」


「“怒り”は、剣にはなるけど、盾にはなりません。

ミランダ様のために怒るのは正しい。でも、それを振り回すと、あなたの優しさが見えなくなります」


「……うん」


私は深く頷いた。

怒っている。でも、それだけじゃ足りない。

きちんと話を聞いて、考えて、自分なりの答えを出さなければ──


「それと、先ほどティアナ様は“私は法的に何の力もない”と仰っていましたが──そんなことはありません」


「……え?」


思わぬ言葉に目を見開く。


今度はリズが、にこりと笑って私を見た。


「貴女はフェラール家より上位の、ヴィリスアーズ家の方です。

そして今のクリスディアの領主は──貴女様なのですから」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ