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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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232/349

231.一年後に乾杯を


私は手に持ったピザを口元に近づけた瞬間──ふと、何かに気づいた。

その直後、前に座っていたレーヴェがぽつりと呟く。


「……味噌?」


その言葉に、ダンさんが嬉しそうに頷いた。


「さすがレーヴェ、よく気がついたなっ! そう、このマルゲリータはただのマルゲリータじゃない。

隠し味に味噌を使った“味噌マルゲリータ”だ!」


……いや、“味噌”って名前に入ってたら、もはや隠し味じゃない気もするけど。

──とは思ったけれど、そこはあえて突っ込まないでおいた。


「味噌? マルゲリータピザに味噌が合うなんて、意外ですね」


リズが興味深そうに首をかしげ、一切れを手に取ってじっと見つめる。

その隣で、ステラが不安そうにそっと尋ねた。


「……味噌って、あの……お味噌汁の、あの味ですよね?」


「そうそう。あれをちょっとアレンジして、ソースに混ぜ込んでるんだよ」


ダンさんが胸を張って答える。


「使ったのは白味噌だ。コクはあるけどクセは少なめだから、トマトやチーズの風味を邪魔しないのさ」


「へぇ……」


興味津々のステラは、おそるおそるピザを口に運び、一口かじる。


「──んっ、おいしいっ!」


目をぱっと見開いたその顔には、驚きと喜びが入り混じっていた。

まるで、新しいおもちゃを見つけた子どものように。


「ちゃんとチーズのとろける感じがあって……でも、あとから味噌の香ばしさがふわっと広がって……!

すごく合いますね!」


「そうか、そうか!」


ダンさんが満足げに頷く。その顔は、まさに職人として最高の褒め言葉を受け取ったときのそれだった。


私も一口かじりながら、口の中でじっくりと味を確かめる。


ベースはたしかにトマトソース──なのに、どこか“発酵”の深みがある。

味噌がチーズの塩気と重なり合い、まるで幾重にも重なったコクの層が口の中に広がるようだった。


そこへ──日本酒をひと口。


「……んっ!」


思わず、声が漏れる。


舌に残っていた味噌の香ばしさに、日本酒のなめらかな甘みが重なり、まるでひと皿の料理のように調和する。

互いの風味がぶつかることなく、むしろ引き立て合っていた。


「なにこれ……すごい……」


思わずこぼれた自分の声に、自分でも驚く。

ピザと日本酒──ふつうなら交わらないはずのものが、ここでは完璧な“マリアージュ”を果たしていた。


「これは……ワインより、日本酒のほうが合いますね」


リズがグラスを傾けながら、目を丸くする。


「うむ。これは……料理というより“酒の肴”だな」


レーヴェが二切れ目に手を伸ばしながら、珍しく満足そうな表情を浮かべる。


「白味噌の発酵の香りが、酒の旨みにぴったり寄り添っている。しかも、重たくならないのがいい」


──発酵の香り。とろけるチーズ。炭火の香ばしさ。そして、すっと流れる冷やの日本酒。


すべてが一体となって、喉の奥へと染み込んでいくような、やさしい余韻。


本当に、驚くほど相性がよかった。


 


三人で味噌マルゲリータと日本酒の相性を絶賛していると──

向かいに座るステラが、むぅっとした顔で唇を尖らせた。


「やっぱり……うらやましいです」


「うらやましい……?」


私が首をかしげると、ステラはぷいっと顔を背けながらも、ぽつりと漏らした。


「お酒、です。みなさん美味しそうに飲んでるし……日本酒って大人の味って感じで……。 私も早く、呑めるようになりたいなって……」


その言葉に、場が少しだけ静かになる。


けれど次の瞬間、リズがくすりと笑って、優しく言った。


「ふふ。大丈夫よ、ステラ。あと一年くらいの我慢でしょ?」


「……はい。でもその“一年”が、すごく長く感じるんです」


ステラは、子どもみたいに口を尖らせたまま、それでもどこか照れくさそうだった。


「そりゃあね、目の前で美味しそうに呑まれてたら、そう思うのも無理ないか」


レーヴェが淡々と言いながらも、どこか優しい口調でグラスを置く。


私はくすっと笑って、グラスの中身を少しだけ揺らしながら言った。


「でもね、ステラ。お酒が呑めるようになったら、嬉しいことばかりじゃないわよ?」


「……え?」


「ほら、調子に乗って呑みすぎて、次の日大変なことになるとか……ね?」


「ティアナ様、それ、ご自身の体験談ですか?」


リズがにやりと笑う。うっ……図星すぎる。


「ま、まぁ……ほら! そういう意味でも、いまは“楽しみに取っておく時期”ってことで!」


私がごまかすように言うと、ステラもつられて笑った。


「……わかりました。じゃあ、あと一年くらい、ちゃんと待ちます。 そのかわり、呑めるようになったら──いちばん最初は、ティアナ様と乾杯させてくださいね?」


その言葉に、思わず私は笑顔になって、コクリと頷いた。


「ええ、もちろん。約束よ、ステラ

その時は──最高のお酒と料理を用意するわ」


私の言葉に、ステラは長い耳をぴんっと立てた。


「本当ですか? やったぁ!!

成人の日が、ますます楽しみです!」


 

まだ子ども。でも、確実に大人になっていく彼女の横顔を見て、私はほんの少し、胸が熱くなった。


そしていつか来るその日──

ステラと一緒に、日本酒のグラスを合わせる日が、今から楽しみでならなかった。



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