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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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227.言葉は刃にも、橋にもなる


「……はい」


かすれた声だったが、はっきりとした少年の返事を聞いて、レーヴェはわずかに表情を緩めた。


「現に──お前が“獣人に教わることなんてねえよ”って言ったとき、この方は怒鳴り込もうとしてたからな」


「なっ!?」「えっ!?」「……まあっ!」


レーヴェの言葉に、私たちは三者三様に声を上げた。 先ほどまでの厳しい顔はどこへやら、レーヴェは「事実ですから」とでも言いたげに、にやりと私を見た。


顔がかぁっと熱くなるのを感じたと同時に、目の前の少年は対照的に青ざめ、ステラは──とても嬉しそうに笑っていた。


「ありがとうございます、ティアナ様」


「……私の大切なステラを馬鹿にされるのは、どうしても許せなかったのよ」


私が素直にそう告げると、ステラはますます嬉しそうに笑ってくれたので──まあ、良しとしよう。


「と、まあ……そういうことだ」


再びレーヴェに視線を向けると、彼は真面目な顔に戻り、少年の目をまっすぐに見て語った。


「お前が“平民”の立場にいたとしても、その上には貴族がいて、さらにその上には王族がいる。だがな、俺たちから見れば、とても偉いこの国の王様ですら、隣国の王の前では頭が上がらないことだってある」


その言葉に、少年がごくりと唾を飲み込んだのがわかった。


「幸いにも、ティアナ様も、我らの主──ジルティアーナ様も、今回のようなことでお前を罰したりはなさらない。

だが、ジルティアーナ様に仕えるステラを“馬鹿にした”と見なされたら……ティアナ様たちは気分ひとつで、お前が処分することだって可能だぞ」


「……あっ」


少年は小さく息をのんだきり、何も言えなかった。 そんな彼に向かって、レーヴェはやわらかく微笑み、言葉を続けた。


「もう君が、自分の言葉を後悔していることは分かってる。だからこそ、聞いてほしい」


レーヴェの声には、ほんの少しの優しさがにじんでいた。


「不用意な言葉は、人を傷つけたり怒らせたりするだけじゃない。時に、それが思いもよらない形で自分に返ってくることもあるんだ」


少年は黙って、こくりと頷いた。


「人を殴るなら、殴り返される覚悟を持て。強い想いがあっての言葉なら、それもひとつの責任だ。だが、考え無しに“強い言葉”は──使わない方がいい」


レーヴェはほんの一拍置き、最後に言った。


「誰かのためじゃなくていい。……自分自身を守るためにこそ、軽率な言動は慎むんだ」




──やがて少年は、別れの挨拶をして背を向け、歩き出す。 その背中を見送っていると、彼は途中でくるりと振り返り、もう一度、深く頭を下げてから去っていった。


その姿が見えなくなってから、私はふと口を開いた。


「めずらしく、ずいぶん饒舌だったわね、レーヴェ」


「最近は観光で、他国の貴族がこのクリスディアに来ることも増えました。あの少年がまた軽率なことを口にすれば……今度こそ、本当に処分されかねません」


「……まあ、それは確かに」


私は小さく頷いた。


──ジルティアーナにマニュール家から領主権を取り戻して以来、この街は大きく変わった。 私は“自分が欲しいと思ったもの”を次々と形にしていったのだ。


この世界に来て、まず私が渇望したのは──おいしいご飯だった。

最初は、オリバーさんやミーナの料理を食べただけで感動していた。 けれど、いつしか私は“和食”をはじめとした、日本で慣れ親しんだ味を恋しく思うようになっていた。


人間の欲望とは恐ろしい。 最初は満足していたはずなのに、私の中の“もっと美味しいものが食べたい”が止まらなくなっていた。


私の【錬金術師になろう】システムを使い、こちらの世界では見かけなかった料理をいくつか再現すると、それをきっかけに、オリバーさんやミーナをはじめとした仲間たちと相談しながら、新しい料理を次々と作り出した。


そして一部はレシピを公開し──気づけば、ここクリスディアは“美食の街”と呼ばれるようになっていた。


いまや、その味を求めて訪れる観光客も後を絶たない。 主に来るのは裕福な平民がほとんどだが、最近はお忍び……のつもり、だと思われるようなお貴族様も見かけるようになってきたのだ。 街は変わり、人も変わった。けれど……子どもたちの未来も、きっと少しずつ変わり始めている。



「……もしも」


レーヴェの言葉に意識を目の前に戻すと、彼は少年が消えた方を見ながら続けた。


「万が一、他所の貴族に無礼なことを言って、あの子どもが処分されるようなことになったら……」


そこまで言うと、レーヴェは視線を私に向けた。


「我が主──ティアナ様は、自分の責任でもないのに気に病むでしょう?」


私は、言葉を失った。


──なるほどね。子どもがやったことといえど、ステラに悪意を向けた子に、随分親切に教えてあげるものだと思ったら……まさかの、私のためだったとは。


私は自然に口角が上がるのを感じた。


「ありがとう……レーヴェ」


私はレーヴェを見つめながら、そう伝えると彼は軽く笑った。 だが、彼の背後に時おり見える白いしっぽが、ぱたぱたと忙しなく揺れていた。



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